「ART NUDE」Zepp大阪
1998.11.30
今回のタイトルは「ART NUDE」。コンサートというよりアート的要素の濃いライブで前半はコンサート、後半は女性の裸体(マネキン)に絵を描くというもの。
場所は今回新しくできた、Zepp大阪。地下鉄中央線の終点
コスモスクウェア駅から徒歩5分くらい。はっきりいって「灘」より辺鄙なところ。
初めてここZepp大阪に来たけど、会場はライブハウス規模の小さなもの。しかしながら適度に段差もあるしなかなかよい感じ。
私の席は中央やや後ろよりの下手通路側。それでも大阪城ホールの10列目ぐらいと同じ距離。
たぶん2階からでもちゃんと顔まで見えたと思う。
スポットライトのカーテンの中を、大袈裟な身振りで登場したテッペイちゃん。上手の客に向かって、あざといお辞儀。ターンして中央、下手とお愛想を振りまく。
そして、中央の椅子に腰掛け、まずはバラードを2曲。
おお〜、ねちっこい歌い方。吐息がセクシーを通り越して、笑けるゾ。
というわけで、なんとも妖しい雰囲気でのスタートでした。
「こんにちは〜」
下から這い上がるような言い方に笑いが起こる。
テッペイ「外は雨が降ってます。私が降らせたんです。……今日のコンサートはちょっと濡れたくらいの方がいいんですね〜。」
そして、会場の子連れの客に目をやり、
「今日、子供を連れてお越しのお母さん。"失敗したぁ。"と思ってることと思いますが、
ハッキリ言って大失敗です。(笑)」
実際その通りで、18歳未満お断り。禁断のライブなのでありました。
テッペイ「2階の方〜。見えてますかぁ。……立って欲しいですか?
今日は立たないんですねぇ。今日は座ったまま立ちますから」
<<……???……>>
と、どうしても下の方へいってしまう(笑)。
いつものように近況報告(HEP FIVEのはなしなど)、今回のライブの説明から、次回ライブのプロモーションさらに黒澤
明監督の死去まで盛りだくさん。
もちろんご当地ヨイショも忘れません。「大阪は大好き」「大阪の人はオープン」などなど。
これで客の掴みもOKというわけです。
次のツアーは、なんでも80年代ディスコサウンドの復活をめざすんだそうで、
その旗印ともいえる新曲の「HI TENSION LOVE」を
"ノリノリ" ではなく "しっとり"
と歌ってくれた。
"こっちもいいやん!"
と思ったのは私だけではないはず。
バラード中心にじっくり聞かせるコンサートで、合間にMCがたっぷりある。
テッペイ氏曰く「声でイカせるライブ」なのだそう(笑)。
そういえば、確かに声に艶がる。たいていはライブで各地をまわっているうち、ガラガラ声になっているのに。
会場を盛り上げるためにそれだけ「歌」以外のところで喉を酷使しているのですね〜。
今回は、オチャラケはまったく無しで、あくまでも正統派路線。
ダンスナンバーやアップテンポの曲もなく、終始椅子に腰掛けて歌っていた。
2、3曲ごとにMCがあって、たいへんアットホームな雰囲気。
わたしのとってはとても新鮮なコンサートでした。
この日、MCで一番受けたのは、「腕ボッコリ」のはなし。
テッペイ「僕は最近、女性の手首のところのボッコリに感じちゃうんですよ。コートの季節になって、いやらしいですね〜。普段は隠れてる腕ボッコリが、時計かなんか見る瞬間にチラッと見えるでしょ。隠れていたものが見えるというのはドキドキしますね〜。
太った人がまたいいんですね、肉でボッコリが見えないから、中にはどんなボッコリが隠れてるんだろうと思うとゾクゾクしますね〜。
おばあちゃんもいいですね。おばあちゃんななると、痩せてボッコリというより骨そのものって感じで、それがリアルでいいですね〜。
ボッコリは骨と皮だけじゃダメなんです。その間に血管がある人が最高にいい。
これはもう、ゴールデン腕ボッコリです。(爆)」
<<……何じゃそりゃ?(笑)>>
──むかしは「耳の後ろボッコリ」にセクシーさを感じてたらしいけど、
人と違う所を……ということで腕ボッコリにしたとか(爆)。
オリジナリティを追求する姿勢にアーティストの性を感じずにはいられません。
しかし気になったのはVIP席のオジサマ方です。
新しいライブハウスなんで会場関係の重役とおぼしき方々が二階下手のVIP席に陣取っていらっしゃったんですが、この展開を彼らは一体どう思ったのやら……。(笑)
後半のMCではイタリアでひまわり畑に出くわした時の話
(といってもその時花は咲いていなくて、ただの緑の草原だったらしいが)。
見渡す限り一面の緑で、その彼方から葉の揺らめきが銀色の浪となって渡ってきたときのことをアーティストらしく、臨場感たっぷりに語ってくれた。
そして、その風が自分の所に届いた瞬間、メロディーが浮かんだそうで、(ホンマかなぁ……)
その曲「草原の日」も披露してくれた。心洗われるような曲でした。
またそこで出会った家具づくりのおじいさんの話もよかった。
一度も土地を離れたことがなく、「子供からの仕送りがあるので、本当にやりたい仕事を好きなだけできる今が一番幸せ」というおじいさん。一つの椅子を2年間もかかって作ったそうで、「見てくれ。これ、俺が作ったんだ。」と、作品を見せてくれたときの子供のような笑顔を見たとき、涙がでそうになって、「負けた」と思ったんだとか。
亡くなった自分のおじいちゃんを思い出したんでしょうか。はたまた、儲けに一切こだわらずに自分の好きな仕事を楽しんでやってる姿に感動したのでしょうか。
人間の幸福について問いかけるテッペイちゃん。そこには下ネタキングのテッペイちゃんではなく、人間「石井
竜也」がいました。ハイ。
第一部最後の曲は「メモリー」
テッペイ「2階の方起きてください。(笑)最後の曲ですからね〜。」
最後はスタイリッシュに締めくくって第一部終了。
第二部。
警備のものものしさと会場のざわめきから、テッペイ氏が客席から出てくることが容易に想像できる。
しかも私の席は通路側。ひょっとして、コレってとってもオイシイやん!
とワクワクしてたら、黒のTシャツに着替えたテッペイ氏のお出まし〜。
会場騒然。みんな席を離れて通路へ突進してくる。
「いやぁ……でも触ったりは出来へんよなぁ?」
などと連れと話をしていたのに、テッペイちゃんがもみくちゃになりながら、横へ近づいてきたとき、どさくさに紛れてしっかりタッチしました(爆)。
しかしまあなんという大胆な出方。こうなることは分かってるのに。
彼の表情は覚悟を決めたような感じで、「どうにでもしてくれ〜」とばかりその目は笑っていました。
まるでイナゴの大軍のように人だかりがステージへと移動していく様は見物でした。
ここからは、芸術に親しむお時間。
テッペイ氏は画家らしくエプロンをつけて登場。ちょうどイタリア料理店で店員がしてるようなやつ。全身黒で結構かっこいい。
「今日は外人のモデルさんを用意してます。誰だっけ?
キャシー?
いや違うよキャシーはもうやっちゃったよ……(客席:笑)……あ、いや。そういう意味じゃないですよ。」
と、慌てて言い訳してたら、
前列客「わたしもやってぇ〜。(爆)」
こういう雰囲気は大阪ならでは(?)で、テッペイ氏は「『わたしも』ってなんちゅうことを!」と慌てたふりをしながら、結構ご満悦なのです(笑)。
結局今日のモデルは「クラウディアさん」とのことで、テッペイ氏が天に向かって大袈裟な身振りでその名を呼ぶと、上から十字架に架けられたようなポーズで裸のマネキンが降りてきた。
静かにBGMが演奏される中、せわし気に絵の具を吟味し、混ぜ合わせるテッペイ氏。それを客席がじっと見守る。
……なんとも不思議なライブです。はやくも彼のエプロンには赤の絵の具が飛び散っている。
それにしても、歌のときとうってかわって、絵になると素(す)になっているのが良く分かる。
表情は必死だし、マイクをつけてはいるものの描いてるときはまったくの無言なのでした。
ダンサーのマリーザが、美しいフランス語で朗読を始めた。テッペイちゃんがソロになってからずっと一緒に組んでいるカナダ人ダンサー。ファンの間ではすっかりお馴染みとなった彼女、美しい上にコケティッシュな魅力があり人気上昇中の人です。
今日は黒い宗教的なドレスに身を包んでなんとも荘厳な雰囲気。しかし読んでいるのは「エロ本」なんだとか。そうは思えないようなきれいな響きなのに……。
テッペイ氏はというと、猛烈な勢いで肌色をつくり、顔、胸、背中、腕と塗っていく。マリーザの朗読が英語へと変わる。じっと聞き耳をたてるが、「your
smile」だの「look at me」だのそんなにいやらしい内容とは思えないんだけど。彼女はカナダ人だけあって、英語とフランス語両方OKなのね〜。
テッペイ氏は相変わらず必死で動き回っている。今度は細筆で目、鼻、口を書き入れていく。そして残された部分に黒を塗りはじめた。
客席を意識してか見せ方にも気を配っている。前面を塗るときは、人形を回転させて背中を客席に向ける。すると、まるで抱擁しているかのようにも見えるし、時にもっといやらしくも見える。なにやら見ているだけでこそばくなってくる。
さすがは下ネタキングのテッペイちゃん。「アート」と「エロ」の境界線がどんどんあいまいになっていく。
朗読がイタリア語(?)に変わる。一体この人は何カ国語できるのだろう。一方、クラウディアは黒のライダースーツに身を包んだ「キャッツアイ」のように見える。ちょうどスーツが破れて胸や腰が見えたような格好。
今度は黒の部分に白で小さな点を描き始めた。全身となると結構時間がかかる。ピアノ線で吊るされたクラウディアは安定が悪くて描きにくそう。ちょっとしたテッペイ氏の仕草に忍び笑いが起こる。そんな時はふと手を止めて客席へのお愛想も忘れない。
すると、急に朗読が日本語に変った。笑いとどよめき。コレってもろ「ポルノ」やん!
それまで調子良く塗っていたテッペイ氏が「おおっ?」と筆を止めてマリーザを見る。
まるで、「なんちゅうこと言うの?」とばかり呆れたように首を振って見せた。
やらせたのはあ〜たでしょうに!
察するところ、日本語のよくわからないマリーザを騙して読ませたってところか……。彼はまたの名を詐欺師ともいう。
テッペイ氏は大きなハケに白い絵の具をたっぷり含ませて、フッ…フッ…と吹き始める。飛沫がかかってクラウディアは銀河の精みたいになってきた。
BGMがだんだん盛り上がってそろそろ仕上げに入ったみたい。
ペインティングの進行に合わせて音楽、朗読が呼吸を合わせている感じがライブっぽくていい。
やがて、小さなクレセント(三日月)が膝に描かれた。命を吹き込まれたかようように見える。
すると、テッペイ氏は筆をバケツに放り込むと、クラウディアの肩先をポンと突いた。そして、作品を披露するかのように、くるくると回るクラウディアを残して舞台袖に消えた。
拍手が続く中、すぐにジャケットを羽織ってテッペイ氏が出てくる。
クラウディアは静かに上に引き上げられ会場を見下ろしている。
今日の作品は、『夜を纏(まと)った女』とのこと。タイトルを聞いて思わずなるほどと感嘆の声がもれる。まるで宇宙に溶け込んだような神秘的な感じ。最初もっとカラフルになるのかと思っていたら、予想に反してえらくシンプルな色づかい。それでいて大胆な構図にすっかり魅せられました。
ほかの会場の作品が気になるな〜と思っていたら、また展示会をやってくれるとのこと。とっても楽しみです。
作品の内容は前半の歌のときに閃いたものにしてるそうで、私のごとき凡人にはなんで「腕ボッコリ」の話をしながら作品のことを考えられるのか、まったく分かりましぇん。
しかし、絵を描くのは相当体力を使うらしく、作品を説明する声もかすれている。
こっちは余裕かまして座っているというのに。お金払っているとはいえ少々悪いような気がする(笑)。
テッペイ「このまま終わるのもなんでしょうから、もう2曲ばかり……」
おお。なんという太っ腹。
それも私の大好きな曲で、聴くと必ずうるうるしてしまう名曲、「想い」と映画「河童」の主題歌でテッペイ氏の思い入れの強い「手紙」の2曲でした。
さすがに声が掠れているけれど、かえってそれがよかったかも。
……テッペイ氏が去った後いつまでも拍手が続いていました。
今まではコンサートの満足度と終わってからの疲労度は比例するというか、盛り上がれば盛り上がる程、くたくたに疲れ、その疲労感が心地いい、というのが常だったのに、今回はまったく違って疲労感でなく、ほんのりあったかいものが心に残ったコンサートでした。