中古自転車一万円

文 村上 義明

 去年まで乗っていた自転車が、パンクしてしまった。この自転車は、落ちていた自転車を修理して乗っていたのであるが、ついに後輪のタイヤに穴が開いてしまったのである。とりあえずパンクの修理だけしてもらって、何とか乗っていたのであるが、タイヤの交換をするか、新しい自転車を買うかの二者択一に迫られていたのである。

 先日、弟が実家に帰って来て14万円の自転車を見せびらかされた。よし、わしも、と思って自転車屋さんへ行ったが、良い自転車は良い値段がするのである。そこで、市内のリサイクルショップで掘り出し物を探すことにした。

 見つかりました。その店には、MTBが数台置いてあったが、アルミフレームの自転車は二万円だった。いいなーと思いその隣を見てみるとフレームこそアルミではないがブレーキ系統がしっかりした自転車がなんと一万円ではないか。わしは、悩んだ。何故かと言うと一万円の自転車は後輪がかなり磨り減っているのである。二万円のアルミフレームの自転車は、タイヤ系統はかなり良好なのだが、ブレーキ系統が今一つなのである。悩んだ挙句、一万円の自転車にする事にした。何故か、それはそのブレーキに引かれたのである。タイヤは消耗品なので、取り替えるものであるが、ブレーキは取り替えるのが大変である。普通はブレーキシステムを取り替えたりしないものだ。自転車マニアでもない限り。

 中古自転車一万円!!!!買いだ!!!

 金を払おうと、会計に行くと防犯登録にお金がかかると言う。まー仕方が無い。必要なのだから。防犯登録と消費税で、中古自転車一万一千円になってしまった。ちょっと語呂が良くない。

 わしは、早速部屋に戻り、新しい中古自転車を眺めた。ペダルに足を引っ掛ける部品がついているが、わしの場合、街乗りが主なので、この部品は邪魔である。前の持ち主はどうもその手の自転車乗りであったらしい。わしには不用なので、すぐはずしてしまった。後輪の空気圧がちょっと足りないので、自転車屋へ行って空気を詰める。

 前輪後輪供にサスペンションがついているのであるが、サスペンションつきの自転車もなかなかの乗り心地ではないか。サスペンションは自転車が重たくなるので好きではなかったが、持ってみるとそんなには重たくない。否、前の自転車よりも軽いのではないかと思わせるほど重量感は無い。

 早速、走ってみる、軽快な走りである。21段切り替えのため、ギヤ比も前の自転車より多彩である。ちょっとスピードを出すとかなり良い感じである。向かうのは札幌ファクトリー周辺。

 色々ギヤ比を変えたりしながら走っていると、ブレーキが異様に効くことに気づく。特に後輪のブレーキは効きが良すぎるくらいで、何度もスリップしそうになる。後輪のタイヤの消耗度合いが激しい理由がわかった。このブレーキの性である。

 目的の店を探しながら、中古自転車一万円の乗り心地を確かめる。目的の店の情報は、子供服のショップCのN氏から貰った。先日、飲み屋で飲んでいたらN氏が、新しいカレー屋さんが出来るらしいよと教えてくれたのである。N氏の店も札幌ファクトリーの近くに有る。N氏とは、長いつきあいだが子供服がメイン?なので行ったことが無かった。カレー食ってN氏の店にも行ってみようと思ったのである。あの辺は、車じゃちょっときつい場所なので、どうしても、自転車で行きたかったのである。

 そうこうするうちに、目的の店が見つかった。店の前には開店祝いの花が、鬼のように飾ってあった。自転車を置くスペースが無かったので、店の横の方に立てかけておく事にした。そう、ここで新しい自転車の問題点がひとつ、スタンドがついていないのである。走るための自転車なのである。いわゆるそういう自転車なので、スタンドがついていないのである。ちょっと不便である。実は後からスタンドを探しに自転車屋さんへ行ったのであるが、結構高いのである。まー、当分これで我慢するか。

 看板を見るとスープカレールームCDとある。ルームである。スープカレールームと言う表現は、新しい。

 入り口は、真中に閉まっている扉があり、端の方にドアが開いている扉が有る。わしは、開いている方が入り口だと思いこみ、入ろうとしたら。店の人に、入り口は向こうですと怒られてしまった。そこは、厨房の出入り口だったのである。ごめんなさい。気を取り直して、真中の閉まっているドアを開けて店内に足を踏み入れると、そこは、今流行りのカフェの様な空間が広がっていた。手前の方にはテーブルが幾つか配置してあり、壁際にはカウンター席が用意されていた。更に、奥まった空間にも一段高いスペースがあり、そちらにもテーブルが配置されている。

 金かかってるなーっと、わしは思った。こう言うおしゃれなスープカレー屋なんか見てしまうと、うちの店なんかきたねーナーと思ってしまうのである。なにせ、金かかってないから・・・。おしゃれな店なので、こぎたないおやじは、端っこでおとなしくしていようと思い。壁際のカウンター席に座る。ファクトリーに近くと言うことで、日曜の昼らしくなかなかの賑わいである。

 メニューを見ると、チキンカレー、角煮カレーなどがあり、辛さは1から5、さらに各種トッピングが用意されている。札幌スープカレーの最近の流行をよく研究してあるメニューとなっている。面白いのは、挽肉のトッピングと納豆のトッピングがあるということである。北区のLLで、挽肉のトッピングを見たことがあるが、更に納豆のトッピングまであるのは、始めて見た。

 わしは、チキンカレーの辛さ5番を注文する。

 暫くして出てきたカレーは、札幌スープカレーの定番のようなカレーである。骨付きのレッグ、ニンジン、皮付きのじゃがいも、素揚げされたピーマン、そしてキャベツ。見た目も琴似のLや北区のKのカレーに似ている。

 一口食べてみると、うまい。いや、標準的に旨い。味もLやKに似ている。いや、昔のVにも、似ているかもしれない。どんなカレーでも作れるような人が、今の札幌スープカレーの定番を作っていると言うような味である。これがうちの味だという強烈なものは感じさせてもらえないが、ストレートな直球で勝負されているような感じがする。

 店の内装と言い、味の作り方と言い、また、どこかの大手がカレー屋を作ったのかもしれない。でも、一杯900円くらいのカレーで、元を取るのは、大変だろうなー。と思ってしまったのである。

 店を出て、N氏の店Cへ行ってみる。広い店内にTシャツやら何やらが飾られている。昔、3畳ほどの店で商売していたことが嘘のようである。立派なお店である。N氏と話をしながら、並びのお店LCのカレーも美味しいよという話になったので、その店に行って見ることにする。

 LCのドアは、重たかった。ガラス張りの扉なのであるが、異様に重たい。ドアを開けて、カレーがあるかどうか聞くと、あるとのこと。店に入り、カレーランチを注文する。

 暫くして出てきたのは。素揚げしたナスと、ウインナー、ししとうが入ったスープ状の液体と、丸く形どったライスとサラダ。食べてみると、ほんのりカレー風味のトマトスープのような味である。スープカレーとは言えないかもしれないが、スープとしてはさらりとした食べやすいスープである。スープカレー馴れした舌には、優しくてたまにはいいかもしれない。

 店内は、ちょっとレトロ風のくつろぎの空間である。ファクトリーとかで働いている人達が一休みするにはちょうど言い空間かもしれない。

 今回は、計らずも空間の作りかたの上手なお店を、はしごすることになってしまった。うちの店にそう言うものを求めるのは、ちょっと無理があるよな。ましてや、そう言う空間でわしが働いているのは、かなり変だと思う。

 わしには、この程度の店がちょうど良いのかもしれない。

 中古自転車一万円に乗りながら、ふとそう思ったわしであった。

 それじゃ、また。

2003.5.18