サバ缶カレーが出来るまで

文 村上 義明

 それは、そうワシが店を始めるちょっと前の事だった。その頃の、西屯田通りは、まだ店らしい店が幾つか残っていた。ワシの住むアパートの近くには、3軒の店があった。一番近くに有ったのが、M商店。ここは、酒も売っている商店で、野菜や魚なども売っていた。いわゆる小規模のスーパーみたいなものだった。ワシはよくここで、酒やちょっとしたつまみなどを買っていた。もう一つ小さなコンビニのような店もあった。店の名前は忘れたが、ここは夜12時くらいまでやっていて、M商店が10時に閉店した後は、よく使っていた。ワシは、この店をコンビニもどきと呼んで、よく使っていた。もう一つは、ちょっと離れたところの6条通りに、やはり12時近くまでやっている小さな商店が、あった。ここは、1、2回しか利用した事が無かったが、しばらくして潰れてしまった。現在M商店の後には、スープカレー屋のI庵が、入っている。

 当時ワシは、カレー屋を始めるべく、毎晩カレーを作っては、試食を繰り返す生活を送っていた。ここに引っ越すまでは、西18丁目のワンルームマンションに住んでいた。10畳ワンルームで、鉄筋コンクリートで、1人暮しには不自由が無かったが、キッチンがまともでなかった。1口のガス台が1台と、小さな流ししかなかったため、まともな調理は出来なかった。しかも、地下鉄の近くであったため、それなりの家賃で、駐車場が立体駐車場だったので、合わせた家賃が6万を超えていた。

 これではいかんと思い、引っ越すことにしたのである。新しい部屋は、木造3階建てであるが、2口のガスコンロが置けるスペースと、広い流し台、トイレと風呂は別、しかも1階は大家さんの、床屋さん。2口のガスコンロが置けるので、スープを取りながら、玉ねぎを炒めたり、カレーを作ることが出来るのである。画期的である。暖房は灯油の温風ストーブ。なによりも家賃が安い。近くの駐車場と合わせて、5万四千円。しかも、薄野から近い。近くには商店。あー、なんて生活のしやすいところだろうと、思ったものである。

 当時コンピュータ会社に勤めていたワシは、朝の8時に家を出て、夜10時ごろかえって来る毎日だった。夜10時というのは、M商店に間に合うかどうかの、ぎりぎりの時間である。当時、カレーの材料は、大体、日曜日に電車通りの生協か、円山の札幌Fセンターで、まとめ買いして、1週間もたせるというサイクルであった。そのほうが、やすく食材を買い揃える事が出来たのである。そう、当時は電車通りに生協が有ったのだ。今、生協跡地には、ドラックストアと、H田屋が建っている。

 ビールや酒もなるべくまとめがいして置いたのである。ただし、週の途中で、材料が無くなったり、酒がなくなったりすると、M商店や、近くの店の御世話に成っていたのである。

 その日も、いつもの様にカレーの準備をしていたところ、鶏肉が無いではないか・・・。しまった、もう11時近くで、M商店は閉まっているし・・・。近くのコンビニもどきにワシは、走った。鶏肉など無い。困ったな、カレーの具に成るものは無いか?鶏、鶏、鶏、豚、豚、豚、缶詰?ワシの目に飛び込んだのは、シーチキン。海の鳥?いやマグロだと言う事は、よく判っている。とりあえず買っていくか・・・。部屋の戻りカレーを仕上げ、シーチキンカレーの出来あがりである。しかし、シーチキンでは、まともなカレーにはならなかった。

 次の日も、同じように鶏肉を買うチャンスが無かったため、再びコンビニもどきへ行く事になる。

 そこで目に止まったのは、サバ缶!!!。そう、サバの缶詰である。味は、サバの味噌煮、味付け、水煮の3種類である。因みに、隣には、さんま缶=さんまの蒲焼である。わしは、ちょっと悩んだすえ、サバの水煮とさんまの蒲焼を手に取った。3種類のサバ缶。味噌煮は、ヤバイでしょ。カレーなんだから。残りは味付けと水煮であるが、味付けだと折角のカレーの味が、負けてしまう可能性がある。やはり水煮である。さんまの蒲焼は、酒のつまみである。

 部屋に戻り、カレーを作る。食べてみると、なかなか行けるのである。それまで、魚カレーは、そんなに食べた事が無かったが、これなら行けるという味だったことを覚えている。S狂の鮭カレーを食べたのが、その頃だったのか、その後だったのか、記憶があいまいではっきり覚えてはいない。

 実は、サバ缶カレーは、プルプルオープン前に、既にその元の形が出来あがっていたのであった。

 そして、プルプルオープンから14年の月日が経ち、サバ缶カレーが戻って来る事になろうとは、思いも寄らなかった。

 その発端は、スープカレーの衰退に伴い、店の売上がどんどん落ち込み、ワシの生活レベルが低下した事により、サバ缶との再会が果たされた事による。ワシはそれまで、外食中心の生活を送っていたが、なんにしろ金が無くなって、外食なんてトンでもないと言う状況に置かれるようになった。そこで、夜11時に帰って来て、早く簡単に出来る食事が必要だったのである。ワシは、仕込みの為に朝5:30に起きなければならないので、夜11:00〜5:30の間に、シャワー、メシ、サケ、寝るという行為(?)を全て行わなければ成らない。

 そこで、シャワーを浴びて、レトルトカレーを温めて、魚を焼くか魚缶を調理しておかずにして酒を飲んで、寝ると言う、帰宅してから非常に短時間で、寝ると言う行為に至る方法を取ったのである。この時に再会したのが、サバの水煮缶である。サバ缶は、それなりの量があるので、サバ缶と豆腐なんかをレンジでチンすると、立派な酒の肴の完成である。同じように、サケの中骨や、さんま缶などでも立派な酒のつまみが出来あがる。因みに、何でそれまで外食中心だったかというと、以前、店が終わってから自宅で魚を食べようと、一杯やりながら魚を焼いていたところ、そのまま寝てしまって、火災報知気を鳴らした事がある。それ以来、自宅での調理は極力行わないように、外食中心の生活に移って行ったのである。今回、自炊生活を再開するに当たって、魚を焼き終わるまで、酒を飲まないという規則を自分で作って、実行しているのである。これなら、魚を焼きながら寝てしまう事は、起きない筈である。

 そして、今年の冗談カレーの候補にサバ缶カレーを上げてみたところ、不思議な事にスタッフには好感触であったのである。そして、実際にデストロイヤー店長のMAXに食べてもらったところ、「普通に美味しい。」と、これまた、更に好印象。そして、試行錯誤の上、出来たのが、冗談カレーの「サバ缶カレー」である。

 ただサバ缶を入れただけでは淋しいので、トマトを入れて、ちょっと酸味系に倒してみる。味は締まったが、今一つカレーとしての輪郭がはっきりしてこない。そこで、生玉ねぎや、生姜などを加えて、試食してみる。今一つ・・・。土スペで、余ったオオバがあったので試しに入れてみる。おっ、引き締まったね!!札幌スープカレーでバジルを使うのは定番であるが、ウチのカレーにはバジルは浮いていません。それなら、バジルの変わりにオオバでしょ!!同じしそ科だからね。そして「冗談カレー版サバ缶カレー」の出来あがりである。

 冗談カレーとしては、それなりの出来だったと思う。しかし、その後である。なんと、掲示板の書きこみに、「サバ缶カレー保存の会」などと、不思議な書き込みがあったのである。これを見た、デストロイヤーのMAXが、大喜び。いや、大笑い?不思議な事に、サバ缶カレーを「期間限定カレー」に使いましょうと言い出したのである。魚好きのワシとしては、嬉しいような・・・、微妙なところである。

 実は、サバ缶カレーが出来る前に、プルプルでサバカレーを試作した事が有る。この時は、サバの値段が高くて、採算が合わなかったのである。というのも、生のサバ(もしくは冷凍もの)はそれなりに魚の値段がするので、缶詰よりも高くついてしまうのである。生のさばを圧力鍋で煮こんで、骨まで食べられるようにしても、サバ缶よりも高くついてしまう。サバの産地?の現地の工場で、大量生産する缶詰の方が安いのである。それならこれを使ってしまえと言うのが、サバ缶カレーである。

 しかし、サバ缶カレーを、普通の値段で出すには、もう一押しが必要なのでは、とわしは考えた。サバ缶カレーに使用したオオバは、実は日保ちがしない。何せ、サバ缶カレーである。一日に何食も出る代物では無い。普通の人はまず、食わないだろうと思われる。一日に1食でも、出れば良いほうだと思う。かなりの「通」向けのカレーである。

 だからなおさら、もう一押しが必要である。そしたら、MAXが、青じその漬物はどうだろうと言い出したのである。タンドリーチキンカレーの時の、福神漬けの延長である。タンドリーチキンカレーのときには、ちょっとした味付け&歯ごたえを楽しめるように、福神漬けをちょこっと入れたのである。今度は福神漬けの変わりに青じその漬物である。

 早速、近くのフードセンターで「青じそ」の漬物を買ってくる。サバ缶カレーに入れると、かなりのいい加減である。一口食べて、その食感と、味で「これは面白い」と、早速採用。青じそなら日持ちもするし、問題無しである。

 そして、期間限定カレー版「サバ缶カレー」の出来あがりである。

 サバ缶にイモ、ニンジン、インゲン、カリフラワー、トマト、青じそをカレーに入れて、グツグツ煮立たせて、サバ缶カレーの出来あがりである。おっと、ココナツミルクを忘れていた。そう、魚カレーには、臭み消しにココナツミルクね。

 プルプルのオープン前に発見された「サバ缶カレー」は、10数年の時を経て、冗談カレーとして甦り、更に期間限定カレーとして、カムバックしてしまったのである。

 しかし、ここで問題が、サバ缶カレーを気に入ったMAXが、サバ缶カレーを通常メニューに入れようと、言い出したのである。その上、知り合いの某H大の講師が、サバ缶カレーを気に入ってしまったり、E大の学生が、友人にサバ缶カレーを、熱く語ったりし始めたのである。ヤバイぞ、サバ缶カレー!!!!

 今になって、考えると「サバ缶カレー保存の会」は、MAXだったのではないかという疑惑が沸いてきている。

 納豆カレーが、当たり前の村上カレー店だから、何があってもおかしくは無いが、サバ缶カレーはどうだろう?

 ちょっと、悩んでしまう今日この頃である。しかし、サバ缶を消費する事で、水産業界に貢献出来るのは、うれしいことではある。しかし、出来れば、北海道産のサバ缶を使いたいところでは有るが・・・・、残念ながら現在使っているサバ缶は、八戸産である。魚連の皆さんごめんなさい。

 果たして、サバ缶カレーの定番昇格への可能性は出るのか?

 今後のサバ缶カレーの動向を注目したいところである。

 2009.11.19