首振り
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かつて私は「強いことで前を向ける、上手いことで自由になれる。でも・・」( 5月16日(火) 0時2分 )という題名でトルシエ毀誉褒貶に書き込みをしました。そしてその中で「首振りとゾーンディフェンスの状況判断」について、以下の通り触れています。

『・・・ゾーンディフェンスでゾーンをケアするのは単にゾーンの真ん中に位置するということではありません。対人プレーだけに縛られず刻々と変化するボールの向き、敵味方の位置と枚数、ゴールとボールとの距離、方向を情報処理して自分の行動を決める必要があります。その結果DFにとっていえ人間にとっても本能的な動きと乖離した動きが必要となるケースもあります。・・・フル代表ではまだ物足りないのですが、こういう対敵を基準とした少ない情報で行うオートマティズムは大人になってからでも身に付きやすいでしょう。けれどもう一歩進んでオフサイドを取りに行く、或いはサイドのDFが抜かれたあとの対応をどうするか?というあたりになると処理すべき情報量はぐんと増えます。例えばエリア内でなおゾーンで守るのか、それとも人に付くのかとか選択肢も増えてきます。ここで、判断の精度を上げようと思えばできるだけたくさんの情報を読みとって、判断することだと思います。その為には周囲の状況をこまめに確認するクセがまず必要だと思います。首振りは何も中田ヒデの専売特許ではありません。・・・

 では現在の実態はどうでしょう?フル代表に限っていえば、周囲の状況を確認するための首振りの回数が足りていると思うDFは極めて僅かです。(たとえ高度なオートマティズムが身に付いていても見ないことにはどうにもならない)特にプレー中の首振りは極端に少なくなる傾向があります。眼前に敵が来たらそうそう目は離せません。目が離しにくい距離になるまで事前に首振りが出来てる選手は本当に少ない。ただ敵と走ってるときも車の車線変更のときにサイドミラーを覗いたり目視したりする程度には見てほしい。このあたりでオートマティズム論は現フル代表ではどれぐらいやれるようになるのだろう?という疑念がまずあります。だったら状況確認をするために首振りを励行したらいいじゃないかという意見もあろうかと思いますが、今まであまり見てなかった選手がいきなり首を振って見るようになっても情報量が増えた分処理が追いつくのだろうか?という問題があります。判断のスピードや精度にかえって支障がでると私は思います。・・・』

首振りは重要な動作です。しかし、選手のポジションによってあるいは能力によって首振りの大きさと回数には、明らかな差があるようです。まず比較的分かりやすいのがポジションによる差です。GKが一番少ないのは当たり前。そして一番多く首を振る必要があるのは中のMF。これらはプレイエリアの関係で、自ずと決まってくる部分です。GKのプレイエリアは、ほとんど視界の中です。逆に自分の背後にもプレイエリアが広く、全方位を感知する必要が一番高いのが中のMF、とりわけ攻撃的MFではないかと思うのです。

さてJリーグの中で選手個々を見ると、ジェフの阿部の首振りの頻度はボランチでありながら突出していると思います。阿部に比べると稲本や酒井でも首振りの回数は落ちます。しかし阿部の首振りの回数の多さが、プレーに対する良い影響を与えているのは守備面よりもむしろ攻撃の面で大きいのではないかと思います。

DFの首振りの必要性は、状況によってずいぶんことなります。どのフィールドプレイヤーにも共通する大事なことは、必要な時に必要なモノを見るための「首振り」です。必要なモノ(スペース、人、ボール)をみるために、それがどこにあるのか探すためには全方位を見る必要性もときにはありますが。けれどボールが高い位置にあるときで、敵のFWが遠くで守備に参加をしているような局面では、首を振らなくても必要な情報はだいたい見て取れるでしょう。この例は極端にしても、DFにはそもそもMFほど大きなアクションの首振りの必要性は少ない。そしてDFにとって一番首振りが必要な局面は、敵と走りあっているときや、自軍ゴールに向かって戻りながら守備をしているときだと思います。しかし、目前の敵やボールから目を離すのはとても怖いことだと思います。優秀なFWならDFが首を振った瞬間を狙ってくるはずです。このあたりのさじ加減は本当に難しいことでしょう。だから走りはじめると、首振りが皆目できなくなるDFがほとんどで、(代表的な例が松田。彼は、不必要なときには首を振るようになりましたが、ココゾッという危険シーンではとにかく首がフリーズするDFです。)それではラインディフェンスなんか無理ということになってしまう。代表戦だけでも良いから、宮本を注意深く見ればそれはよく分かる。

さて私が未来の日本を推し量る指標のひとつにしてるガンバユースの今年の首振り状況はといえば、阿部ほど目立って首振りの多い選手はいない。阿部はスーパーな選手だと思っていますが、首振りの回数を以てのみ阿部がスーパーな選手だとは言えません。首振りの先にあるプレーの実効性こそが、選手の評価基準です。話し戻ってガンバユースの首振りですが、必要な時には必ず首を振っています。TVで見た限りの高校選手権の試合に比べれば、ガンバユースの首振りは多いのですが、阿部に及びません。が、「見てなかったから、やられたな」と感じたシーンは私の見た限りなのですがありませんでした。

どうしてガンバユースの選手が、少ない回数の首振りで事足りるのかというと、首振りが必要な時がいつか判断でき、そして何を見るべきかがしっかり練習で習得しているからだと思います。阿部にその二つの能力がないとも思えませんが、中田ヒデ同様阿部の首振りには敵の急所やスペースを”捜している”という風情が強いように思えます。そして阿部も中田ヒデも味方に危険なスペースを見つけたら、それを埋めることもできます。

何のために首を振るのか?そして何を見れば良いのか?そして判断力と戦術理解力が伴わなければ、首振りにはあまり効用がありません。その選手に多くの未来が開けているかどうかはともかく、むしろ多くを見ないでマンマークをした方が安全な選手だっています。子供に首振りの励行をするにも、それと並行して何故見るのか?どこを見るのか?見たらどうするのかを教えることが必要になります。聡明な選手なら自分で必要性を感じて自ずと首をふるのでしょう。宮本が「小学生にF3は無理」と言ったようにF3も同じ事で、子供にやらせるのは無理があると思います。バイエルからはじめるように、マンマーク→ゾ−ンディフェンス→ラインディフェンスと段階を踏んで教えて行くべきだと思います。高校年代で首振りとゾーンディフェンスが血肉となっていれば良いのではないでしょうか。

首振りの習得年代は高校生以上で充分可能ですし、それぐらいの年齢にならないと習得できません。首振りには、「首振りスキル」や「柔らかい首回し」などは必要ありません。関西のある名門クラブの指導者はルックアップによる状況判断は、ある程度戦術が理解できるようになってから、させればよいと言っていますし、首振りには「ゴールデンエイジ」も「絶対首振り感」も存在しないと言っていいでしょう。
首振りは、極めて戦術理解と近しい、状況判断を戦術に昇華させるための大人の頭の技術なのです。現在23歳にもなってA代表のキャプテンも任されながら、首振りが出来ないため、必死で首振りに取り組んでいる選手がいます。私は、決定的なピンチになればなるほど首の振れない彼のプレーは到底ものになっているとは思えませんが、(この選手の場合は首振り以前に状況判断と戦術理解が出来ていない。)やろうとしていることの方向性は間違っていないと思うのです。首振りは戦術理解と状況判断能力が優れていれば大人の30歳以上の選手でも十分手に入れられる技術です。

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