宮本と森岡のオールスター |
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2001年のオールスターJウェストは早野監督のもと、ガンバ大阪の4バック、ボックス型の4人の中盤、2トップであった。4バックは、言わずと知れたガンバの3.5バック。4バックにもかかわらずサイドの選手がしばしば、CBとして動くため、見かけ上3バックに見える時間が極めて長い3〜5バックまで臨機応変に変化する、時としてボランチがCBを務めることもある極めて流動的なシステムである。 このシステムの特徴は、マンマークにもゾーンにもラインディフェンスにもスイーパーシステムにも簡単に移行すること「ぬえ」のごときである。ラインのコントロールもCBの2人が7対3ぐらいの割合で分担する。ラインを構成するのは左から平岡、森岡、宮本、服部。 試合開始直後は4バックのラインディフェンスからはじまった。ボールの位置、ボールホルダーの持ち方によってくるくる半身の姿勢を変え、PA内に攻め込まれてもラインを崩さない、一人がチェックに行くときは他の選手がその高さ近くまで押し上げ、ラインの崩壊を最小限にくい止める4バック。極めて良く機能しているように見えた。そう、開始15分ぐらいまでは。 崩壊は、最初の失点からはじまった最終ラインを明神に突破されると、最後まで付いていた宮本はゴール前に下がり余裕を持ってパス及びドリブルコースを消し、キーパーと1対1を作らせ、シュートを撃たざるを得ないようにする。明神のシュートは楢崎の股間を抜けゴールに吸い込まれる。楢崎のミス?明神のファインシュート? この直後から森岡に余裕が無くなる。どうしてもピンチに下がってしまうのだ。そもそも、森岡は相手FWと駆け引きするラインコントロールという考えに乏しい選手で、相手FWの位置に合わせてラインを上下する受け身のDFである。これに対し宮本はラインを相手FWに合わせ一旦下げ、パスが出る直前に本の1歩上げる。この試合の前半にも飛び出しかけた播戸がこのプレーに引っかかり、急ブレーキをかけて止まるシーンがある。DFは身体を使ってタックルによりボールを奪取する必要はない、1歩前に出ればFWの突進は止まるのだ。 ところが、このとき森岡は宮本にやや遅れて宮本の高さまで下がったにすぎない。つまり、森岡は宮本が2プレーしている間に、1プレーしかしていない。森岡は宮本のプレースピードに付いていけないのだ。五輪でもフル代表でも、宮本が出場しなくなるとDF達から「キツイ」という発言が急速に消えていく。単位時間内でのプレー数が違うのだ。森岡には脱力時間が非常に長いという悪しき特徴があるが、この時間帯になると急速に膝が伸びきり、ボディの向きがいい加減になり、視野が狭くなる。宮本と並べてみると両者の集中力の差は歴然だ。 私は、森岡と宮本のどちらかを後半は交替させるべきだと思った。なぜならば、この歴然たる差は森岡の自信を喪失させ、一人の選手を潰してしまいかねないと考えたからである。TVに写っていないかもしれないが、前半に森岡が平岡に意見されているシーンがある。ジェスチャーから判断すると、平岡は森岡のポジションが納得いかなかったらしく、2人の位置関係のバランスを修正したいため森岡の位置を変えて欲しいと言っていたようだ。確かに、森岡と平岡のポジションは近づきすぎたり離れすぎたりを繰り返していたのだ。 後半になると、ディフェンスはマンマークとなる。宮本はとたんにフォアチェックを多用しはじめ、柳沢、チェ・ヨンスに突っかかりはじめる。そうすると、宮本がかわされた後ろのスペースをカバーする者はいない。中村のパスが精彩を放ちはじめるのはまさにこの後半なのだ。宮本の意図が、自分の実験のためだったのか、ベンチから指示があったのか、他のDFに合わせたのか知る由もないが、ウェストの4バックは急速に崩壊していくのだ。私はウェストの敗因はマンマークへの移行と宮本のフォアチェックの多用にあると考える。フォアチェックは確実にボールが取れるとき、または、単にプレッシャーをかけたいときに行うに留めるべきで、1試合にそう何度も行う機会はないはずなのだ。 二点目のPKの柳沢の突破時に宮本は半身の姿勢を続けており、何度も首を振って周囲を確認している。中村のスルーパスはキーパーのキャッチで止められ、PKをとられるとは考えていなかったのではないか。この時、森岡は身体の向きが逆であり、反転しなければならず、その直前に一瞬足を門にして構えてしまったこともあって簡単に振り切られてしまっている。 三点目に到っては、でこぼこラインを形成してしまったため、オフサイドにならなかったこと、柳沢の走り込みに付いていった森岡がボールを見てしまい柳沢の動きを見なかったことによる。キーパーのコーチングミスを指摘しても良いかもしれないが、森岡が次のプレーをどうするかという意図を持った守備をしなかったことは責められてしかるべきだろう。 2,3点目の失点に共通して言えるのは相手FWに合わせてしまうため、常に1歩出遅れ、後手後手に回ってしまう森岡のDFとしてのひ弱さだ。このあと、森岡は平岡とポジションを変えサイドに出てしまい、急速に生彩を欠いていく。 試合を支配しようとする者=宮本、あくまで1DFに止まろうとする森岡。 この2人のDF観、サッカー観の違いが如実に見て取れたように思われるのである。 |