王の帰還(オリンピックグループリーグ ブラジル戦 9月20日)
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 王が帰られた。

私は、これ以外にこの試合を表す言葉を知らない。

 仕事の都合で、試合開始までに帰宅できなかった私は、開始20分過ぎからこの試合をTVで見ることになった。そこに見たのは、キャプテン宮本の姿。
 私は、南アフリカ戦の森岡の起用を見てから、オリンピックは18人対18人の総力戦。累積警告、けが人の発生を見越して戦わねばならず、選手層が厚いチームが勝ち残ると思い至った。

 そして、以前から気になっていたJリーグでの土曜日の次の水曜日の試合での宮本のパフォーマンスの低さ。宮本は充分休ませないと使えない。ひょっとして宮本はまだ完全にケガから回復していないのではないか。
 森岡のタスクはグループリーグで宮本を休ませて、勝ち残ること。日本のベストの守備を見せないこと。これではなかったのか。

 日本は、最終予選であれほどしつこくやっていた、ファーの下がり目の選手に合わせて、ボレーシュートを打たせるセットプレーをやっていない。まだ、手の内をさらすべきではないのだ。
 でも、ブラジルの思わぬ南アフリカに対する敗戦から、この日のブラジル戦は期せずして真剣勝負の場になってしまった。本来、望まぬ形ではあるけれども、宮本を出さざるを得ないのだ。論理的にはそう結論できると言い切る自信は、ある。しかし、ひょっとして、いやいや、やっぱり…。

 ピッチに立つキャプテン宮本。やっぱり、わたしの分析は間違っていなかったんだ!
 でも、TV画面で見る宮本のF3はボロボロ、ゾーンは保てない。DF3人の間隔はまちまち。ブラジルにいいように攻められる。私は、こんな宮本を見なければならないのか。

 しかし、25分を過ぎた頃からオフサイドトラップが、かかるかかる。ナーバスになって次第に攻められなくなるブラジル。30分すぎると「あっ、この試合勝てる!」日本の圧倒的な攻撃を、安心して見ていられる。
 特に印象に残ったのは、中村の巧みな挑発。後半ゴール正面で得たFKで、審判の見ていないところで、ボールをひょいと前におく。「そんなに前じゃない!」いらいらしたブラジル選手が審判に抗議してイエローカードをもらう。審判がもう一度ボールの位置を確認したときには、中村はボールを既に後ろに戻して、そ知らぬ顔をしていた。私は、マリーシアは嫌いだが、ブラジル相手にこれだけ余裕のあるプレーをしていた中村には感服した。そして、その日本チームの余裕を引き出した宮本の堅い守備。たしかにいくつかのパスミスはあったし、未だ完璧とは言い難い。

 でも、あえて私はいいたいのだ。王は帰られたのだ。今までの日本ではないのだ。
 試合は、酒井や高原のようにかなり疲れが見られる選手もいたし、スロバキアの後半の健闘の情報が入ったようで、後半25分ぐらいから日本の攻めはスローダウンした。後半ロスタイムの楢崎のプレーは明らかな時間稼ぎ。日本が本当に攻勢に出ていたのは前半25分から後半25分の45分間でしかない。スロバキアが2点目を入れてから以降は、この試合は決勝トーナメントの相手をにらんで、日本にとって負けなければならない試合になってしまったのだ。
 収穫はあった。王は長い航海を終えて帰られたのだ。サッカーを見ていてオデッセウスの帰還をみれるなんて。わたしは、スタンドにいなかったことを今日ほど悔やんだことはない。

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