粉砕
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 2001年ファーストステージの最終戦ガンバ対アントラーズ戦を形容するのに最もふさわしい言葉。それは、「粉砕」である。アントラーズは試合開始直後から引き気味に戦い、彼我の力量を十二分に認識していた。にもかかわらず、中盤を制圧され、FWを押さえ込まれ、守備をずたずたに引き裂かれた。後半ガンバが稲本に得点させようとはせず、普段どおりに戦っていれば、おそらく3−1というスコアは5−1、6−1にまで広がったであろう。アントラーズはなすすべなく粉砕されたのだ。

 アントラーズの主力がケガと出場停止で欠けていたというエクスキューズは私は認めることはできない。アントラーズは本山、中村、中田、曽ヶ端の所謂v6から4人、20歳の野沢が出場。これに対しガンバは稲本、新井場、遠藤のv6と同年が3人、21歳の二川である。むしろ、平均年齢はおそらく遙かにガンバのほうが若いであろう。ガンバの若手達がチームの中心であるのに対し、アントラーズの若手達が必ずしも独り立ちできていない伸び悩みを含めアントラーズはガンバに完敗した。

 粉砕は圧倒的な技術の差によってもたらされた。本山のドリブルがことごとくとめられ、全く通用しなかった(彼のドリブルは緩急はあるもののリズムは常に一定でありタイミングが取りやすい)のに対し、3点目の引き金となったのは二川の5人抜きドリブルだった。二川にマラドーナを重ね合わせた人も多かったのではなかろうか。1点目も新井場のダイレクトのセンタリングに由るものである。1トラップ入ると思ったアントラーズの選手は、タイミングを外され全く動けていない。そして、極めつけは後半TVでは稲本のリプレイが入り出だしが分かりにくいのだが、遠藤・ブーレ・小島のパス交換にアントラーズの選手はまったくついていけず、翻弄されているシーンである。私は目の前で見ていたが、速いショートパスをダイレクトに繋ぎながら翻弄する姿は、まるで簡単な練習に過ぎないようなさりげなさだった。

 アントラーズは守備においてもファビアーノの調子が悪いためか、完全に崩壊していた。1点目、2点目のガンバの得点は偶然ではない。2回ともアントラーズ選手4人が無意味に団子になっている。一方ガンバ攻撃陣はその外側に分散しているため、パスコースが空いており別のパターンでも容易に得点できたと思われる。論理的な得点なのだ。アントラーズはおそらくファビアーノ1人に守備の構築を負っているため、彼の調子によって別のチームになるのではなかろうか。

 最後に宮本の守備を特筆しておこう。宮本はこの試合はファーストでは最も調子が良く今年前半のベストマッチだった。宮本の今年の特徴は1.フォアチェックによるインターセプトと2.ボール通して人通さず守備である。1については別途詳述したいと思っているが、2のプレーはこの試合でも多く見られた。何のことはないスルーパスは出させておき、それを追いかける相手FWの進路を横切るようにブロックし、ボールはキーパーに処理させるのだ。代表戦でも時々使っていたし、以前からもやっていたがここに来て増えている。欧州の試合のTV中継でも時々見られるので宮本オリジナルというわけでもない。

 ところが、このプレーはボールを見てしまう癖のあるDFには大変難しいらしく、Jリーグで多用する選手は私の知る限りでは新潟のセルジオぐらいだ。このプレーは所謂2列目からの飛び出しにきわめて有効である。コンフェデの決勝の失点は松田がフランス選手より先行しているにもかかわらず、走路をあやまり、追い抜かされたことにあるのだが、仮に松田がフランス選手の前を横切っていれば、フランス選手の走り込みは遅らされボールはキーパーの川口が処理できたと思われる。

 走路についても、宮本はクレバー・リベロ氏のご教示のとおり常に最短距離を発見することができる。この試合でも相手選手(野沢だったと記憶しているのだが、ビデオでは確認できなかった。クレーバーリベロ氏は平瀬の走り込みだったとされる。)のウェーブをかけた走り込みを遙か後方にいた宮本が直線に走り込み、ゴール前で捕捉している。おそらく、宮本は相手選手の走る走路と自分の走路、そして、捕捉ポイントが瞬時に「見えた」のだろう。このプレーは他の選手では真似ができない。たいていのDFは、相手選手と併走して走るか、自分も曲線で動いてしまう。これは、捕捉ポイントという概念を持っていないからに他ならない。(このプレーが分かりやすいのはFC東京戦の佐藤の走り込みを防いだシーンである。)

 攻撃、パス交換、守備あらゆる面での圧倒的な力量差が示された試合。これを私は「粉砕」と名付けたいのである。

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