(質問):バイクについているギアは何枚もありますが、どれを使うのがいいのでしょうか?
また、ギアを軽くして無理しない方がいいのでしょうか、
それとも重くしてパワーをかけて踏んでいくのがいいのでしょうか?
(回答)
ギアはこまめに変えることをおすすめします。
基本的に軽くして回すべきです。
しかし勝負どころでは一気にパワーで攻めることも大切です。
時と場合によって使うギアは異なります。
基本的に、下りでは重いギアにかけてわずかな回転数で進むようにし、
登りではギアを軽くして少しの力でもペダルを回せるようなギアにします。
下りでは前方に向かって推力がかかるので、当然平地や登りよりもスピードが上がります。
重いギアにして「ペダル1回転あたりに進む距離」を長くすることによって、
速いスピードでもペダルを回せるようにします。
軽いギアだと、後輪の回転の速さにペダリングがついていけないですね。
逆に登りでは、後方に向かって推力がかかります、よって平地や下り坂よりもスピードが落ちます。
前方に向かって進もうとする推力すべてを、自分の力で発生させなければなりません。
軽いギアにして「ペダル1回転あたりに進む距離」を短くすることによって、
遅いスピードでもペダルを回せるようにします。
重いギアだと、ことのほか足に大きな負担がかかり、
極端にペダルの回転数が少なくなるのでバランスも崩しやすくなりますし、
踏み込めなくなって「ゼロキロ落車」「立ちごけ」も発生しますね。これはかっこわるいです。
では平地はどうなのか?
平地でも、重くしたり軽くしたり、そのときそのときでいろいろと変えて走ります。
なぜか?
平地といえども、風向き風力、路面状況、体調や疲労度によって、
自分とバイクにかかる抵抗や感触はずいぶんと異なります。
中でも大きな要素を占めるのが風で、向かい風の時には3m/sくらいの風を受けると、
軽い上り坂を登っているような感覚です。
逆に追い風の時は下り坂を下りている感覚でスピードがぐんと伸びます。
横風のときはバイクが揺られます。やはり大きな空気の抵抗を受けます。
向かい風より横風を嫌う選手も多いです。
さらに、まっすぐ走ろうとするために自然と推力方向がやや風上に向きます。
結局、どれくらいがいいのか?目安はあるのか??
回転数を考えてみてください。
ペダルはクランクと呼ばれる17cm余りの棒でつながれて中心と繋がっており、
それを回すことによって直結しているフロントギアが回転するわけですが、
ここで考えるのはその回転数です。
80〜90revolutions/minute、つまり1分間に80回転から90回転ほどの回転数が、
一般的に理想的とされています。
これは、ケイデンス機能付きサイクルコンピュータで測ることができます。
ケイデンスとは、"cadence"、もともとはリズムや拍子などという意味で、
自転車の世界では「回転数」という意味で用います。
一般的なコードレスのサイクルコンピュータよりも少し高価で配線が必要ですが、
ケイデンスを測るためにはこれしか方法がありません。
しかし非常に利用価値が高いので、使用を強くおすすめします。
で、どこの回転数かというと、
ケイデンスを測るセンサーをクランクの部分に取り付けるので、
正確には「クランクの回転数」ということになります。
「ペダルの回転」と言ったら、
ペダル自体のみがクランクの先でくるくる回っていることを指すことが多いですね。
で、その80〜90rpm(revolutions per minute)のケイデンスですが、
走行中は常にケイデンスがサイクルコンピュータによって計測され表示されるので、
これをキープするあたりでクランクを回すのがいいでしょう。
この範囲以下になりそうなときはギアを下げて(軽くして)回転数を上げ、
この範囲以上になりそうなときはギアを上げて(重くして)回転数を下げるとよいでしょう。
同じコースでもスピードによってその回転数は変わってきます。
先ほど挙げた風の向きや強さ、体調や疲れ具合によって、
ギアを調節する必要があるわけですね。
飛ばして走っていると、大概きつくなって回転数が落ちてきます。
大切なのは、スピードでなく回転数です。
そうしたら、無理せずギアを落とし(軽くし)ましょう。
この80〜90rpmという回転数は、個人差があります。
私は最近ロングを頭に入れているので、100〜105rpmくらいの速い回転数を維持するように心がけており、
(なんでロングのために回転数を速くしているのかは、このつづきに書いてあります)
今ではこれくらいがちょうどいいと思えるようになりました。
ツールドフランスを4連覇したランス・アームストロングはよく回す選手として有名で、
個人タイムトライアルでは平地で115rpmを普通に刻むという高速回転で、
実際その強さ・速さも他選手の追随を許さず群を抜いています。
とはいえ、これは最高峰の選手の例なので、
まずは一般的とされる80〜90rpmを目処に回すといいと思います。
(私が高回転数を心がけているのは、アームストロングに憧れているからというわけでは、...少しあります)
あと3つほど、軽いギアを薦める理由があります。
たとえば100mという同じ道同じ距離を、同じスピード同じ所要時間で、
ギア比を違えて1回目は50rpmで、2回目は85rpmで進んだとしましょう、
両者の感覚的な負担は、同じでしょうか?
答えは、「NO」です。
物理的な計算上では、仕事量は同じなはずです。
がしかし、人の体はそんなに簡単ではないのですね。
その人の体調やライディングのタイプによって、体にかかる負担や感覚は異なります。
ひとこぎひとこぎに大きな力を加えてクランクを回すよりも、
クランクの回転数を増やして一度にかかる力の量を落とす方が、一般的に楽です。
さらにもしそれが上り坂だったら、平地だったら、下りだったら、
その回転数によって体にかかる負担や感覚はさらに異なります。
まぁ下りの場合はペダリングしなくても進んでいくので、
回転数を落とした方が楽ですね。
一般的には、パワーで踏み込むよりもくるくる回した方が体にかかる負担は軽く感じます。
さらに、トライアスロンではショートでも40kmバイクを駆ります。
バイクのあとにランが控えていることを考えれば、
少しでも負担を軽くしてバイクを走るべきなのは、言うまでもないですね。
これがミドルやロングになってくると、その重要度はさらに増しますね。
さらにその結果として、大腿部や脚部、体幹(腹筋背筋)の故障の発生を抑えることができます。
これが「軽くして回した方がいい」2つ目の理由です。
3番目の理由は、
ペダリングの基礎は回転にあるということです。
「はぁ?なんのこっちゃ」と思った方、
あなたは相当「ママチャリ」や「シティサイクル」に乗ってきた方ですね?
トライアスロンや自転車競技で使われる自転車は、
シューズをペダルにビンディングシステムで固定するのが普通です。
このことにより、「ペダルを踏む」だけでなく、「ペダルを引き上げる」こともできるようになっています。
ペダルがいちばん上にある状態の位置を「上死点」、一番下にある状態の位置を「下死点」といいますが、
上死点→下死点→上死点→下死点→・・・、と
この「ペダルを引きあげる」という動作により、踏むだけよりも大きな力をバイクに伝えることができます。
さらに、その回転がうまくできるようになると、
1回転あたりの負担を、シューズを固定していないときよりも軽くできますし、速く走れます。
「引き足」も使えるようになるわけなので、これはまぁ普通に考えられます。
そして、その回転をうまくできるようにするためには、
スムーズなクランクの回転によるトレーニングが不可欠です。
そのトレーニングには、軽いギア比で行うのがよいとされています。
重くすると、パワーに頼り勝ちになってしまうからです。
踏むだけのペダリングでは、感覚的には上死点から下死点へほとんど垂直に負荷をかける感じです。
「立ちこぎ」をすると、その感覚はさらに増すでしょう。
そこにペダルを「引き上げる」動作ができるようになることより、
下死点から上死点への負荷もかけられるようになります。
しかし、やはり直線的な感覚で「踏んで」「引き上げて」いては、大きなパワーロスが生じています。
ではどうするか?
円運動を描くようにクランクを回すのです。
クランクもペダルも、バイクの真横から見れば円運動を描いています。
これに沿って力を加えれば、無理なく少ないパワーで効率よく回転させることができるでしょう。
ペダルは、「踏むのではなく回す」のです。
さらに言えば、「こぐ」というよりも「回す」というほうが、より正確です。
これを習得するには、ギア比を軽くして感覚をつかむ必要がある、というわけです。
競技歴が浅くバイクに乗り始めの方々は、まずはこの感覚と技術を習得するべきです。
初めのうちはアウターを使わずにインナーのみでしばらく乗るくらいでちょうどいいぐらいかも。
パワーのみに頼って重いのばっかり回していると、
トライアスロンでは今に必ずパフォーマンス向上の頭打ちがきます(経験者・談)。
しかしパワーが必要ないかというと、決してそんなわけではありません。
トレーニングしてパワーがついてくると、上り坂でもギアを落とさなくても、
回転数を維持できるようになってきます。
結果として速いスピードで走ることができ、タイム短縮に繋がります。
が、そのパワーを「うまく使えれば」の話です。
正しい回転ができていてこそ、そのパワーはより活かされるものと考えてください。
あと軽いのを回すメリットとして、
チェーンやフロントギア、スプロケット(リアのギアの歯;フリーギア)の寿命が長くなる、
BB(ボトムブラケット)の寿命が長くなる、
フレームの寿命が長くなるなど、
全体的にバイクをいたわることにもなりますね。
激しい力を加えると、それだけ部品にも負荷がかかるわけですね。
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