宮本のように守りたい
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 コンフェデレーションズカップの日本ブラジル戦をTVで観戦した。この試合の映像は、今まで、このカップ戦で放映されていた豆粒映像ではなく、よく見かけるピッチの約半面とアップの多い画面となっており、個々の選手の動きを見ることができるものとなっている。

 私は、特に最終ラインの動きを中心に観戦した。私の経験則によれば、最終ラインの動きはTV画面では、実際にスタジアムで見る以上に真っ直ぐな、スムーズなものに見えるということを頭に入れておく必要がある。

 松田がラインを維持し続け、フォアチェック若しくはスイーパーの位置への走り込みを、ほとんど行わなかったことに、多くの人は違和感を覚えたことだろう。

 それにしても、と多くの視聴者は感じたことだろう。新聞報道によれば15回のオフサイドを取ったということだ。松田が真ん中には行った試合としては異常な多さではないか。

 なぜ、そのようなことができたのか。一つにはブラジルのFWとりわけワシントンのオフサイドに対する意識の低さに助けられた面はあるだろう。特に前半に顕著なのだが、この試合のオフサイドはギリギリで取れたものは殆ど無い。(それでも、私は後半に2度ギリギリのオフサイドを発見したのだが。)ほとんど数メートルのオフサイドだ。

 それと、このカップ戦における副審の能力の高さもオフサイドの多発の原因に上げて良いだろう。私は、アジア相手の戦いでこれほどオフサイドトラップを松田が使えたかは疑問視している。

また、いつもの松田であれば、相手選手のアタックにラインを維持しきれず、簡単にフォアチェック若しくはカバーを行うことによってラインを破壊してしまうのだが、日本は既に決勝トーナメント進出を決めており、勝負にこだわる必要がなかったため、余裕を持ってラインを持ちこたえられたのも一因であろう。

 ここで松田の幾つかの問題点を指摘しておこう。

まず、前半14分に松田のみが相手選手が1メートルはオンサイドに入っているにもかかわらず、オフサイドトラップをしかけ、失敗している。その後松田のゴール内クリアに繋がるピンチを作ってしまった。これは、明らかに松田のオフサイドの読み違いである。

 また、前半25分には、松田はオフサイドに仕留めたと思い、スピードを緩めているが、ビデオを見る限りオフサイドではなく、ゴール前のピンチにつなげている。

 このように、オフサイドラインをライン統率者松田自身が把握していないケースが目につく。特に問題点としては、松田はオフサイドを審判が取ったかどうか確認する前に脱力する癖がある。

第2に、相変わらずのセットプレーでのマークミスである。36分にレオマールをフリーにし、45分に7番をフリーにしている。

 3番目に、高い位置に設定し続けることができないので、PA内での攻防に持ち込まれることが繰り返される。

 4番目にこれが、最も大きな問題点であるが、松田のライン統率はこの余裕綽々のブラジル戦においても70分以上緊張が続かない。75分にはラインはほとんど消滅し、あの、見慣れたスイーパーシステムに逆戻りしている。わたしは、ライン維持はDFに多大な集中を強いるため、高い位置でのライン保持に実際に成功しているチームはあまりないのではないかと考えているのだが(これが宮本のシステムの最大の特徴の一つが高い位置でのライン保持とされる原因である。また、衛星中継でヨーロッパのチームがしばしば見せてくれる、ゴール前でラインが固まっていくように見えるライン形成は集中力のオン、オフと密接にかかわっていると考える。)、松田も例外ではなく集中力を持続することができていない。松田のF3はこの期に及んで未だに未完成なのである。

 しかし、と私は思う。27分にPA内でラインを維持し破壊することなく守りきったこと。42分にも我慢してラインを維持しつづけたこと。いままで、宮本の特徴として多くの論者に語られていたプレーではないか。

 いかに、つたないものであれ、我慢しきれずにラインを破壊してしまいF3をF3でなくす愚行を犯すことなく守れたこと。言い換えれば、ラインを保持するディフェンスをはじめてできたこと。これは、松田にしては(あくまでも絶対評価であるが)長足の進歩なのではないか。松田のラインがは、未だに宮本の域に達しないため、極めて脆いことについての厳しい批判は甘んじて受けるべきではあるが、松田が牛歩のごとくであれ進歩していることについては誉められてしかるべきではないか。

 松田は、中山の投入直後と、79分にPA付近で相手選手にお尻を押しつけていく新奇なディフェンスをはじめて披露した。わたしは、最初、彼が何をしているのか理解できなかったのだが、おどろくなかれ、この松田の新奇なディフェンスは半身のディフェンスなのではないか。あの足を門にして構えるため簡単にかわされてしまう欠点を克服しようとしているのである。松田のこの努力を涙ぐましいと見るか、中学生以下の技術レベルにも達しない代表にうんざりするかは人それぞれの主観が入ってくるだろう。

 それでも、私は、松田を誉めてやるべきだと思う。彼は宮本のように守りたいと願い、その願いに向けて一歩一歩前進しているのだから。

 その一方で、2年近くかけてやっと中学生年代の技術を習得しつつある選手のために代表の席をあけておくことにサッカーをビジネス、職業としている人々の社会がどう考えているのか首をひねらざるを得ないのだ。

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