立つということ。歩くということ。 |
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日常生活の中で人間が立つ場合、両膝を伸ばして両足をぺったり地面につけて立っていることだろう。この立ち方では重心は土踏まずから踵の方に(つまり後方に)かかっていてバックバランスになっていて、体がぐらぐらするし、安定がすこぶる悪い。横からの衝撃や、特に前方からの衝撃に弱く簡単に倒される。むしろ、膝をやや曲げ、親指の付け根に重心をかけやや前屈みかな?と思えるぐらいにした方が、体は安定する。指で地面を掴むようなイメージで立つと更に安定する。宮本のディフェンスでの立ち方を見ていると、まさにそうなっていて実に理にかなっているなあと思う。 なかなか倒されない立ち方だ。 立っているときのつま先の向きにも注目してみたい。フル代表のサッカー選手の中には、ごく少数ハの字型に立つ選手がいるが、これってまずいんじゃないかと思う。まず、ハの字型に立ってると、踵に重心がかかってしまうので、走り出すときの予備動作として踵からつま先へ重心移動が必要となるから、つま先を平行にして立っている場合に比べ(この場合は重心はハの字型より前よりになっている)、動き出しがワンテンポ遅くなる。つまり、1対1で抜かれる原因になると思うのだ。 ハの字型で立つことにはもう一つ弱点がある。ハの字型に立ってボールを蹴るとき、ディフェンスでボールを取ろうとして足を延ばしたとき、つまり軸足1本で立つときに膝がどうしても体側よりも外側に出てしまう。これは足の裏から頭のてっぺんまでの体の重心の縦のラインから膝が外側に抜けた状態になっているわけだから、踏ん張りがきかず、横からの衝撃に極めて弱い。トラップの瞬間に体を寄せられたら、いくら体格が立派でも負けてしまうだろう。 蛇足だが軸足の立ち方でもう一つ付け加えておこう。フル代表や五輪代表で片足を伸ばしてボールを取ろうとするとき、バランスを取るため、上体を後ろに倒して前に足を出していることが多い。でも、軸足でしっかり立って上体をまっすぐにしてやや膝を曲げて足を前に出した方が、出し足を自由に動かせるんじゃ無かろうか。アフリカ人の足の出し方を見ていると、上体が後ろに倒れていても、ひざが柔らかく曲がっていたりする。彼らの足が予想外の所にニュウと出てくるのは何も足が長いからばかりではない。しっかり立っているからだ。 歩く若しくは走るという動作の中にも、いろいろ考えてみることが多いのだ。日常生活でふつうに歩いているとき、右足から左足に乗り換える、体重を移動させるということをやっている人はほとんどいないだろう。日常生活で人間が歩くときは右足から左足に倒れ、つっかえ棒として左足を使う。また、左足から右足に倒れ、つっかえ棒として右足を使う。の繰り返しである。つまり、にわかには信じられないが、歩くという行為は日常生活では倒れ続けるという行為に他ならない。これだと右足にも左足にも体重のかかっていない所謂中間バランスの時間が長いため、サッカーではまずいことが多いだろうな。右足に立ち、右膝を曲げて上体を前に押し出して同時に左足を伸ばして、ぎりぎりまで右足に体重を乗せ、一瞬で左足に乗り換える。これが出来れば、一つのストライドで信じられないくらい前進できるし、上体は安定する、さらに、左右からの衝撃にも強い。 キックという行為を歩くという行為のバリエーションと見るならば、軸足にしっかり立っていないと、けり足が使い切れないし、体全体が安定しない。例えばシュートをふかしてしまったり、パスミスをする原因になると思う。荒井義行氏がかつて平成意見箱で述べられていた軸足でしっかり立つということの重要性に私も思わずそうだろうなあと思ってしまう。外国の選手は軸足にしっかり立ってキックしているのだそうだ。軸足にしっかり立つということはふつうに生活しているだけでは身に付かないことだが、訓練すれば習得可能だから、フィジカルや身体能力、民族的、人種的な理由ではなく、選手の育成のノウハウに秘密が有るんだろうな。荒井氏も小野伸二は軸足にしっかり立っているというように日本人でも出来ることだ。 また、走る際にも、がに股で大きく膝と肩を揺すりながら走る選手がいるが(しかも足が速いといいわれてたりする)、 体を無駄に使ってスピードを殺す走り方ではないのか。彼らはスピードに乗れる100mは早くても、2mや5mの短い移動では、むしろ遅いのではないか。 人間の生活の中の基本動作の立つ、歩くという動作を考えてみるだけでもこのようにいろいろな問題が見えてくる。人間は立つ、歩くという動作でもいろいろな問題点を抱えており、訓練によって自分の体の動きを修正していかなければならないのだ。 宮本のやや前屈みになって重心を体の中心に据え、膝を曲げ、両足のつま先を平行にして、地面を指で掴むようにしてステップを踏む姿を見るとき、理にかなった立ち方だなあ。当たられても強そうだし、動き出しも早そうだ。と思う。 私は、宮本の身体データをガイドブックで見た身長、体重以外に知らない。(それすらいつのデータか分からないが)しかし、スタンドで見た宮本は到底1対1に弱いとか、身体能力が低いという印象にほど遠い。自分の身体を非常に合理的に使っているし、ヘッドで負けることもほとんどない。 むしろ、他の大柄で身体能力が高いといわれる選手が、1対1をあっさり抜かれたり、ヘッドで競り負けたりすることは、自分の体を使えていないからじゃないかと思うのだ。選手を見るときには、その体の使い方にも注目すべきだろう。足の裏をぺったり付けていれば、倒されやすいし、ハの字型になっていれば動き出しが遅いだろうし、1対1にも弱いかもしれない。 それ以外にも、ヘッドが強いといわれる選手の中には、空中でボールに頭だけ差し出して、お尻を後ろに尽きだした姿勢のため、上半身の力だけで相手と競り合うことになってしまい、ほとんど実際には、ヘッドで競り負けている選手がいる。 ことほどさように選手の身体イメージと実際のプレーは一致しない。人間の身体というものも、見かけ上の大きさ強さがそのままピッチ上のサッカーのプレーで発揮されるわけではない。理にかなった立ち方、歩き方、走り方という基本動作がしっかり出来ていることが重要なのだ。 |