モロッコ戦
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 守備が強いなぁとモロッコには好感を持ちました。体の使い方が絶妙でファウルにならないように上手に、体を入れていました。ポジショニングが味方同士でかぶることもなく、バランス良く感覚を保っていました。技術は明らかに向こうの方が上。何よりも相手ボランチの絶妙の読みによるパスカット。思わず、モロッコを応援したくなりました。

 逆に日本は、前半の最終ラインが無秩序な慢性ブレイク状態。モロッコのFWにあっさり松田がつりだされてスペースができたり、セットプレーでファーにフリーの敵選手がいたりで、日本側のミスによるピンチがありました。

 1点目の失点は明らかな松田のコーチングミス。民放のビデオを見てみるとはっきりするのですが、ファーにフリーのモロッコ選手がいるのに誰も気がつかない。松田が気がついてやや高い位置にポジションをとっていた中田英にケアするように指示します。中田英はファーのフリーの選手のケアに走りますが、マークについたときにはFKはすでに蹴られていました。そのためFKの跳ね返りのルーズボールが出たときにあいた中田のいたスペースに走り込んできたモロッコの6番が放ったミドルシュートにより失点します。このプレーの問題点を指摘すると、

@セットプレーのマークのズレに気がつかず、フリーの敵を作ってしまったこと。これは、この時点でのキャプテンマークを巻いていた松田のミス。なかんずく、宮本いないモードの日本代表は、毎試合このミスを繰り返しています。ファーはいつでもがら空きです。

AFKが蹴られる寸前になって中田英のポジションを変えさせた松田のミス。単純な話ですが、中田英が動いたらその後がぽっかりスペースが空くと考えなかったんでしょうか。もう一人選手を前線から呼び戻さなければならないとは思わなかったのでしょうか。
 中田英が漫然と立っていたのではなく、相手の利用できるスペースを消していたことは、後半のおわりごろのモロッコFKで同じ位置に立っている日本人選手がいることでも明らかです。(言われるままにポジションを変えた中田英もどうかと思います。松田のコーチングをほとんど無視している中田こを見習って欲しいものですっていっていいのかな?)

 いずれにしろ、宮本いないモードのセットプレーからの失点の危険性は、今後も減らないと思います。この程度のことで宮本の必要性を述べるのは忸怩たる思いがありますが、これが日本の実力なのです。

 また、ボランチとDFの間のスペースが開いていたことは、誰もが目に付くところだったと思いますが、中盤でボランチが一枚だったから中盤でのプレスが効いていないといってしまうとことの本質が見えなくなります。単純に相手の中盤の方が技量が高いため中盤を支配された、ボランチが2枚いないと日本の中盤ではモロッコの中盤に勝てないと言うべきでしょう。最終ラインが低くなってしまったというよりは、逆にDFのポジショニングが低いために中盤が間延びしてしまい、プレスが効かなかったように見えました。

 試合開始直後は、ハーフウェーライン付近や、稀にはハーフウェーラインを越えて最終ラインが上がってきていましたが、11分頃のDFとボランチの間のスペースをつかれ、松田があたりに行くか、ディレイをかけるか迷ったことによるピンチの後にはDFはモロッコの選手が日本陣内でボールを持つとずるずるPA付近まで下がってしまい、クウェート戦と同じように攻めるモロッコとカウンターの日本という構図に陥りました。のみならず、最終ラインは本来のスイーパーシステムとしてフォーメーションを保つことができず、森岡−松田−中田こは(これもスタジアムにいれば毎試合「お約束」になっていることがよく分かります)お互いに相手を無視し、勝手にポジションをとりはじめます。私は、トルシエの意図はセルフオートマティズムを日本選手に植え付けたかったのだと解釈したいのですが、成功しているとはとうてい思えません。

 モロッコは良いチームだと思いましたが、この試合でのFWはそんなに良い仕事をしていませんでした。また、モロッコは全体に引き気味でした。それにも関わらず、日本のDFは低い位置で構えていました。そして、低い位置でDFが混乱してしまうものですから、かなり危ないケースがありました。一見して日本側のシステムはスイパーシステムであるとか、マンマークの4バックであるとかの分類は不可能でした。戦術という枠組みなしで、個人の判断を優先している時間が多く、それは臨機応変にピンチを凌いでるというポジティブなものではなく、むしろ戦術という枠組みをなくすリスクと負担がよく分かるという代物だったといってよいでしょう。

 前半の3バックはDF間の間隔が狭く、ピッチの横幅の半分くらいしかケアできていない時間も多くありました。これは中央の松田が一対一とヘディングを苦手としているため松田の近くに中田こや森岡が絞り、カバーをしないといけないからだと思います。そうするとただでさえ日本代表の弱点と一般にも認識されている最終ラインの両サイドに大きなスペースができてしまいます。このスペースを埋めるため、両サイドハーフはたいへんな運動量を強いられることになります。結局、日本側の攻撃の枚数は少なくなり、モロッコが引き気味なのとあいまって、日本は組織的な押し上げによる攻撃がほとんどできませんでした。トルシエはかつて自分の守備戦術を「5人で攻めてきても3人で守れる」と豪語していたのですが、F3が未熟なゆえに人数でもって守らざるを得なかったというよりも、人手をかける守備に変節しているように思いました。

 松田を使えば、2対1の局面は増えます。2対1の局面ではほぼ確実にボールは取れますが、それは選手の運動量を激増させてしまいます。そのため、肉体的にも精神的にもスタミナ切れとなる時間帯が多くなり、それがピンチに繋がってしまいます。一対一では絶対勝てない。だから守備ではなるべく一対一の局面を作らないようにしようという岡田ジャパンのコンセプトが、W杯の三戦全敗の一因であったと私は考えています。あの時代に戻るというのなら、2年間の日本代表の成長は個人能力の伸びた部分だけになります。それで良いというなら、何も監督はトルシエである必要もないように思います。

 後半、松田の位置に森岡が入って右のDFに中澤が入ると、最終ラインがかなりそれらしくなってきます。中央の森岡は前半とうってかわって両隣のDFとこまめに話をしていました。左右のバランスに不安はあったものの、かなりフラットなラインを形成できていました。しかし中央に寄ることに慣れた中田浩二のポジショニングの悪さはなかなか修正できません。松田を下げた後も中央に寄りすぎの中田こを見かねてベンチに引っ込めたのであれば良いのですが、ああいうポジショニングを許容ないし練習させているのなら、どういう意図がトルシエにあるのかがよく分かりません。

 宮本が入ってからは、本山が最終ラインまで顔を出さなくても済むようになったと思います。後半は前半に比べて、最終ラインがずいぶんフラットだったせいもあって、中盤をコンパクトに保つことができました。そのため、日本選手の意識は明確に攻撃に向き、現象面ではダブルボランチという守備的なシステムになったにもかかわらず、カウンター一辺倒ではなくなり得点につながったのは試合結果の通りです。クレーバー・リベロ氏の後輩氏がいみじくも「モロッコは後半急に弱々しくなりましたね。」とおっしゃっていましたが、私は、「そりゃ、時差ボケでんがな。」とぼけをかましそうになりました。「日本の前半はF3ぼけかいな…、ええかげんにせい!」とつっこみいれてね。  

 それはさておき、メディアとしても「時差ボケでんがな」とぼけを連発することはもはや不可能だと思います。(絶妙のつっこみをいれるサポーターがいないので、メディアも「ぼけつづけなしゃーないやんけ。こっちの身ぃにもなってぇな」と思ってるかもしれませんが。)前半と後半では、モロッコは同じチームといってよいでしょう。2日のクウェート戦でも日本の1点目が決まった時点でクウェートは1人しか選手交代をしていません。前半と後半で別のチームなのは日本でした。

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