school life ex~pray~
from Genius150


試合のオーダーが決まる前に不二に言われた。

「完治していないなら、負けるよ」

あれが不二なりの無駄だと判っていても、してくれた最後の忠告だったと思う。
それでも俺はやめるつもりはなかった。
それがたとえ無謀なことだといわれても、俺にはそうは思えない。
もう耐える時間はないんだ。

それをお前なら、わかっているだろう…





誰だって負けるためにコートに立っている訳ではない。
皆、自分のplayに絶対の自信を持って、試合に挑む。誰でもそうだろう。
しかし、本当の強さは自信だけでは成り立たない。
その自信を過信しないよう、自分にも人にも納得のいくだけの練習をする。
油断せずに…決して油断せずに慎重にいこう。そうすることで自信は確信に裏づけされる。
それが俺のやり方だ。
しかし自信というものは時折、人間に残酷な思いを抱かせる。
自分以上の存在、自分にはない…どうしようもない才能の差、自分の理想とする「存在」と出会った時。
人間は激しい衝動に駆られる。

嫉妬だ。

あの感情は手に負えない。それを綺麗な形で「羨望」という言葉に消化できるのならまだマシだ。
だが、過剰な自信は人にありえない行動を起こさせる。
俺が怪我をした理由はありきたりで、ありえないものだと思っていた。
しかし、それは俺自身の「存在」が巻いた種だったことも…今の俺ならば理解できる。
歪んだ自信の行き着く先なんて、何も未来はない。
だが、それが自信過剰になりかけていた自分自身を強く戒めてくれたことは紛れもない事実なんだ。

俺は口にはしないだけで、自分のplayには自信のある、ありきたりな、ただの子供だった。
何かを背負うことも、耐えることも、負けることも知らないままの…自信過剰な子供になっていただろう。

この後悔から、その前の傲慢から、その後の継承から…伝えられてきたあらゆるものを
ここで解き放つことができるのならば…何が起きても、俺は後悔しない。
後悔することは何もない。結果はひとつしかない。
そこには紛れもない、俺たちの築いてきた「真実」が残るだろう。

このゲーム。
今…その眼、お前の眼にはどう映っている?
どんな風に映っている?
どうか最後まで、俺のことだけをみていてくれ。
「なんて残酷なことをいう人なんだろうね…」と、お前はいうだろう。
だが、どうか見極めて欲しい。
その眼に映る俺の姿を…。
お前は目を逸らさずに、奥底までみていてくれることを確信している。

その眼に映る、不二が感じた俺が「真実」だ…。

この終わりに、コートから戻る俺と眼が合ったなら、
お前は、すべてを押し殺して、いつもの顔で『仕方がない人だね』と心の中で言うだろう。
それでいい。



それだけでいい…
出会った頃のように、そういってくれ。


俺は…俺にしかない、この瞬間に一度しかない夢を感じたい。
今しかない夢を掴もう。
それだけの犠牲を払ってまで、その夢を掴もうとしていることに、疑念を抱く人もいるだろう。
だが、お前は否定しないだろう?
この現実が傷ついても、ここで終われるはずがないことを一番判っているのは、俺達なはずだ。

努力も忍耐も俺達は誰にも恥じないほどにしてきただろう?
だからこそ、俺は与えられた時がどれほど厳しく、過酷なものであろうとも…

それでも、どうしても、この確信を消せないんだ。


こんなところで終わる俺たちじゃない。

 


だから…

今しか手にすることのできないものを…

俺達にしか手にすることができないものを、この手で掴もう。

そして、その先へ…もっと先へ…


続いていこう。

どこまでも…