極めて小さな、しかし、大きな差
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 サンドニでのフランス戦において、トルシエの採用した戦術は、その戦術を担う選手の人選の失敗にもかかわらず、原点回帰を思わせるものであった。

 彼の作戦は、高い位置でのフラットライン(=オフサイドライン)の形成、それに伴うコンパクトにされた中盤での戦いを凌ぎきり、スコアレスドロー、あわよくば、1−0で勝利を拾うというものだったのでは無かろうか。戦術の系譜としては、五輪壮行試合の2試合−五輪本戦のブラジル戦につらなる比較的(あくまで比較的に過ぎないが)正調F3に近い戦術が採られていた。

 最終ラインは、ただ1度きりであるが、ハーフラインを超える位置にまで押し上げることができた。フラットラインは、不完全ではあるがそれなりに機能はしたのである。開始10分ぐらいまでは。(私は、松田は絶好調だったと思う。この試合を松田のベストマッチにあげたい。)

 トルシエの最大の失敗は、3バック選手選考のミスであろう、松田、森岡、服部は連動するラインディフェンスとしてはあまりにも未熟で、3人の身体の向きがバラバラ、ラインを下げている局面で一人だけ上がっていく等の不統一が随所に見られ、ついに一度たりともラインになることはできず、明確なオフサイドラインを形成することはできなかった。 このため、たまりかねたトルシエは、後半に3バックのうち2人を替えるという、通常あまり見られない交替をせざるを得なかった。宮本とのF3ラインに慣れた中澤と中田浩二は3バックをやや立て直し、より、ラインに近いディフェンスを見せたが、既に大勢は決した後であった。

 トルシエのゲームプランはおそらく、高い位置でのオフサイドラインの形成によりフランスの攻撃を遅らせる、乃至、諦めさせつつ、中盤でボールを奪い攻撃に転じるというものであったと想像できるのだが、3バックはオフサイドラインを形成できないだけでなく相手FWとの駆け引きも一切放棄してラインをずるずる下げ続けることに終始する。

 ラインになれないため、オフサイドを利用した駆け引きができないため松田が行ったプレーは2種類あった。一つはフォアチェックの多用である、高い位置でボールホルダーがボランチとDFの間に入り込んでくると、松田がチェックにはいる。これは、前後半を通じて何回もあった。しかしながら、すべて、一発でかわされて、相手ボールホルダーに触れることすらできず、何の役にも立たなかった。これは、松田が足を門にし、ハの字に開いてお尻に体重を乗せて構えるため、その場から動くことができず、ちょっとボールを右足から左足に持ち替えるだけで、いともあっさり抜くことができるからであり、松田の守備技術の低さに起因している。典型的なのは、後半アンリにフォアチェックを試み失敗してデュガリーにパスを出されシュートされるシーンであるが、実にあっさり抜かれた松田はその場から動けないのでアリキックをアンリにしかけている。

 (松田はJリーグでもガンバ戦のニーノ・ブーレ、グランパス戦のウェズレイと2試合続けて、足を門にすることによってあっさり抜かれる愚を繰り返しており、もはやJ1で通用しなくなるのも時間の問題と思われる。)

 もう一つのプレーは、これもしばしばあったのだが、フランス選手がボールを持って前を向くと一目散にスイーパーの位置に入ってしまうので、オフサイドラインを消滅させるのみならず、松田に合わせて森岡、服部も下がらざるを得ず、あっという間にPAでの戦いにしてしまう。高い位置で持ちこたえることができないため、わずかな劣性があれよあれよという間に大ピンチになってしまうのだ。後半の2人のDFの交替から考えても、トルシエはスイーパーシステムで戦う気は無かったと思われるのに。

 つづけて、日本とフランスの極めて小さな、しかし、大きな差を感じさせるプレーを2つあげよう。一つは、4点目のトレゼゲのシュート、もう一つは5点目のミクーのパス。トレゼゲには松田、ミクーには伊東がチェックに走り込んでいるが、触れることすらできていない。キックの瞬間に松田も伊東も急速に歩幅が小さくなっており、急ブレーキが掛かっているのが、TVではよく分かる。松田はおそらくトレゼゲが左足でシュートするという考えしかなかったので、キーパーと2人でトレゼゲを挟もうとしたのだろうが、トレゼゲは冗談のように右足に持ち替えてシュートしている。

 何も難しいプレーではない。おそらく楢崎も松田と同じように考えていともあっさりフェイントに引っかかっている。2人の日本人選手は読みの段階で完璧に負けている。(Jリーグで宮本がしばしばみせるキーパーの背後への走り込みの方が複数のシュートパターンに対応できるという考えが松田にあれば結果は違っていただろう。)

 伊東も同様のミスを犯している。伊東は明らかにミクーの左側に走り込んでおり、ミクーは左足でパスを受けると決めつけている。ところが、ミクーは右足でボールを受けワンタッチでトレゼゲにはたいてしまった。伊東はパスコースを塞ぐという宮本が普通に持っている意識を持っていて欲しかった。

 トレゼゲとミクー、どちらも派手なプレーでもなければ大したプレーでもない。しかし、それを当たり前のようにやったフランスと、絶対やるわけがないと思いこんだ日本との間には大きな差があると感じるのである。

 最後にこの試合に宮本が出ていればどうなったか。少なくともトルシエのゲームプランは、より忠実に履行され、より拮抗したスリリングな見所の多い試合になったであろう。失点も確実に減ったであろう。しかしながら、フランスも本気になったであろうし、あのメンバーでどこまでいけるのか、不明ではあるが。おそらく私の思い描くゲームの展開は、トルシエ毀誉褒貶でケット・シー氏が書いておられるイメージと近いものであろうかと思う。

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