うさぎとかめ −中田浩二の造反−
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 中田浩二(以下中田という。)は不幸な選手だ。ナイジェリアワールドユースにむけてDFにコンバートされ、五輪代表でも代表でも主に左DFとして使われているにもかかわらず、クラブの鹿島アントラーズではボランチである。中田が代表の戦術理解に要する負担は、他の選手より遙かに重いことだろう。

 長らく五輪代表ではF3の動きを完全に体得することができず、宮本より常に1歩前にいることによってオフサイドラインを崩さないようにしていた。中田は、松田、森岡より遙かに優れたヘディング技術とディレイ時のボディシェイプを持ちながら、とうとう宮本のF3を完全に習得することなく、松田、森岡のスイーパーシステムに出会ってしまったのである。我々は、ワールドカップまで1年を切った01年8月に、エコパのオーストラリア戦においてF3を無視してつるべ状に動きトルシエを激怒させた3バックのひとりが中田であったことを知っている。

 その弊害はウクライナ戦でも垣間見せていたのだが(例えば、前半8分の松田の動きを無視し、後ろに大きく下がる動き等)、ポーランド戦では、それこそ、随所に見られた。

 前半17分中田は、オリザデベの中央からのドリブルに対し、今だラインが破られていないにもかかわらず、宮本、松田のラインを無視し、大きく後ろに下がっている。このため、日本右サイドのポーランド選手の侵入を誘発したと思われる。

 前半27分から28分にかけて、日本右サイドからポーランドの縦パス。松田がパスの受け手にフォアチェクし、宮本と中田が同時に下がりはじめる。宮本が一度上がるタイミングでは中田は残っている。宮本が松田と高さを合わせ、オフサイドラインをポーランドFWより、高い位置に設定し、オフサイドラインでプレイエリアをせばめようとするが、中田は下がりすぎたままである。

 前半30分、日本右サイドからポーランドのセンタリング。PA手前で日本選手がクリア。中田は大きくスイーパーの位置に後退している。

 前半31分オリザデベをオフサイドに仕留めているが、リプレイで見ると宮本が踏みとどまった高さで、中田は止まることができず、さらに1,2歩下がってしまっている。

 前半38分、オリザデベが日本右サイドを突破。市川と宮本、中田が3バックで下がり、後方から松田が追走している。真ん中と左サイドからポーランド選手が走り込んでくるが、宮本は左サイドのポーランド選手を一瞥し、市川とPA前で踏みとどまるが、中田は大きくPA内に後退しスイーパーと化している。

 前半40分2バックでの宮本のスーパープレイ時にも下がりすぎて21番の走り込みを誘発している。

 後半は、ハーフタイムに修正されたのか、合っている画面が増えるが、それでも下がりすぎている。
後半21分、松田、宮本の高さに比べ、中田は相手FWの背後に張り付き、明らかに下がりすぎている。

 後半22分、宮本のラインはPA手前であり日本左サイドの日本選手(おそらく小野)も宮本の高さに合わせているが、中田はずるずるPA内に相手FWに引きずられるように下がっていく。

 また、後半41分中田のみ下がっていく。

 宮本にラインを合わせているのは、松田だけでなく市川、小野?も該当しており、宮本の位置がオフサイドラインというのはチーム戦術であると推測されるのだが、にもかかわらず、中田は下がってしまう。

 ラインが一致している局面も無いわけではない。後半28分合っており、オフサイドが取れている。後半40分3人が連動して下がっていく。後半43分オフサイドが取れている。しかしながら、中田が合っているのは、相手FWのマークが必要なく、中田が余っている局面が多いようだ。

 これに対照的なのが松田だ。松田はエコパでの造反3バックの一角であり、すぐに下がってしまうことで、コンフェデ決勝フランス戦、ナイジェリア戦などの失点を誘発し、トルシエの代表にスイパーシステムを持ち込み、中澤からF3をしていないと指摘された選手であって、森岡同様、決してF3の戦術に習熟している選手ではなかった。

 にもかかわらず、この試合では、中田に比べ、遙かに宮本と同じように動いている。

 たとえば、先述の前半27分から28分(この時は宮本が松田に合わせている。)、後半21分。そして、後半22分から23分、宮本と松田は踏みとどまっているが、中田はPA内のスイパーの位置に下がってしまっている。

 ウクライナを観戦してこの傾向を感じた人も多かったのではあるまいか。後半の60分ほど経過したあたりから、松田はきれいに宮本とシンクロしていたのである。

 これも、代表の試合を見ていれば当然予想されたのではないか。松田は今やスイーパーシステムの頑固な牙城の観さえある森岡と同時にプレイするものの、コンフェデのブラジル戦ではそれまでの松田評価を一変させるような宮本を真似たF3で守ったのである。

 松田は低いヘディング技術を矯正するためか積極的にヘディングで競り合っている。また、まわりを見ない欠点を矯正するため、まわりを見る努力をしていたのもよく知られているところである。そしてスイーパーシステムでプレーしながらも宮本のプレイに近づく努力を怠らなかった。松田は、一般の評価と違い、決して身体能力は高くない(ボールの落下点を読む能力ももちろん視力という身体能力である)。むしろ、ディフェンスシステムの進化の方向を正しく見通した知性的なDFと言うことができよう。

 忠鉢氏の著作を読むと、トルシエは一度でき上がったチームを意図的に壊して、その混沌の中から浮かび出てきた選手を使うというチーム造りを、南アフリカやフランス、もちろん日本でも、しているそうだ。

 その中から、カメのごとき歩みながら方向を見誤らなかった松田は浮かび上がろうとしている。それに対し、ウサギのごとく早々と宮本F3の一角を占めていながらもラインの一歩前にいるという手抜きプレーをし、今また森岡のスイーパーシステムの動きしかできなくなっている中田。それこそウサギとカメのごとくである。

 忠鉢氏の著作にはこうも書かれている。トルシエの手法はうまくいくときはいいが、失敗したときは「チームはいっぺんに壊れてしまう。」

 中田はポーランド戦において明らかに意図的にチーム戦術に反する動きをしていた。これは、何もはじめてのことではない。勝手に本山や中村を守備に呼び戻した勝手なコーチング。松田、森岡を信用せず、右に寄りすぎていたオリンピック。等を我々は知っている。このようなプレーを繰り返す中田浩二。果たして、彼は代表にふさわしいのかどうか。

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