トップ下と2.5列目−戦術論の私的なノート−
速報、思いつきコーナーへ
ミケロット氏とクレバー・リベロ氏という2人の学兄は私にとって常に新たなインスパイアを与えてくれる恩人であるとともに、論敵でもある。この2人の論旨は極めて近いところもあれば、全く異なるところもある。最近、2人の司令塔観を拝見したが、全く異なるものであった。これは、この2人が全く異なるボランチ観、F3観の持ち主であることの証左となるであろう。

司令塔はどこにいるべきなのか。ミケロット氏はその、HP637番の書き込みに置いて、トップ下の小野を高く評価する反面、3列目からサイドから攻撃を演出するタイプの選手を厳しく批判し、創造的な攻撃はトップ下からなされるものであるとする。

これに対し、クレバー・リベロ氏は「MFにおけるエレガンス論序説」において「2.5列目において自在にボールを配る」名波浩について述べる。氏が2.5列目の司令塔名波を高く評価するのは、(この「序説」の続編を待たねばならないとしても)明らかであろう。

この2人の司令塔観の相違の詳細は、今後、更に詳説されるものであろうが、
私たちは、この2人が思い描く理想のボランチは全く違うタイプであり、ディフェンスラインの果たす役割もかなり違うことが容易に推測できるのだ。

ミケロット氏は、私も同意している所謂「2バック論」において2バック+ボランチと最終ラインの中間に位置し、相手の攻撃をつみ取る選手(むしろ3人目のボランチといったほうが正確かもしれない)による守備を理想としている。
このような、守備戦術に置いては理想とされるボランチは、(必ずしもパサーを否定しないものの)稲本のようなボール奪取能力に優れCBの守備機会を出きる限り減らすことのできる選手である。

このようなチームは、攻撃を可能な限り厚くすることを目標に、最小限にCBを減らす。少ないCBの負担を軽減するためにボランチの位置でほとんどの攻撃を止める。CBは最小限の人数で守るため、オフサイドトラップを多用し、肉体的な接触プレーを減らす一方で、もし、肉体的な接触プレーをせざるを得ないときは確実に1対1で勝てる選手によって担われるものとなろう。

そして、このチームにおいては、コンパクトスペースは必ずしも絶対条件ではない。攻撃タイミングにおいては広くなったスペースを縦横に駆使してトップ下の司令塔を中心にボランチまでの選手が攻撃に参加するのだ。

この戦術論の根底には、F3はいかにして守備を最大効率化して所要選手数を減らし、攻撃を活性化するかという命題の元に編み出された戦術であるという解釈があると思われる。

H-ICHIJYOはこの布陣に近いものでありつつも、2.5列目のパッサーの役割を積極的に認める。その意味において、名波と稲本併用論を許容するし、宮本ボランチ論に対しても禁忌がない。パサーとしての宮本と名波、サイドチェンジの名手としての稲本を積極的に評価する。反面、トップ下の司令塔の必要もあまり感じていなければ、サイドからのゲームメイクでもよいではないかとすら思う。これには、ドクターイナがんばれの論説にあるようにファンタジスタはサイドでしか生きられないので有れば、サイドからのゲームメイクも肯定する。(この考えは、H-ICHIJYOが攻撃をあまり見ていないせいかもしれない。
また、ジュビロのサイドチェンジを多用するパチンコサッカーに対する高評価が根底にあることは、クレバー・リベロ氏と相通じるかもしれない。)
さらに、仮に、トラップ、キック、ヘディング等の技術が伴うので有ればという条件付きながら、松田が3人目のボランチの可能性を感じさせる選手であることも否定しない。一方で、中盤でのボール奪取を重視するため、稲本、若しくは、稲本のようなMFを高く評価する。

クレバー・リベロ氏はボランチにパサーとしての能力を第一に求める。氏の理想とされるチームにおいては、おそらく、ゲームメイクは2.5列目から行われ、ショートパスをつないだ横パスのサイドチェンジによって、相手チームのDFに揺さぶりをかけながら攻撃が行われるのではなかろうか。このチームでは、氏も名波の守備力を評価しないごとく、守備は、もう一人のボランチと最終ラインによって担われる。逆説的であるが、このチームのF3は極めて攻撃的だ。コンパクトフィールドの形成のために、ミケロット氏やH-ICHIJYOの想定するよりも遙かに高い位置に最終ラインを設定し、万力のごとく相手攻撃陣を締め上げる。相手FWとの駆け引きによって相手の攻撃を無力化させつつも、前へ前へ前進することによってコンパクトフィールドを形成する役割を担うのだ。このプレスの厳しい狭い空間においては、攻撃を形成できる司令塔(=パスの配給者)は比較的プレッシャーのない2.5列目で有らざるを得ないのだ。クレバー・リベロ氏が名波に代わる2.5列目の司令塔の可能性を中村俊輔に見いだされるのもけだし当然であろう。(私の解釈と矛盾するかもしれないが、クレバー・リベロ氏はパサータイプのボランチはDFのタイプを選ばないとされていることも述べておきたい。ボール奪取タイプのボランチは優秀なDFに依存するとの氏の考え方の反映である。)このチームにおいては、ボランチはボール奪取タイプのみで構成されることはない。

この、稿はH-ICHIJYOの私的なノートであり両氏の論説の趣旨を必ずしも十全に理解していない可能性があることを付記しておきたい。

ロゴ「トップページへ戻る」