(質問):補給食はどのように摂っていくのがいいのでしょうか?
トレーニングのときやレースのときの補給食の取り方を教えてください。


(回答)
早め早めの補給を心がけてください。
のどが乾く前に水を飲み、
おなかが空く前に補給食を摂るようにしましょう。

トレーニング中は比較的自由に補給ができると思います。
トレーニング中は普段から水や補給食を身近において、早め早めの補給をしていきます。
スイムの時ならプールサイドやスタート台の横にボトルや補給食を置いて、
バイクの時はバイクボトルの他に、バイクジャージの後ろのポケットに補給食を入れておくとか、
途中、自動販売機やコンビニなどで一休みというのもありです。少しのお金を持っておきましょう。
ランの時もバイクの時と基本的に同じです。
酷暑の日は、水の入ったボトルを携帯できるような、腰に巻くタイプのポーチの使用も考えます。
どのみち、ほしくなったらすぐに補給できるような状態でトレーニングするべきです。

さて、補給する「物」ですが、
市販されている物をそのまま使用してぜんぜん問題ありません。
あえて言うならば、ただの水よりも薄い食塩水のほうがいいですし、
レモン水を加えても効果的です。
ただバイクやランの時は「飲む」だけでなく、
体温を下げるために「体にかける」ことも考えましょう。
糖分が入っていると、かけたあとでねちゃねちゃして不快感があります。
バイクの時は、スポーツドリンクを入れたボトルと、水を入れたボトルの2本を持つと、
いろんな状況に対応することができます。
食べ物も、カロリーメイトやウィダーインゼリーなどの携帯しやすいものでいいし、
おにぎりなどでもかまいません。

食べるタイミングは、トレーニングやレースの距離、天気、気温や湿度、疲労状態、
そして個人によってまちまちなので、一概には言えません。
何度か自分でいろいろなタイミングで食べてみて、
自分にあったタイミングと摂取量を見つけることですね。
ただ、ある程度定期的に摂取していくと、燃料切れになる心配は少なくなりますね。
私の場合は、たとえばバイクのロングライド180kmの時には、
だいたい20kmごとくらいにエネルギーゼリーをひとつ、そして
だいたい40kmごとくらいにコンビニで大きな補給を入れます。

食べ物を選ぶときの基準は、おもに糖質と炭水化物です。
...まぁ極論を言ってしまえば、分解されれば炭水化物も糖質だし、炭水化物も糖質の一種なんですけどね。
糖質は吸収されやすく、そのままエネルギー源となりますし、
後で書いている「ハンガーノック」の対処になります。
炭水化物は糖質の次に利用されるエネルギー源で、長時間の運動には不可欠です。
ハンガーノックに対しては、こちらは対処というよりは「予防」になります。
糖質が多く含まれるものとしては、コーラやスポーツドリンク、
果物、チョコレート、ケーキなど甘いものですね。
炭水化物は、米や小麦が代表的です。だからおにぎりやパンが炭水化物源になりますね。
ただし糖質と炭水化物だけとればいいというわけではなく、あくまで基準のひとつです。
実際には、タンパク質や脂質も重要な働きをするので、
長いレースではこれらも摂取する必要があります。

それからビタミンとミネラルですね。
ビタミンはAやB1、B2、B6、C、Dなど、
ミネラルはカリウムにナトリウム、カルシウム、マグネシウムなどのことです。
これらは発汗とともに徐々に体内から失われていきます。
ビタミンとミネラルは、摂取したエネルギーを利用するための潤滑剤と考えてください。
つまりビタミン・ミネラルの欠乏は、エネルギーの代謝や筋収縮を妨げることになり、
トレーニングやレースに大きな影響を及ぼします。
バナナ、梅干しやレモンなどを運動中に摂ると、クエン酸も摂れて効果的です。
またほとんどのスポーツドリンクは、ミネラルが配合されています。

◇なぜ、早めに補給をしていく?◇
冒頭に、早め早めの補給を心がけると書きました。
これはどういうことなのかというと、
「のどの渇きや空腹を感じたときには、体内の水分やエネルギーはすでにぎりぎりの状態である」
ということに由来します。
のどの渇きや空腹は、体が発する一種の警告(バイタルサイン)で、
早急に摂取しないと生命活動に支障をきたすということを意味しています。

食べた物がエネルギーとして利用されるには、消化吸収という過程を踏みます。
消化吸収は、摂取したエネルギー源によってその時間が異なり、
糖質・タンパク質・脂質の順で時間を要していき、またそのエネルギーが高くなっていきます。
多くの食品には、これらすべてのエネルギー源が含まれており、
すべて消化吸収するとなると、3時間ほどかかってしまいます。
もっとも消化吸収の早い糖質であっても、30分はかかります。
水分の吸収も同じようなものだと思っていていいでしょう。

だから、のどの渇きや空腹感をおぼえてから水や食糧を摂ったとしても、
はっきりいって遅い
んですね。
消化吸収の前に、運動に使える水分やエネルギーは尽きてしまいます。
普通はここで、競技やトレーニング続行不可能となってしまいます。
だからそうなる前に補給、ということですね。

◇ハンガーノックとは?◇
ハンガーノックという言葉があります。ご存じですか?
言葉は知っていても、どういうことかわからないとか、
誤った解釈をしていらっしゃる方が多いので、ここではっきりさせておきましょう。
一般的には、次のように言われています。

・食物を受け付けない状態
・疲れていないのに急に体が動かなくなること
・おなかが空いて動けないこと
・ガス欠
・血糖値が下がって力が入らなくなった状態
・グリコーゲンを使い果たし、体が突然動かなくなること

間違いではないのですが、すべて「当たらずとも遠からず」という解釈です。
ハンガーノックの言葉の由来は私はよく知りませんが、
(クルマのノッキングのように前へ進まなくなるからという話を聞いたことがありますが)
ハンガーノックになると、たしかに自分の意志とは関係なく体が動かなくなり、思考能力が鈍り、
手足がしびれ、めまいなどの症状がでます。
ハンガーノックの状態では、競技を続けることはできません。

その原因はずばり。極度の低血糖です。
つまり、グリコーゲンの枯渇。
筋肉中に蓄えられ筋収縮のエネルギーになっている「筋グリコーゲン」ですが、
運動によって筋グリコーゲンはどんどん消費されていきます。
グリコーゲンの補給がないまま運動を続けていくと、筋グリコーゲンは枯渇(欠乏)してしまいます。
この状態がまさしくハンガーノックで、先ほどのような症状がでます。
エネルギー源であるグリコーゲンが枯渇した筋肉は、その活動を停止させてしまいます。

ハンガーノックを回復させるには、一刻も早い糖質の補給、それも消化吸収の早い単糖類を補給すること。
可能なら点滴を打つ。
しかしそれでも、少なくとも30分は復活不能。
はっきりいって、レース中にハンガーノックに陥ると、復活は非常に困難です。

だから、レース中はもとより、トレーニング中にもハンガーノックを起こさないように心がけるべき。
その予防法が、先ほどから述べている「早め早めの補給」なんですね。
つまり、早め早めにグリコーゲンを補給して筋機能を維持させる。
ただしここで補給するのは、多糖類。
単糖類は吸収が早いけど、同時にインスリンの作用で、結果的にかえって低血糖を引き起こしやすくなるんです。
多糖類は消化吸収が単糖類より遅い分、そのリバウンドもわずかですみます。

単糖類とは、それ以上分解できない(=加水分解できない)糖質のことで、
たとえばブドウ糖やデキストリン、オリゴ糖、果物に含まれる果糖などがこれにあたります。
多糖類は、単糖類が多数結合して水分が抜けたもので、デンプンやグリコーゲンなど、ぶっちゃけ炭水化物です。
たとえばおにぎりやパン、パスタなどに含まれるもので、
単糖類に比べ一般的に消化吸収が遅く、エネルギーが高いのが特徴です。
さきほど糖質と炭水化物を分けて書いたのは、このように同じ糖質でも性質がちょっと違うからなんですね。
糖質には他に二糖類(ショ糖(普通の砂糖)、麦芽糖など)もありますが、消化吸収面での性質は単糖類に近いです。

◇水分のはなし◇
水分も、エネルギーと同様に、のどの渇きを覚える前に、少しずつ摂取していきます。
一度にたくさんの水を摂ると、吸収しきれず、胃がもたれます。
一般的に、1kcalの運動をすると、1mlの水が失われるといわれています。
トライアスロンではショートで約3000kcalを消費します、
つまり3リットルもの水分が失われます。
体の水分は、体内の循環や物質の運搬にとどまらず、
体に生じた熱を放散させる作用も大きいので、
失った水分は摂取する必要があります。
この際、0.1〜0.2%の食塩水を摂取すると、疲労防止に有効という実験報告があります。

実験報告といえば、普段から多めに水分を摂っておくと、ロングのレースには有利というのがあります。
安静時のヘマトクリット値(血液中の赤血球の占める割合)が低いほうが、総合順位がよかったという結果があります。
安静時の血液濃度がやや薄目であるほうが、競技で水分が失われることで粘度が保たれるということで。
競技前に体内に過剰に水分をため込んでおくウォーターローディングという考え方は、このあたりに端を発しています。

◇ロングではバイクでの水分補給を多めに◇
スイムでは想像以上に皮膚から水分を失っています。
海での3kmのスイムで、ヘマトクリット値は3.5%ほど上昇します。水分量にして、約500〜700ml。
これを無視すると予想外の脱水になり、とんでもないことになります。
スイム終了後には、しっかりと水分を補給しておく必要があります。
さらに、特にロングでは、ランでの脱水に備えた対策として、
バイク中に多くの水分をあらかじめ摂っておくことが大事です。
ランに入ってあわてて補給しても実は遅くて、吸収までの時間に間に合わないわけで、
結果的に成績は振るわなくなることが多いという報告があります。

◇水分不足は疲労を招く◇
水分が不足して脱水になると、疲労が早く現れます。
経験的に分かっていることではありますが、脱水になると、体内の循環が悪くなります。すると...

組織に酸素が十分に行き渡らない

末梢組織(手足)へのエネルギーの補給が悪くなる

血液粘度上昇・酸素欠乏による運動能力の低下・判断能力低下・疲労物質(CO2や乳酸・リン酸など)の排出の停滞

疲労

競技成績低下

というわけですね。

◇水分の摂りすぎが危険という考え方◇
水分は摂れば摂るほどいいというものではなくて、
理想的には最終的に失った水分と同じ量の水を摂ることです。
水分を摂りすぎると、ナトリウムの濃度とカリウムの濃度が薄くなってしまうという弊害が起きます。
ナトリウム濃度とカリウム濃度の低下は、筋収縮に影響を与えます。
これは直接、疲労の原因です。
水分を摂って疲労していたんじゃ、本末転倒でしょ。

ってわけなんだけど、水分の摂取といっしょにミネラルもとれば、問題はないです。
スポーツドリンクは、そのへん研究が進められて作られた飲み物で、
水分といっしょにナトリウムやカリウムもちょうどいいバランスで摂取できます。
だから、ポカリスエットやアクエリアス、
味が濃すぎるからって水で薄めて飲んだりしたら、水分摂取過多になってしまうかもですね。
そのままストレートで飲みましょう。

◇レースの日の朝食はしっかりと◇
エネルギーは、あらかじめ余裕をもって補充しておいたほうがレース中の疲労が少なく、レースに有利です。
これはロングのレースの話ですが、
上位の選手は、朝食とバイクパートで多くのエネルギーを摂取していて、ランに備えています。
下位の選手はまったく逆のパターンを示し、ラン競技中のエネルギー摂取量が多いんですね。
しかもこのランの時にあわてて摂取したエネルギー、たぶんあまり利用されてません。

レース当日の朝は早く、準備などで時間もあっという間に過ぎていきますが、
しっかりと朝食をとることは非常に大事であると、覚えておいてください。
レース中のエネルギー摂取をあまり行わないショートのレースとなると、その重要性はさらに増しますね。
あらかじめ体内に炭水化物を余計に詰め込んでおくグリコーゲンローディングも、
このあたりの考え方と同じです。


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