A・X号戦車パンターF型の御尊顔
このイカした鋼鉄の芸術品は、ドイツ機甲師団の中核を担った主力戦車であったパンターシリーズの最後期型、パンターF型です。これは殆ど実戦に参加した記録が残っていない試作中の試作戦車で、当時としては最強バランスの戦闘力を誇っていました。この項には関係ないですが、特筆すべき特徴として「ステレオ式測距儀」を搭載、実に3000mオーバーの超アウトレンジ射撃を可能にしていました。
今回はこの戦車に採用されている足回りをひいきに、ネチネチうんちくを垂れていきます。
B・転輪が重なる方式
この戦車の転輪のイカした見た目はズバリ、この重なった転輪の存在感からくるものでしょう。これは俗に千鳥足転輪と呼ばれるものです。二枚重ねの転輪を交互に重ね、地面への接地面積を稼いでいる訳です。
トーションバーサス(次の項目で詳しく触れます)との組み合わせで、非常に良好な安定性を得、接地圧分散にも寄与していますが、一方で非常にメインテナンスが面倒だという欠点もはらんでいました。仮に奧の転輪が破損したとして、それを交換するために一体何枚の転輪を外すことになるのでしょう・・・。ドイツ的勤勉さは時として、合理性追求の為に非合理を許容するという矛盾を生み出すのです。シビレルーーー!!
C・ダブルトーションバーサスペンション
パンターシリーズは、はドイツ的根性を以てダブルトーションバーサスペンションを懸架装置に採用していました。これは、転輪一軸あたり二本の棒バネを用いたもので、シングル式よりも格段にストロークが大きいのが特徴でした。そのため凹凸の多い不整地でも高速で機動することが出来ました。
しかしその構造上、棒バネをシャシの下部分で貫通させなければいけなかった為、他の方式よりも車高が高くなるという欠点がありました。また、生産や保守にも手間が掛かり、そういった意味でもドイツ的なシロモノでした。
D・起動輪のアップ
履帯にもっと近づいてみると、この様になっています。赤部が起動輪、黄色部が履帯のガイドプレートです。二枚重ねの転輪で黄色部分のガイドプレートをはさみ、履帯を保持する訳です。余談ですがこの履帯一斤を見ても非常にドイツ的精巧さで出来ており、やはりメインテナンスに手間が掛かったようです。
E・V号戦車G型の足回りは・・・
一気に時代を遡ってV号戦車G型を紹介。大戦が始まる前の設計ですので、パンターに比べるとどうしても旧式の感は否めませんが、主力戦車不足の大戦中期以降も、主力の穴埋めとして終戦まで使われました。
特徴がないのが特徴のような戦車なのですが、逆に言うと実に堅実な造りをしており、実用性は折り紙付きでした。
足回りも例に漏れず凡庸ですが堅実で、パンターのような凝った物ではなく、リーフスプリングとボギーを用いたオーソドックスな転輪を使用しています。
この小さい多数の転輪は、高速走行には向かないものの、射撃時の安定性は非常に良好であったようで、また見ての通り保守作業も容易でありました。
さらに外見的な特徴として、履帯上部の補助転輪も抑えておきたいところです。小さな転輪とセットで、グッとそれらしく見せることが出来るのでは。ちょっとアナクロな雰囲気を出したい方にお薦めです。
F・変わり種の快速戦車
最後に紹介するのはソヴィエト製の経戦車、BT-5快速戦車です。
クリスティー型と呼ばれる足回りを採用しており、どちらかと言えば車のサスに近い構造をしています。
というのもこの戦車のオツな点は、履帯を外してまるで車のように走行できるというもの。前方の第一点輪が操舵輪となっており、路上の走行速度は最大70km/hに達したそうです。
前述の通り車に似たシンプルな構造のお陰で製造も簡単であり、精密な工作の行えない工場でも製造が出来るという利点がありました(ソヴィエト製は往々にしてそうですが)。
しかし、その構造が災いして軽い戦車にしか採用することが出来ず、時代の波に乗れなかったクリスティー型はやがて廃れていきました。
広義でいえば、BT-5経戦車の子孫にあたるT-34等もクリスティ型と言えるでしょうが、やはり装輪装軌走行は省かれていました。
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▲A.千鳥足転輪を採用したパンターF型

▲B.ダブルトーションバーサスを採用し、良好な接地安定性

▲C.高性能な反面、ドイツ的複雑さでコストが高くなり・・・

▲D.スプロケット部アップ。ギミックの再現がリアリティに


▲E.V号戦車G型。オーソドックスな懸架装置で高信頼


▲F.BT-5快速戦車。履帯を外して車のように走行できる |