論理の飛躍と論証課程のわかりにくさ
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 好個の事例を見つけたので、分析してみる。

 事例は「ストライカー2000年11月号」の”今月の顔宮本恒靖”(以下A資料とする)と「ストライカー2001年2月号」の欧州時勢”欧州”を感じた国見サッカー(以下B資料とする)ともに、伊藤庸夫氏の文章である。伊藤氏はロンドン在住でB資料によれば、久しぶりに帰国して、セカンドステージのジュビロ対ガンバを観戦したそうである。

 前提として、伊藤氏は、欧州で行われた代表戦1試合以外、日本国内のリーグ戦及び代表戦を生で観戦する機会は、ここ1、2年ほとんどなかったと推測して良いであろう。また、伊藤氏が欧州時勢という連載を持っていることは、逆に日本の国内のリアルタイムの情報に疎いことも推測できるのである。

 この前提に立ち、まず、A資料を分析してみる。A資料は宮本のウエストハム移籍問題を論じたものであるが、構成は英国大衆紙の宮本揶揄からはじまって、ウエストハムのチーム事情、宮本の評価を「どれだけ対応できるか疑問」とし、ウエストハム監督の営業への期待と続き、宮本が「単なるコマーシャルボーイ」に終わらないことを祈るばかりとむすんでいる。

 この構成は、極めて異常なものだ。カズや中田、名波にはじまり前園や武田、森山、かつてこれほどあからさまに役に立たないだろうと書かれた選手がいるのだろうか。寡聞にして私は知らない。少しでも気の利いたジャーナリズムの書き手であれば、自らの意見がどうあれ多くのファンの存在も慮かって、エールで締めるのではなかろうか。「コマーシャルボーイ」で結ぶ構成には、首をひねらざるを得ない。伊藤氏は、なぜ、このような異常な構成を取られるのか、どこにも説明がなされていない。

 さらに、おそらく生で宮本の活躍を殆ど見ていないであろう伊藤氏は、宮本をして「線の細い」と形容されているが、何を根拠にそう述べられるのか?そもそも、他の選手と比較されたことがあるのか?酒井友之が吹っ飛ばされた李東国をこともなげにはじき飛ばし、松田直樹が吹っ飛ばされたボリビアの9番をこれまたはじき飛ばした宮本のプレーは見ておられるのだろうか。単なる身長体重の数値データと身体能力信仰からはじき出された憶測に過ぎないのではないか。さらに「線が細い」ことを前提に「バックアップとして活躍できる可能性」があるが「どれだけ対応できるか疑問」とされることは、推論に推論を重ねる砂上の楼閣に過ぎない。伊藤氏がどれほどプレミアリーグに詳しくても、宮本の能力を量る材料を持ち合わせておられるとは思えない以上、妥当な結論か疑問である。少なくとも、材料を提示していただかないと信じられないというのが妥当な解釈であろう。あわせて、他の日本人選手についてどう思っておられるのか。ウエストハムが松田、森岡にオファーを出さず宮本を選んだことに対する説明がなされなければ、バランスを欠くというものだろう。 

 次に、B資料を分析する。ジュビロ戦はガンバの各選手の調子が極めて悪くモチベーションも低かったことは衆目の一致するところであろう。ここにおいて、伊藤氏は、稲本を「ミスパス」を連発し、プロとしての代表としての自覚のない選手と酷評し、宮本については、「中山のドリブルについていけず、肉離れを起こし途中退場する始末」と嘲笑するのである。

 これは、明らかな論理の飛躍である。まず、1試合みただけでなぜ、選手を酷評できるのか。これでは、1、2試合生で見ただけでセリエAはとか欧州はとかいっている半可通と同じ態度ではないか。あまりにも、強引な結論の導き方ではないか。自分の論拠に都合の良いデータだけ使っているという批判にはどう答えられるのだろうか。代表戦の3試合に1試合程度の割合で調子の悪い試合や無様な試合のある松田などは、伊藤氏に言わせれば箸にも棒にもかからないとでも言うことなのだろうか。

 さらに、宮本の肉離れの原因を一足飛びに中山のドリブルに付いていけなかったからと言えるのか。いかにも、論証課程が不明確である。調子が悪いのに無理をしたからと捉えるのが妥当なのではないか。肉離れを起こしたから「プレミアリーグでやるのは難しい」というのは、一体どういう論法なのか。公平な観察者ならば1試合(しかも約20分程度のみ)しかみていないのであれば、調子が悪かったのかも知れないと、態度を保留し結論を先送りするだろう。

 わたしは、ジュビロとガンバの試合をすでに3年ほど見ているが、宮本の「中山さんみたいなタイプは苦手」というコメントにもかかわらず、宮本が中山を苦手にしていたり、ドリブルで振り切られるシーンは殆ど見たことがない。伊藤氏においても何試合か見た上で判断するのが合理的というものではないのか。不特定多数の人の目に触れる文章を書くに当たり、論証課程に疑問が投げかけられるような文章をモノされるのは、無責任のそしりを免れないだろう。

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