「しぼる」と「展開する」(パリ・サンジェルマン戦を見ての感想)
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00年の代表で、新たなテクニカルタームとなった言葉に、「しぼる」という言葉がある。私は、「しぼる」とは、香港での松田のヘッドのクリアミスから必要となった動きで、中央CB松田のヘッドの弱さをカバーするため、左右のCBが中央のCBの背後をカバーする動きと解していた。ソウルでの韓国戦で服部と森岡がフル回転していた動きである。私は、これは松田の為のカバーリングの動きで、トルシエの3バックに必ず必要な動きではないと考えていた。

クレバー・リベロ氏は9月初頭時点では、「しぼる」動きは、代表の約束事だと松田が連呼していること。8月頃の五輪代表の練習で、しぼっているように見える練習風景があったらしいとのことで、代表の戦術になっているのではないか。ということを問題視しておられた。氏は「しぼる」動きがF3にとって望ましい動きでは無いと考えておられるようで、私も全く同感だ。

「しぼる」動きは最終ラインが比較的高い位置にあるときに、中央CBの後ろに左右のCBがカバーに入ってしまうわけだから、高い位置でラインがブレイク状態になるとともに、3人のDFが極端に近寄るということだ。これで、3人でのラインディフェンスが可能なのだろうか?この動きが約束事であれば、すでにこの3バックはF3ではないということになる。

ただ、私は、松田のデビュー戦のメキシコ戦では「しぼる」動きがDFに見られないこと、松田のヘッドの弱点が露呈して以後、顕著に見られるようになっていること、壮行試合等で宮本、森岡が中央CBを勤めた場面では「しぼる」動きは見られなかったことから、やはり、松田の為の約束事だと思う。しぼっているように見える練習風景とは、シドニー五輪の南アフリカ戦の試合前のアップで、スタメン3バックが行っていた1人がヘッドすると他の2人が後ろに下がる練習ではないかと思う。この練習は上下動の練習のようで、カバーにはいる動きはしていなかった。また、私はかすかにではあるが、98年か99年初頭頃にこの練習を見た記憶がある。

このように考えていたのだが、五輪本戦を観戦していると3人のDFがラインを保ったままどんどん近づいていき、ピッチの2分の1から3分の1しかカバー出来ない動きをしていた。特に中田浩二がどんどん真ん中に寄っていき、日本のDFは右半分にしかいないといった時間帯が長く、中村が守備で貢献していたのも宜なるかなといった状態は多くの人の記憶にあるだろう。

この3バックがラインのままお互いに近づく動きも「しぼる」の範疇に含まれるならば、確かに代表の戦術かもしれない。中央CBが森岡のときも、宮本の時も、この現象は起こっていたのだから。この場合ラインはフラットなまま「しぼっている」ので、F3の戦術といっても良いだろう。しかし、どういうメリットがあるのか、現在の私には見当がつかないのだが。

ちょっと考えてみても、日本の3バックが右に寄っていたため、左サイドに広大なスペースが空き、中村が4人目のDFとしてかけずり回っていたではないか。このため、日本は左サイドからの攻撃がほとんど出来なかった。私は、中村はDF登録した方が彼もあきらめがつくだろうと思ったほどだ。TVでしか見ていないのでよく分からないのだが、USA戦後のコメントで中村が、左CBの松田が中央CBの森岡のカバーに入るため、オルブライトのケアを左サイドの中村がしなければならなかったと言っていることから、この試合もおそらく3バックはほとんど右に寄っていて左サイドをがら空きにしていたのではないかと思う。このようにフラットに「しぼる」動きもデメリットの方が多いと思われるのだ。00年に入ってどうして「しぼる」という動きを代表がしているのか疑問は深まるばかりだ。

 ここで、思い起こすのは、F3導入当初、F3はピッチの端から端まで3人で3等分に分けて守ると言われていたことだ。この考えはどこに行ったのだろう。ついこの間もストライカー紙上で日本の少年サッカー選手はお互いの間隔をあけることが出来ないということが書いてあった。守備の時どうしてもボールホルダーと競り合っている選手のサポートに行ってしまって、「展開する」ことが出来ないのだそうだ。

私はF3とは、この日本人が苦手だとされる「展開する」という動きを3人のDFに要求する守備システムで、1対1に強いDFでないとつとまらないものと考えていた。トルシエ自身も1対1に勝てなければ世界では勝てないと言っていたと思う。そのため、個人の能力を助けるのが組織によるオフサイドトラップだと理解していたのだ。(1対1の強さという概念には、単純な体格ではなく、体の使い方、戦術の駆使などを含む、技術力、知力、体力、運動能力の総合的な能力の高さのことと思っている。一般的な使用法とは異なっているかもしれない。)ところが、五輪本戦では2人乃至3人で囲い込む守備が目立っていた。これだと、選手が常に近ずいていないと相手を囲い込むことが出来ないし、運動量も増える。なぜ、トルシエがこの戦術に切り替えたのか分からないが、五輪代表のDF、フル代表のDFでは技術的に強豪国の選手に1対1では勝てないと思っている可能性がある。1対1に勝てないのなら「展開する」守備システムは採用できないということなのだろうか。99年五輪最終予選までの宮本の大きくピッチ上の幅いっぱいに「展開する」守備は、果たして通用しなかったのだろうか。
ブラジルとの戦いぶりからしてもそうは思えないのだがと思ってしまう。99年の五輪代表による、1対1に強い守備でどこまで戦えたのだろう。

ここまで考えてきて、PSG戦を見ると、単純に3バックが近づくことのデメリットの具体例として、ボールホルダーを3人のDFが取り囲み、他の選手のケアを全くしていないシーンもあった。マイナスのパスが出たら1点取られちゃうんじゃいか。これって一見、超安全策に見えて実は一か八かの守備なんじゃなかろうか?効率が良さそうに見えて、とっても効率が悪いんじゃないのか?謎は謎をよぶなあ。

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