20.2.8A(Opton TessarF2.8)  vs  2.8F(PlanarF2.8)

 「栄光のローライフレックス史」の中で、かわいそうなことに評価が今ひとつなのが「2.8A」という機種であります。…こんな風に書き出してしまうと、オーナーやファンの方に叱られそうですが、実際、「ローライ2眼の中で最初のF2.8モデル」という、本来なら記念すべき機種でありながら、「発売当初からつまづいた商品」としてローライ史に名を残すことになってしまった「不運」なモデルなのです。
 しかし、その「不名誉」な称号は、本当のところいかほどのものなのでしょうか?この回では、2.8A(特にオプトン・テッサー付き)の実力を、後の後輩、「成功を収めた商品」のプラナー2.8Fと比較実写してみたいと思います。

 尚、今回の比較には、風来坊さんのご協力を頂きました。風来坊さん、ありがとうございました。

Rolleiflex2.8A(OptonTessar)
f8, 1/100
Rolleiflex2.8F(Planar)
f8, 1/125


 テッサーレンズについては、いつも同じことを書いている気がしますが、このF2.8のテッサーもやはり、歪曲は非常に少ないと言えるでしょう。やや樽型が出てはいるものの、むしろ後輩のプラナーより少ないくらいです。詳細に観察すれば、「クセ」といったものはあるようにも思いますが、概ね「目立たない」といっていいレベルではないでしょうか。一方、コントラストという点ではやや後発のプラナーに譲るかという感があります。


Rolleiflex2.8A(OptonTessar)
f2.8, 1/500
Rolleiflex2.8F(Planar)
f2.8, 1/500


 このフェンスの写真でも、プラナーの方がコントラストが出ている分、金属の硬い感じはより出ているように思います。(それほど劇的に違うわけではありませんが)
 ピントの合っている範囲はちゃんとほぼ同じに見える一方、背景の大きな木の枝は、テッサーの方が柔らかく、薄く写っています。悪く言うと、溶けて飛んでしまい気味です。この辺りに特徴がありそうです。


Rolleiflex2.8A(OptonTessar)
f8, 1/10
Rolleiflex2.8F(Planar)
f8, 1/15


 モノクロの場合は、後のプリント処理などによってもかなり印象が違ってきますので、絶対的な評価ではありませんが、こういうものを撮った場合にはやはりプラナーの方が、「黒がしまって見える」という感があります。この自転車のチェーンカバーは黒なのですが、より黒らしく写っているのはプラナーの方です。また、自転車本体の色はシルバーですが、その辺の質感描写もやはりプラナーの方が1枚上手かも知れません。
 一方、「解像力」という意味ではテッサーも中々のもので、小さな部品やタイヤに書いてある小さい文字などもきちんと写し出しています。


Rolleiflex2.8A(OptonTessar)
f8, 1/250
Rolleiflex2.8F(Planar)
f8, 1/250


 キャビネ(あるいは2L)サイズくらいまでで、パッと見ただけでこの違いが分かる、あるいは気になる方はあまりいらっしゃらないと思います。が、つぶさに観察すると窓枠の細いラインなどの部分で、やはりテッサーの方がやや軟調な描写となっています。かなり大伸ばしした場合には、「やはりプラナーの方がいい」という方もいらっしゃるかも知れません。これも解像力というよりは、コントラストの差のような気もします。「細部が出ていない」のではなくて、「クッキリ感に差」という感じです。
 また、プラナーについてはこれまでも、「中心部と周辺部の描写力の差がクセノターなどに比べて少ない」とご紹介してきましたが、この差についてはテッサーも少なく、画面全体が平均的によく描写されていると思います。


Rolleiflex2.8A(OptonTessar)
f8, 1/250
Rolleiflex2.8F(Planar)
f8, 1/250


 さて、色目もちょっと気にしていきましょう。ここで気がついたのですが、このオプトンテッサーは微妙にイエローがかるようです。元々なのか、経年的なものかは定かではありませんし、また気になるほどでもありませんが、特に白い部分には少々影響が見られます。それを除けば、プラナーとはやはり先輩、後輩を思わせる「ツァイス色」という雰囲気です。
 ここでは、中心の狛犬(?)の手前の目にピントを合わせたつもりです。狛犬の質感については、やはりプラナーの方がオプトンテッサーより硬く、金属的な感じになっています。多少のピントのズレといった要素を考えたとしても、オプトンテッサーの方がやや軟調です。プラナー自体がクセノターと比べると特に画面中心部において柔らかい描写ですので、それを考えるとこのテッサーは「ローライF2.82眼の中で軟調な方」と言えるでしょう。


Rolleiflex2.8A(OptonTessar)
f4, 1/25
Rolleiflex2.8F(Planar)
f4, 1/30


 「ツァイス同士で色目の傾向は似ている」と言っても、こうなってしまうとテッサーのような古いレンズ、特に内面バッフルも無い時代の機種は、一気に破綻してしまいがちです。逆光はおろか、このように特に明るい部分が画面内に入ったという程度の場合でも、フレアなどの影響をモロに受けて色が濁ってしまうことがあるのです。プラナーでも影響は出ていますが、まあよく押えられているというか、「頑張っている」と言っていいでしょう。まだ朱色が朱色に見えます。一方のテッサーでは全体に青味がかってしまっていました。
 しかし、こういうところを殊更に問題視して、「古いローライ2眼は逆光に弱くて使えない」などという方もいらっしゃるようですが、ローライに限らず、こうした「写真は順光で撮るべし」という時代の設計のカメラに、最新のカメラと同じような対逆光性能を求める方が「酷というもの」とも言えるでしょう。「こういうもの」と理解して、使い方を考えてあげるのが「より良い付き合い方」かと思います。


Rolleiflex2.8A(OptonTessar)
f4, 1/1
Rolleiflex2.8F(Planar)
f4, 1/1


 夜景など撮ってみても、「反射」に対する「抵抗力」の差は現れてしまいますね。もっとも、いわゆる「レトロな雰囲気」の演出という意味では、こうした古いテッサーの使いこなしを考えながら撮ってみるのも面白いのではないかと個人的には思いますが、一般的なレンズ性能という観点から言えば、どうしてもテッサーよりも、プラナーの方が評価は高くなるでしょう。それは更に研究を重ねてから出されたものなのですから当然です。
 もちろん、フレア、ゴーストといった問題にはレンズそのものだけではなく、コーティング、ボディ内バッフルなどの工夫の違いもあります。そうした意味も含めて、総合的により撮影しやすいのは、この2台で比べれば2.8Fでしょう。しかし、「使いこなして個性を出そう」とすれば、テッサー付きもまた捨て難い魅力があります。「どういう時にどう写るか」を考えながら撮影できる方には、特有の面白みが感じられるでしょう。


 さて、冒頭で2.8Aのことを「かわいそうなことに評価が今ひとつなモデル」とご紹介しましたが、もう少し詳しく事情をご説明しましょう。
 2眼レフに限らず、強力なライバルが増えてきた当時のカメラ業界にあって、ローライは更なる「高性能化」の一環として、「開放F値2.8のモデル」の開発に着手。そして発表したのが2.8Aでした。当初は、オプトンではなくイエナ製のテッサーF2.8レンズが搭載されていました(一説には、戦前からツァイスがストックしていたものの流用品)。しかし、このイエナテッサーが、「ポートレートなどなら良いが、風景写真などを、特に大伸ばしする場合には軟調すぎる」などと評され、またローライ自身もこれを認め(この裏には、ローライの責任というより、イエナレンズが設計性能を発揮していなかった、またはイエナの大チョンボがあったというようなことのようですが)、リコールという形で製品の回収、交換を行ったのです(リコール後はイエナではなく全てオプトン製テッサーとなりました)。しかし、結局あまりイメージは改善せず、ローライは早々に2.8Bビオメター、更にプラナーへとF2.8モデルを転換させていってしまいました。

 今回試写した2.8Aテッサーは、その「リコール後モデル」で、それを2.8Fプラナーと比較してみたわけですが、実は一部の試写については、2.8Bビオメター、2.8Aイエナテッサーでも一緒に行ってみました。それも含めての感想としては、「確かに年代順に並べてみると『進歩』といったものを感じるが、2.8A単体で見た時に、それほどの瑕疵があるだろうか?」という感じでした。2.8Aイエナテッサーについては日本でも某有名写真家が、「とんでもないボケ玉だった」と評したそうですが、私が試写したものは所謂「アタリ」だったのか、オプトンよりむしろ良い結果な事もあったくらいで(オプトンは2台試しましたが、イエナは1台のみなので、これをして全てのイエナ製F2.8テッサーを語ることはできないかも知れませんが)、「リコールまでするほどの問題があったのだろうか?」と思いました(ましてや当時のフィルム性能など考えれば、どれほどの差だったのでしょう?)。実際、パーカー本などによれば、ローライが既に販売されていた2.8Aイエナテッサーについて行ったリコールに対して、返品交換されたのは全体の半数ほどだったそうです。「むしろ、この位柔らかい方が自分好みだった」と言って、ポートレート用に使用していたというカメラマンの話なども紹介されています。
 ちょっと違う観点からのお話をしますと、私がこれまで行ってきたローライ2眼試写、その範囲で持ったローライ使用テッサーレンズの変遷のイメージからすると、このF2.8テッサー達は、同時代のF3.5テッサーより、むしろそれ以前のF4.5、F3.8テッサーの描写に近いような気もします(コントラストと解像感のバランスというような意味で)。そんな「先祖がえり」を、「自分の期待したテッサーとは違う」と思った人たちも、その頃にはいたのかも知れません。

 「基本性能」という意味でプラナーと比べれば、全体的にやはり一歩譲るという感はありましたが、オプトンにしてもイエナにしても、F2.8テッサーが「どうしようもないほど悪いレンズ」であるとは思いませんでした。むしろ使う人の意図によっては、「何を撮ってもOK」のプラナー、クセノターよりも活かし方があるかも知れません(そこが「1台で何でも撮れる」を標榜していたローライとしては「問題」だったかも(苦笑))。台数が少ない割に、比較的購入しやすいお値段で取引される2.8Aですので、ご興味のある方はお試しになってみても良いのではないでしょうか。