DMC(デトロイトメタルカレー)

文 村上 義明

 ある夏の熱い朝、そのFAXは送られてきていた。

 売上が上がらない上、今年入った新人のM君に、店を辞められてしまい。絶望の中、仕込みのため店に入ったら、FAXが送られてきていたのである。

 DMC(デトロイトメタルカレー)協賛店の御誘い・・・。

 おいおい、ウチはレゲエの店だぜ!と思いながら、FAXを見る。

 とにかく辛いカレーを、出してくれとのこと。「最近、辛いもの食う奴が少ないんだよね。」ワシはぼやいた。オーダーとか入っても、0番とか1番とか聞くと、腹が立つんだよね。おめーら、何しに来たんだ、ここはカレー屋だぞ。辛いもん食わネーでどーするんだ。ったく。読み進むうちに、映画とのタイアップで、店側には、ほとんどメリットが無い事に気がつく。あえてあるとしたら、原作のマンガの本が、一冊貰える事ぐらいである(しかも1巻目か最新巻)。

 普通、この手の企画は、メリット無しと、パスする所であるが、この悲惨な状況の中、もう破れかぶれ(最近こんな言葉を使わないな)で、やってやるとその気になってしまったのである。

 新人のM君が辞めたのは、給料日の次の日だった。朝、仕込みの為にワシが、デストロイヤーのドアを開けると、白いものが刺し込んであった。良く見ると、手紙だった。なんだこりゃ?不審に思いながら、手紙を開けてみる。M君からの手紙であった。体力的に自信が無く、やる気も無くなってしまったので、勝手ながら辞めさせていただきますという手紙だった。ショック!!!

 売上が延びない中、少ない人数でどう切り盛りして行こうかという問題の最中だけに、愕然とした。

 その夜、仕込みと営業が終わってから、プルプルのメンバー3人とデストロイヤーの2人で、プルプルに集まり、会議を開いた。現在の売上や、今後の展望を考えると、今のメンバーでやっていこうかということになった。申し訳ない。(ちなみに先月のみんなの給料と家賃は何とか払うことが出来た。)

 そこに届いたのがDMCのFAXである。こんなときに、こんな企画。

 まずデストロイヤーの店長MAXに、相談する。

 やりますか?どっちでもいいですよ!出来ない事じゃない!やってやる!!

 MAXも破れかぶれである。何せ、今まで3人で行っていた仕込を2人で行わなければならないのである。

 次に、プルプル店長のトオルチャンに相談。

 トオルチャン「店側のメリットって無いですよね?」

 その通りである。

 ワシ「こんなバカみたいな企画、どこのカレー屋が受けると思う?こんなの「うち」くらいしか受けないんじゃない。馬鹿馬鹿しくて言いジャン、受けてみようよ。」

 トオルチャン「・・・・」

 やはり、トオルチャンは冷静である。

 平尾さんとミッキーにも相談してみる。

 平尾さん「メタルですけど、良いんですか?」

 わし「・・・いいんだよ。おもしれーじゃん。」

 と、言う事で、DMC参加決定。みんな、こんなときに、こんな企画で申し訳ないけど、やってみよう。

 しかし、誰もこのマンガを読んだことが無い。(唯一の不安点である)

 企画書の回答の申込書を、2店舗分FAXする。

 次の日、企画の詳細が送られてくる。

 タイアップメニューの概要

 名称:激地獄 デトロイト・メタル・カレー(DMC)

 内容:@下記の具材を全て取り入れる事

    ・豚肉 原作に登場する「資本主義の豚」「メス豚交響曲」からインスパイヤ

    ・ゴボウ 主人公根岸くんは陰で「ゴボウ男」と呼ばれている

    ・しいたけ しいたけが原因でクラウザーとジャック・イル・ダークに遺恨勃発

    ・ナス 「ナスの炒めたやつ」が根岸くんの大好物。もちろんクラウザーも!

    ・ゆで玉子またはミートボール、つみれなど丸いもの

       クラウザーの必殺技「悪魔玉」をモチーフに!

     Aとにかく辛い事(辛いのが苦手な人には無理なレベル)

     B金額は1000円以内

 豚肉に関しては、プルプルでもデストロイヤーでもメニューがあるので、流用可能。

 ゴボウは、以前からスープに使っているが、具材として検討が必要。

 しいたけは、土スペ、日スペではお馴染みの具材である。

 ナスは、どうにでもなる。

 ゆで卵または、ミートボール・・・、地獄玉・・・。

 コスト的に考えると、やはりゆで卵である。しかし、いつもの玉子では物足りない。

 そして、辛い事。100番限定にしてやる。限定5食だ。(だって10食だとあまるかもしれないから)

 MAXと色々相談してみる。

 豚肉は、現在日スペで使用しているチャーシューを使用することに決定。

 ゴボウに関しては、素揚げしても美味しいが、それでは能が無さ過ぎる。そこで、いきんぴらゴボウにしてはどうだろうという事になった。きんぴらゴボウにしてご飯に乗せる。段々スペシャルっぽくなってきたぞ。しいたけは、冷凍ものを使用。だって安いんだもん。そのままでは、淋しいので、クラウザー様の額に書いてある「」の文字を書いてみようとするが、冷凍ものは、飾り包丁を入れるのが非常に難しく、断念、普通にする事にした。

 しかし、ここでMAXから、提案「辛くしてみたらどうです?」。おもしろいね?出しを取った味付け用の漬け汁に辛みスパイスを入れ、激辛しいたけを作ってみる。

 問題はゆで卵である。MAXの提案で揚げ玉子にする事とした。玉子の回りのぐにゃぐにゃ感が、なんとなく悪魔玉っぽい気がする。さらにこの揚げ玉子も、しいたけと同じ激カラ汁につけこむことにする。

 DMCの試作、全体的に緑が無いので、とりあえずピーマンを乗せることにする。

 当然100番で食べてみる。

 久しぶりの100番であるが、そんなに辛いと感じなかった。わしは、大体50番で昼飯を食べる。何にしても、このカレーを食うが為に、わしは、店を始めたのだから。

 チャーシューは厚めに切って2枚としたが、食感が今一つと言うか、厚すぎてかったので、薄切りにして4枚にする事にする。

 辛いきんぴらゴボウは、なかなか言い感じである。もう少し胡麻の風味があっても良いかもしれない。

 激辛しいたけは、ばっちり辛い。100番のカレーが、吹き飛ぶくらい辛さが染み込んでいる。

 そして、悪魔玉のゆで卵、辛さはそんなにしみていないが、食感も味もなかなかのものである。

 青物のピーマンが淋しいので、野菜屋さんに頼んで、激辛青南蛮を取ってもらう。

 油でサッと炒めて、食べてみる。ビックリする辛さである。効くー!!!

 デストロイヤーのDMCは、これで完成。

 その頃プルプルでは、トオルチャンと平尾さんで、プルプル版DMCを検討していた。

 平尾さんの提案で肉版の納豆カレーにする事に決定。ナスは、当然刻みナス。ゴボウも挽肉と一緒に炒めてしまう。ほぼナット挽肉ベジタブルである。ゆで卵は、いつもの玉子を味玉子にする事に決定。しいたけは、そのままの形で、カレーの上に載せることになった。

 食べてみると、ほぼ「ナット挽肉ベジタブル」である。「ほぼ」と言うのはやはり肉の違いと、ゴボウの風味が効いている所が違うのである。「ナット肉ベジタブル」ナットファンは、必食かもしれない。ただし、ランチの割引はしないので、そこが難点かも?(小金を稼いでやる。¥200×5食=¥1000本当に小金だ)

 さあ、いよいよデトロイトメタルカレーの完成である。

 そうこうするうちに、原作のコミックが、プルプルに届く。

 1巻を、ざっと読んでみるが、なかなか面白い。

 僕がしたかったのは、こんなバンドじゃない!!

 バンドマンなら誰もが経験するこの思いではあるが、根岸くんのギャップはあまりにも激しすぎる。

 それに、おもしろ過ぎる。2巻から5巻は、〇ックオフで探さないとダメかな?

 激辛地獄 デトロイトメタルカレー(DMC)

 辛さに関しては、100番では食べる事が出来る人がかなり限られてしまうので、50番まで下げることにする。

 両店舗とも、1日限定5食で¥950円。8月20日〜31日までの限定メニュー。

 さあ、映画を見てからカレーを食うか、カレーを食ってから映画を見るか?。

 はたまた、漫画を読んでからカレーを食うか、カレーを食ってから漫画を読むか?。

 はたまたまた、カレーだけを食いつづけるのか?

 わしは、カレーだけかな?

 とりあえず、原作コミックの1巻と6巻は頂いたので、これでも読むか。

 映画見る「金」なんて無いしな!

 まったく税金ばっかり持って行きやがって、クソヤロー!!!!

 それじゃ、また。

2008.8.21