トルシエジャパンが、今、最も必要としているもの |
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2000年12月19日、20世紀最後の日韓戦の前日の時点でトルシエが最も必要としているもの。否、宮本がいない代表で最も必要とされているもの。それは、強力な左右のサイドバックだ。 トルシエが、来日当初標榜していたF3、ナイジェリア、五輪最終予選時点でのサイドの選手は本山、酒井、中村、明神など、サイドハーフといえる選手だった。彼らの共通項は、原則として前目のプレーエリア。サイドからゲームメイクの出来る攻撃の起点といえる選手。 ところが、トルシエジャパンのサイドの選手の役割は、五輪本戦では明らかに変化している。サッカーダイジェストで荒井義行氏がいみじくも「前半は5バックで守る」と語っているように、サイドの選手は5バックのDFとしての役割が最も主要なものとなっている。 この傾向は、実はソウルで行われた日韓戦で早くも顕れている。トルシエのサイドを任された2人の本職をボランチとするサイドハーフ、名波と望月はゴール前でのヘディング、2人のストッパーのカバーに奔走し、さながらサイドバックの選手のよう…、今から思えばサイドバックにほかならなかった。 なぜこのような現象が起こるのか。私は次のように考えている。松田、森岡をセンターとする3バックは、スイーパーシステムに他ならない。スタンドで観戦するとハッキリ分かるのだが、松田、森岡の最終ラインは宮本のそれよりハッキリ低く、特に、攻め込まれると全くあげることが出来ない。そのため中盤の選手は広大なプレーエリアをカバーしなければならず、とりわけ、サイドの選手はピッチ全体を上下動する事を強いられるのみならず、殆どの時間帯を自陣ゴール前でのボールクリアに費やさざるを得ないのだ。 オリンピックでは、中村は、攻撃よりも守備で目立っていたが、彼のポジションは明らかにDF登録のサイドバック、むしろ、相馬にこそふさわしいポジションだった。オリンピックの中村は、3人のセンターバックがお互いに接近しすぎるため、本来ストッパーが存在するべき位置にポジションする事になり、完全なサイドバックと化していた。トルシエがオーバーエイジに服部、三浦という体力(持久力)のある左サイドの選手をリストアップしていたのも偶然ではあるまい。アメリカ戦で本山がとうとう使えなかったのも、根っこはこのあたりにあったのかも知れないと私は思っている。 それと、中村と松田の同じクラブの選手とは思えない相性の悪さにも注目したい。松田を3バックに起用した場合、松田は殆どの時間帯消えていることをプレースタイルとしているため、彼の位置するゾーンは必然的に空白になっている。クラブでは、小村と波戸の2バックが他チームのFWに対して相対的に強力なため、カバーできているのだが、3バックが一人もあまれないトルシエの3バックでは空白となった松田のプレーエリアに他のセンターバックが吸い寄せられ、そのセンターバックがいなくなった空間をサイドの選手がカバーするスタイルとなっている。そのため、松田をセンターに配置した場合、両サイドには守備を得意とするサイドバックタイプの選手を必要とするのだ。このようなシステムで中村をサイドに置く居場所が作れるのだろうか。私は、韓国相手でも松田と中村の併用は本質的に好ましくないと考える。 松田が攻め上がりを得意としているのも、偶然ではない。マリノスでは元々殆どの時間帯2バックとなっているため、松田がディフェンスからいなくなっても影響がほとんどないのだ。それに対し、代表では、松田もDFとしての仕事が求められているため、攻め上がることは殆ど出来ていない。事実、松田の攻め上がりは代表レベルでは彼の特徴とはなっていないし、今後もなることはないだろう。 松田、森岡の3バックシステムに置ける後ろに引きずられたような、バランスの悪い布陣の問題点は、このチームの失点の多さに如実に現れている。はっきり言おう。現在の代表の最大の弱点は3バック、そして、そこから起こるバランスの悪さだ。バランス重視のトルシエ日本がバランスの悪さをさらけ出す皮肉な結果となっている。 このチームの問題点を解決する方法は2つある。一つは強力な左右のサイドバックを見つけること。一人はすでに見つかっている。ガンバ大阪の新井場だ。強力な攻撃力と守備力。彼が今のところ日本一のサイドバックであろう。1対1にも強く足が速く、ゲームメイクもできる。現トルシエ日本の攻撃力を落とさず守備力を上げるには彼しかいないだろう。ただ、持久力の強さは未知数だ。彼に比べると、市川はワンランク落ちる。ドリブルのテクニック、1対1の守備ともに新井場には及ばない。テクニックでは酒井と言うところだろうが、パスの選択肢の少なさ、ボディコンタクトの能力の低さが気にかかる。明神は、技術的にかなり落ちるため攻撃の選手としては今ひとつという見解を私は持っており、現代表のサイドとしては役不足。また、パスが短くサイドチェンジがほとんどないのも評価が低い要因となっている。結論的には、日本は新井場以外に有能なサイドバックを見いだしていないと考える。むしろ現時点では名良橋を召集しても良いのではないかと思う。 もう一つは宮本をセンターバックに固定し、宮本のチームをデザインすることだ。これは、根本的に問題点を解決することが出来る。宮本型正調F3を採用することにより、サイドの選手の選択肢はぐっと増えるのだ。本山、中村、名波、明神、酒井などは宮本の高いラインのF3であれば十分機能する選手だ。宮本ならば、スペースを広げたいときにはラインを下げ、また、守りたいときにはラインを上げ、あげっぱなし、下げっぱなしということがない。宮本を起用することにより、代表で使える選手はかなり多くなることだろう。ただし、オリンピックの中田浩二の真ん中に寄りすぎるポジショニングが修正できなかったように、(そのためこの試合でも中村はサイドバックだった)即効性は期待できず、ある程度の時間と各選手の戦術理解が必要なのだが。 結論的にいうならば、Mr.MIYAMOTO、日本はあなたを待っているというところだろうか。 |