【絵羽とエヴァの夢の中の対話】 「…“懐かしき故郷”は、私たちの想像をきっと 裏切らないわ。……お父様が唯一懐かしむ過去は 少年時代だけだもの。」  そうね……。なら、“鮎の川”は?  それが泳ぐ川は複数あるし、お父様が住んでい た場所のすぐ近くにあったかは怪しい。  …鮎の生息するどの川が地図上、距離的に近い か…、何て話になると急に曖昧になって特定がで きなくなる…。 「……自分で言ったじゃない。水の流れる川かど うか、わからないって。……鮎という言葉がそん なにもややこしいなら忘れてしまえば…?  川で考えるの。川で。“家系図”という連想は 悪くないわ。その要領で川から連想するものを、 他にも考えてみて……。」  ……川じゃなくて? 川じゃなかったら鮎は泳 げないのに?  あぁ、でも、鮎が泳げるってことは海まで繋が ってるのかしら……。  川魚だけど、海に出るってうちの人も言ってた し…。……………。  …………………………………。  ……………海まで。  ……………………いえ、…でも、………。  ……え…? 「……気付いた? でもうろ覚えなの。ここには 書庫があったはず。調べれば確認できるわ。  ……それが“鮎の川”なら、……。  ………そして鍵は6文字の単語かもしれないな ら。  …………………鍵が本当にその川に眠ってると いうの?  わ、わからないわからない。  …とにかく地図帳を調べなければ…。  でも、それがわかったとしても、“何から”6 文字を間引くかがわかってないじゃない…。 「……本当にわからないの? よく考えて。…… …私たちは下手に頭がいいから発想が硬いのよ。  碑文の謎なんて大層に考えないで、子どものな ぞなぞだと思って。……男なんて、いくつになっ たって子どもなの。お父様が老境に差し掛かった としても、心の中の本質的な部分は子どもと何も 変わらない。  ………お父様への畏怖を捨てるの。…真里亞が 船の中で突然出してくるような、下らなくて低脳 ななぞなぞ遊びだと思って。」  …なぞなぞ。……下らない、低脳な。  ……………………。  …………………え、………あ。  ………あれは確か、…何だっけ、……えっとえ っと……。  …確か、私の記憶が違っていないなら、……多 分あれはえっと…。  ううん、あやふやな記憶で確かめなくていい。  それもきっと書庫で調べればすぐにわかる。 「………私たちは多分、もう答えに気付いてる わ。…後はそれが正しいか調べるだけよ。  さぁ、絵羽。誰にも気付かれないように、書庫 へ。……あそこには、お父様の書斎から溢れ出し た硬い本が山積みよ。…きっと、私たちの疑問に 答えてくれる本が見付かるわ。………急いで。こ れが生涯で最初で最後の、私たちの夢の叶うチャ ンス。」 【書庫でのテキスト】  ……書庫は使用人室の隣にある。  お父様は元々、大量の蔵書を持っていたが、オ カルト趣味に傾倒するようになってからは、さら にその手の蔵書が増え、一般的な書斎に相応しい 真っ当な蔵書を圧迫し書斎から溢れ出させてしま った。  そういう、まともな本を保管しているのがこの 書庫なのだ。  知識人ぶった百科事典全巻みたいな硬いものば かりだが、調べ物がしたい今の私にはとても好都 合だった。 (中略) 「………あった。…これになら載ってるかし ら。」  私はその本を抜き出すと、ばらばらとページを 捲る……。 「……………う。………これ、………“鮎の川” …?」  なるほど…。  鮎の川とはそういう意味なのね。  ……もたもたしないで、さらに調べて。 「え、えぇ、わかってる…。川を下ればやがて里 あり…。里って町や村って意味? 人口密集地だ もの、そんなのいくらでもあるわよ…。」  どうして思考を停止するの!  嫌ならやめちゃえば…?  右代宮家の当主は霧江に譲っちゃえばぁ?! 「い、…嫌よ…。私が当主になるの。…これがそ の、最初で最後のチャンスなのよ…。……里って 何? 里ってどういう意味?! この“川”を下 ると里なんてあるの……?! …………あ、…… …ぁあぁぁぁ……!!」  ……その里にて、二人が口にし岸を探れ。  ……“岸”よ。わかってる? 「う、…ごくり…。わわ、わかってる…! 岸、 ……岸………!」  全然意味のわからなかったピースが、……目の 前で勝手に、……ぱちり、ぱちりと組み合わさっ ていく……。  開いた口を閉じることも思い出せない。  …喉がからからに渇いていく…。  これ、……本当にこれが答えでいいの?  ほ、本当に? 本当になのッ…?! 「…でも、これは全然6文字じゃないわ。……こ れは答えに間違いないって断言できるけど、これ は全然6文字に満たない…!」  また思考停止? なら、それを6文字で読める 方法を考えなさい。  思いつかないなら調べなさい。  ……きっと答えはある。それを疑っては駄目。  それが信じられないなら、とっとと泣き寝入り でもして、ヘソでも噛んで死んじゃえば…? (後略) 【黄金隠し部屋へ向かう道】 「………こっち? ……こっちへ回れってことよ ね…………? こいつらが、……私をこっちへ回 れと、誘っているもの……。」  ……ッ!!!  心臓が飛び上がる。  …そこには、…………ぽっかりと、……不気味 な暗黒が口を開けていたからだ。 (後略) 【黄金隠し部屋から出るところで】 (前略) 「……姉さんにヒントをあげるんじゃなかった わ。そうだったなら、ここに辿り着いたのは、き っと私が一番だった。……残念よ。」  楼座には、この階段がどこに続き、そしてその 先に何が待ち構えているのか、理解できているよ うだった。 「言うわね。………私より遅く辿り着いたくせ に。」 「………鮎の川に悩みすぎたわ。鮎なんて大した 意味、ないじゃない。」 「そんなことないわよ。立派なヒントだったじゃ ない。まぁ確かに、鮎である必要はなかったかも ね。…でも、鮎が海に出る魚だと聞いて、私はそ れで気付いたの。」 (後略)