ボディシェイプは体の向きのことなのか
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 ボディシェイプとは何なのか。最近の例では評論家の永井洋一氏は『絶対サッカー主義宣言』において「ボールを受ける時の身体の向きは『ボディ・シェイプ』といい」と記述し、一般的な理解としてボディシェイプ=体の向きと理解されていることはほぼ、間違いないであろう。ネット界でも常識として語られているのではなかろうか。

 ところが、近畿圏内において最も優れた指導者を有しているであろうと思われる大阪北部、その中の名門クラブ高槻FCのホームページの「PANORAMA概念化はぴったしの言葉で」において「その言葉(=ボディシェイプ:筆者注)が何故にプレイヤーの<体の向き>を意味するのか理解できないのである。」と述べている。これはいかにも、当然の疑問ではなかろうか。ボディシェイプなる英語を辞書で引いてみても、「体の向き」という訳語を当てることはおよそ不可能であろう。「体の形」という訳語しか付けられないのではないだろうか。本当に、ボディシェイプとは体の向きのことなのか。

 そもそも、ボディシェイプとは、サッカーのトレセンを改革した加藤久以下、田島幸三、小野剛等の「学究」たちが持ち込み、JFAの強化指導指針にも取り入れられて広く普及したと言われている。日本サッカーのとりわけ若年層の指導において極めて重要なキーワードであったにもかかわらず、私は、この言葉の意味は誤解されていると考えている。 「学究」達の一人小野剛は『クリエイティブサッカーコーチング』83Pにおいて次のように述べているのである。「ボディシェイプとは、ボールを受けたときの体勢、すなわち身体の向きや姿勢、顔が上がっているかどうかといったことを含む言葉」と明確に記述しており、ボディシェイプとは身体の向きを含む身体の形を表していることは明らかであろう。更に補強するならば、ボディシェイプという言葉は社交ダンスでも身体の形、ひねり、姿勢を総合的に表す用語として使われていることもあげても良いだろう。

 では、なぜ、ボディシェイプはとりわけ一流の専門家達の間で身体の向きと誤解されたのか。小野は『同書』92Pにおいて「良いボディシェイプをとり、ボールと攻撃方向を同一視野に入れることができれば、味方の動きやディフェンスのポジションなど、判断に必要な情報を手に入れることができ、様々な駆け引きが出きるのです」と書いたため、ボディシェイプの目的はボールを受けるときの視野の確保=視野を確保する身体の向きがボディシェイプと理解されてしまったのであろう。

 この、誤解を引き起こした原因は、主として小野達JFAの情報発信者の側にあると私は考える。『クリエイティブサッカーコーチング』はJFAnewsに連載され幅広い影響を現場の指導者達に与えた著作であるのだが、私のように、社交ダンスの経験者やガンバユースの観戦者で3次元のビジュアルとしてグッドボディシェイプをみたものでなければ、失礼ながら、およそ理解できないであろう。著者の記述の努力にも関わらず、2次元での平面的な理解=身体の向きは比較的分かりやすいのだが、3次元でのビジュアルでの身体の姿勢(例えは肩は開くのか閉じるのか、身体はひねっているのか、つま先はどちらを向くのか、重心はどこにかかるのか、腕の使い方は等)がボディシェイプの概念の一部として理解しにくいのだ。私は、この著書は大手サイトで好著として紹介されたものであるが、それにもかかわらず、この本を読んで即座に指導に活かすのは難しいのではないかと思う。具体的な身体の使い方が果たして十全に分かるのだろうか?

 例えば高槻FCのホームページのコラムではJFAnewsとともにガンバユースの練習ビデオの効用をあげておられ、高槻FCではガンバのビデオを見てボディシェイプと姿勢との関係を理解された経緯が伺われる。

 わたしは、実際の選手の指導において加藤、田島、小野氏等がどの程度の効用を持つのか疑問に思う。概念としてのボディシェイプを現実の指導に活かした事例を各年代の代表等では見ることができず、ボディシェイプの実態を掴むには西村監督の98年ガンバユースを待たねばならなかったからだ。我が国においてグッドボディシェイプが実現されているのは、西村、上野山、高橋氏等の指導したガンバユース、その影響を受けた高槻FC等の関西のクラブ、草津東等の高校の近畿圏のチームだけであろう。それに、西村監督の指導を受けたU20代表がようやく初歩的ながら追いついてきた程度と思われる。トレセンの学究達は自らの理論を指導に活かすことが本当にできているのか。

 蛇足ながら、上野山氏が新聞紙上で相手の蹴り足をめがけて蹴るように指導しているという発言も、『クリエイティブサッカーコーチング』92Pで「受け手の右足を狙ってパスを出す」と明記していることと対応していることも付記しておこう。決してガンバユースは特殊な指導をしているわけではない。単に王道を歩いているだけである。更に付け加えるならば『クリエイティブサッカーコーチング』の 初出であるJFAnewsは93年からの4年間の連載である。それに先立つ92年にガンバユースは発足しており、1年生だけのガンバユースは早くもクラブユースの全国大会で4位の好成績をあげる。ガンバの下部組織は釜本FCが母胎であったことは、知る人ぞ知る事実であるが、中央で評価の高い「学究」の提言に先んじて、既に実践者が存在したことを指摘しておこう。 

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