ねぇねぇ♪

別棟にある特別教室へ移動する途中で見慣れた背中を見つけた。
自慢の足を駆使して、周りの人を避けながら距離を一気につめた。

「わぁーかぁーちゃん!」

俺より幅広の背中にがしっと抱きついた……もちろん振り払われない様に
腕も回してしっかり固定した。

「…………」
無言だけど不機嫌なんだぞ、という空気が俺の周りを包み始めた。
「わぁかちゃん♪」
「カズ。廊下で抱きつくのは止せと言ってるだろ」
俺の方を伺うでもなく、前を向いたまま喋っている事が俺の気に障った。
「若ちゃん、ご機嫌斜めだね」
「判ってるなら、懐くな」
まだ前を向いたまま。
う〜ん、俺の方までご機嫌斜めになりそう。
でも若島津に対する忍耐力の方がずっとずっと上だから、ぐっと傾きかけたのを
立て直した。

「若ちゃん、明日一緒に出掛けよう!」
「語尾に疑問符が付いてないようだが、決定事項かそれは?」
驚くでもなく怒るでもなく何事も無いように言葉が返る。
ムッ!まだこっちを向かない。
「嫌なのか?久々のオフ日だから遊びに行こう!」
「………島野あたりを誘えよ」
その一言に温厚な俺のコメカミがひくひくとなり、折角立て直した気分が反対側に
一気に倒れてしまった。

少しつま先に力を入れ、ぐっと背伸びをして顎を若島津の肩に乗せる。
そうすることで、さっきよりも体重を乗せてやった。
「カズ。よけろ、重い」
「ヤダ!」
無言の不機嫌オーラが俺に攻撃体制をとった。でも俺から攻撃してやる。
「いい加減こっち向かないと、ここでキスするぞ」
「なっ…!」
慌てた若島津の顔が動いて、ようやくあいつの目に俺が映った。
ちょっと赤くなって動揺してる若島津も可愛い。
いつもとりすましたポーカーフェイスを崩させて、こんな表情させるのも俺の
特権だよな。
「やっと俺のこと見た」
にっこり笑ってやると、バツが悪そうな顔をした。
「……お前を見ないからって、嫌がらせか?」
分かってないね、若ちゃん。
「何でそう思うのかな?」
恋する純真な心を理解してないなぁ、と溜息をつく。
「俺は若ちゃんが好きなのに……」
「……ちゃんと知ってる」
そう言いつつ思いっきり溜息をつかないで欲しいな。
それに『判っている』じゃなくて相変わらず『知っている』なんだね。
「そう…知っているなら明日付き合ってくれるよね?」
眉尻が上がって本格的に困った表情を見せる。
でもこの顔って俺の勝ちだよね?
その顔をじっと見つめる。

「……了解」
ほらね。
「大好きだよ、若ちゃん!」
今の俺の表情って幸せ全開だと思う。
だから若島津も仕方ないなと、少し困った感じの微笑をくれた。
「寮に帰ったらドコ行くか決めような」
「えっ?決めてなかったのか」
「折角のデートなんだから、二人で決めたいじゃん」
約束を取り付けた俺は、若島津に回していた腕の力をゆっくりと抜いた。

「じゃ、後で」
若島津から離れる瞬間に頬を掠める様にキスをした。
「か、カズ!!」
若島津が怒鳴ってた時には、俺はあいつの手の届かない場所まで
離れていた。
「じゃ、グランドで!」
少しだけ振り向いて手を振った。
困ったような怒ったようなあいつの顔に苦笑いが浮かんだ。
 
 
 
ずっと先の未来のことなんて考えたくない ……… 一緒には走れないから。
だから明日の事を一緒に考えようよ ……… 目の前にある小さな現実を。

その目が見つめる未来には俺が居ないから。
だから確かに俺が存在する明日だけを考えて欲しい。

だって………明日ならまだ二人でいられるから。

end


飛行機雲
美紗様より頂き物 v

お話とイラストの物々交換です!
実はおねだりいたしました。てへv
不親切にも「若に抱きつく反町君の図」とだけお伝えして、
背景設定とか一切説明無しでお話を書いていただきました。
バッチリでございます!素晴らしいです!
「美紗さんってエスパー?」ってくらいピッタンコでございますっ!
せつなくもステキなお話をありがとうございました!!!

美紗様のサイトはコチラ!
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