(質問):食事は最大のトレーニングと聞きました。
実際のトレーニングにおいてどのような栄養素がどのような働きをするのですか。
(回答)
そのとおり、最適な食事なくしてパフォーマンスの向上は見込めません。
栄養素ごとに個々の働きは存在しますが、
その多くは相補的に関わり合っているので、
最終的には、すべての栄養素をバランス良く摂るに越したことはありません。
食事はトレーニングと同等以上に大切で重要です。
食事を疎かにしていてはどんなトレーニングも効果半減ですし、
極論を言えば、食事を変えなければ体は変わりません。
体を作る時期、具体的には「高タンパク低脂肪の食事」を心がけるわけです、
たとえば笹身や卵の白身、温野菜などですが、
これについては後で触れましょう。
まずは個々の栄養素が果たす役割について。
ここでは「エネルギー」「ビタミン・ミネラル」に分けて述べていきます。
ちなみに、ちょっと「おことわり」をしておかねばなりません。
私は栄養学の専攻ではありません、
元になっているのは大学・大学院の講義やいろんな書物(コピー含む)です。
ほかにどこからか自分で仕入れてきた知識やいろんな方の話、
および自分の経験に拠っています。
だからあまり偉そうなことは言えないのですが、
執筆においては、自分がとりあえず押さえている事項をメインに書いて、
それから本などで確認、修正、そして補足、という手段をとっています。
「ビタミン・ミネラル」の項では、列挙しているところなどは最初から本に拠った部分もあります。
ページ末に参考文献を載せておきました。
毎度毎度、いい加減ですみません。
◇エネルギー◇
まずはエネルギーについて。
エネルギーの三大要素は、「糖質」「タンパク質」「脂質」です。
つまり身体活動の大元となるエネルギー(カロリー)は、主にこの3つから摂取しているわけです。
◇エネルギーその1 糖質◇
まず糖質ですが、これは大きく3種類に分けられます。
(1)単糖類・・・ブドウ糖、果糖、オリゴ糖
(2)二糖類・・・砂糖・麦芽糖・ショ糖・乳糖
(3)多糖類・・・グリコーゲン・でんぷんなど
消化吸収のスピードは(1)(2)(3)の順に速いです。
とくに(1)は消化の過程が存在しないので、すぐに体内に取り込まれていきます。
(2)(3)は一度消化の過程を踏まないと身体に吸収されません。
だから極度に疲労しているときには単糖類の摂取が有効、なんですが、
一度にたくさん単糖類を摂ってしまうと、急激に血糖値が上がり、
時にはこれにより過多量のインスリンが分泌され(インスリンは血糖値を下げるはたらきがありますよ)、
結果として低血糖を招くことがあり、リスキーです。
最近ではこの点が注目され、エネルギー源としての補給食やスポーツドリンクなどで改善が図られ、
二糖類をメインとしたものも現れています。
また(1)(2)(3)の順で脂肪になりやすい、ということも覚えておくといいかもしれません。
糖分は、体内では主に肝臓と筋肉に、グリコーゲンのかたちで貯蔵されます。
その貯蔵量は少なく、半日〜1日で尽きてしまうぐらいです。
グリコーゲンが枯渇してしまうと、ハンガーノックに陥り、運動活動が不可能になってしまいます。
糖質の主な供給源は、炭水化物です。
炭水化物は分解されると糖質になります。
砂糖や果物などの甘いものだけでなく、
ごはんやパン、パスタなどの麺類、いも、豆にも「でんぷん」のかたちでたくさん含まれています。
もっともごはんやパンには糖質以外にもタンパク質の供給源にもなってますけどね。
余談ですが、パンよりもごはんのほうが、同じエネルギー量でも糖質の割合が高く、タンパク質・脂質の割合が低いです。
「太るモト」とかいう理由で炭水化物を摂取しないというのを聞きますが、はっきりいって勧めません。
ただし就寝前の炭水化物の多量摂取は控えた方がいいですね。
糖質の主なはたらきは、次の2つ。
(1)血糖値に関わる
血糖というのは文字どおり血液中にある糖質のことで、成分はブドウ糖です。
血糖値はその量を表したものですが、
血糖値が低いと体内の神経活動がにぶりイライラしたり気力が下がったり思考力が落ちたり、
血糖値が高いと糖尿病などの生活習慣病に陥ります。
血糖値を調整するために、腎臓(副腎)から糖質コルチコイドやインスリンといった物質を分泌しています。
体内に大事な血糖ですが、とくに脳などの神経細胞は、糖質しかエネルギー源として使うことができません。
摂取した糖質の30%は、脳のエネルギーになるとも言われています。
集中力も血糖に左右されます。
血糖値を正常に保つために、炭水化物は十分にとらなきゃダメですね。
(2)神経活動と運動のエネルギー源となる
運動のエネルギー源となることについては少し触れましたが、
前述のとおり、糖質は肝臓と筋肉にグリコーゲンとして貯蔵され、
それぞれ「肝グリコーゲン」「筋グリコーゲン」といいます。
肝グリコーゲンは主に神経活動のエネルギー源になります。
神経細胞はエネルギーを貯蔵できないんで、肝臓のグリコーゲンを分解し血液で運んで(=血糖)使用しています。
筋グリコーゲンは、そのまま運動のエネルギー源になります。
特に、短い時間の激しい運動(無酸素運動)では、筋グリコーゲンが分解されてATPが作られます。
ATPってのはアデノシン三リン酸。筋収縮の直接のエネルギー源ですね。
ちなみに運動時間が長くなっていくと、ATPの生成に、
血液中の糖質(血糖)・タンパク質・脂質も利用されてきます。
この場合は大量の酸素が必要で、このエネルギー生成の過程を踏む運動を「有酸素運動」というわけですね。
と同時に、血糖値を維持するために、肝グリコーゲンも利用されて分解されてきます。
トライアスロンではふつうに起こることなので、レース中は炭水化物補給を心がけ、
レース後には高炭水化物食を摂って、炭水化物の貯蔵量をできるだけ早く回復させましょう。
糖分と密接なはたらきをするもののひとつに「クエン酸」があるので、ここで取り上げておきます。
クエン酸は食酢の一種で、一般的な食酢の中に含まれる酢酸(濃度4〜5%)が体内で変化したものですが、
かんきつ系の果物や発酵したデンプンなど、体外にも広く存在しています。
酢ほどすっぱくなく(分子構造上、酸味は1/3)、甘みがあります。
体内ではビタミンやミネラルのようなはたらきをします。
最初に触れた、単糖類の糖質摂取が招く低血糖ですが、
これはクエン酸によってある程度対処可能です。
クエン酸には糖質の吸収過程を一時的に抑える働きがあります。
よって、糖質といっしょにクエン酸を摂ると、グリコーゲンの合成が優先的に起こり、
結果として速攻でグリコーゲンが身体(筋肉および肝臓)に蓄積されるというわけです。
糖質を余計に体内に詰め込む「グリコーゲンローディング」という方法があることから分かるとおり、
レース前にはこれは効果的です。
つまり、レース前日には、食事と同時にクエン酸&糖質が多く含まれたかんきつ系の食物を摂るとよいでしょうね。
疲労回復にもなります。
◇エネルギーその2 タンパク質◇
タンパク質は英語で「プロテイン」です。
ギリシャ語で「最も重要なもの」を意味します。
ギリシャといえば、古代オリンピックがあったくらいに大昔からスポーツが盛ん。
水分を除いた人間の筋肉の約80%はタンパク質です。重要なわけですね。
タンパク質は、肉や魚・卵や牛乳や乳製品といった動物性のタンパク質と、
大豆や大豆製品といった植物性のタンパク質に分けられます。
で、タンパク質って結局何なのかというと、アミノ酸の結合体です。
複雑な構造を持つ、窒素を含んだ有機化合物です。
タンパク質が分解すると、アミノ酸になるんです。
で、アミノ酸は何かというと、アミノ基を含んだ...
まぁいいでしょう、アミノ酸はタンパク質を消化吸収するために分解したものと覚えておいてください。
タンパク質が重要なだけに、アミノ酸も同様に重要ですよ。
アミノ酸は、筋肉や血液、ホルモン、皮膚や髪などの身体の構成要素になります。
そして、糖新生という作用を受けてブドウ糖になり、エネルギー源にもなります。
タンパク質の栄養価は、含まれる必須アミノ酸(=体内で作ることのできないアミノ酸)の含有量とバランスで決まります。
一般に動物性のタンパク質は、人間の体の中での利用効率が高いとされています。
動物性のタンパク質というと、肉や魚。
でもね、種類や部位によって、タンパク質の含有量はかなり違うんですね。
肉や魚には、タンパク質と同様に脂肪も含まれるので、
このへん気をつけないと、タンパク質をとったつもりでも実は脂肪をとってた、とかなるんで、注意です。
どんなのがいいかというと、理想的なのは冒頭にも出てきた「高タンパク低脂肪」ですよね、
具体的なのが鳥のささみ、若鶏の胸肉、魚ではタラやカツオ、カレイやヒラメ、タイですね。
貧乏食卓には結構な高級魚です。。。
逆に同じ肉や魚でも「低タンパク高脂肪」なのが、
豚バラ肉、豚ロース、牛バラ肉、牛サーロイン、若鶏もも肉、魚ではサンマにブリ、サバといったところ。
いやぁ、うまそうなものばっかりですねぇ。
脂身つき・皮つきっていうのは、脂肪ばっかりでタンパク質は比較的少なめです。
ちなみに豚・牛ともに、ヒレ肉はその真ん中ぐらいですね。魚ではサケ、アジもそのへん。
タンパク質の主なはたらきは、そのままアミノ酸のはたらきと同じで、さっき述べたように、
(1)身体の構成要素となる
(2)
エネルギー源になる
の2点ですが、アスリートにとってはトレーニングにおいて筋肉の生成と回復に密接に関わっているので、とりわけ重要です。
具体的に言うと、
トレーニングの時には体内のタンパク質が分解(破壊)され、
トレーニングの後には体内のタンパク質が合成(修復)されます。
つまり筋肉においてはタンパク質が破壊→修復→破壊→修復→・・・というサイクルになるわけで、
修復されずに破壊されたままだと、さらなる破壊が起こらないので、トレーニングの効果は激減します。
修復させるためには、タンパク質の摂取が不可欠。
このサイクルにおいて筋肉は肥大し、筋力が増えて、強化されていくわけですが、
この現象を「超回復」と言っています。
しかし回復が遅れたまま運動時間がのびると、筋肉のタンパク質はエネルギー源として使われていきます。
この現象もやはりトライアスロンではふつうに起こるので、
トレーニング後やレース後は速やかなタンパク質の摂取が必要ですね。
さてタンパク質には以下のような性質があります。
(1)体内に貯蔵させることができない
糖質のように体内に蓄積させておけません。
よって、コンスタントに摂取する必要があるわけです。
つまり、タンパク質の摂取を心がけた食事は、エネルギーの蓄積には効果がないので、
プロテインローディングはできません。
レース前日の食事にタンパク質重視のメニューは、あまりよくないですね。
(2)組織の成長や維持に不可欠
成長ホルモンの分泌も促し、アドレナリンやインスリンの生成にも欠かせません。
食事から常に適切な量を摂らなきゃ、ですね。
食事から十分に摂取されない場合、体内の組織から補充してしまうので、
つまり、筋肉が細くなって、機能低下してしまいます。
(3)脂肪に変化する
使われなかったタンパク質は、脂肪に変化するか、排出されます。
筋肉を効果的に修復させるためには、練習後できるだけ早く食事をとりタンパク質を摂取するのがいいです。
だいたいの摂取タイミング目安は練習後20分以内と言われています。
時間が経過した状態でタンパク質をとると、脂肪に変化する割合が高くなります。
また余分に摂ったタンパク質も脂肪に変化して体内に貯蔵されるので、大量摂取は要注意です。
(4)利尿作用がある
アミノ酸の中の「アミノ基」は、体の中で完全に燃焼できずに体外へ尿(おしっこ)として排出されます。
タンパク質をたくさん摂ると、アミノ基もたくさん排出されます。
しかもアミノ基の排出は腎臓に負担がかかるので、多くの水分排出が必要になり、
体内水分不足(脱水)の状態になりやすいのです。
またカルシウムの排出量も多くなると言われているらしいです。
タンパク質は摂らなきゃいけないけど、摂りすぎは良くないんですね。
摂る際は、量と質(栄養価)、そしてタイミングが重要ですよ。
◇エネルギーその3 脂質◇
すべての栄養素の中でもっとも嫌われる運命の「脂肪」。
女の子のすべての元凶とされる可能性があまりにも高い「脂肪」。
秘めている潜在エネルギーとか天然ウェットとか言われる「脂肪」。
中年男のおなかのお供、「脂肪」。
まぁどれでもいいんですけどね。脂肪です。
とりあえず最初に言うと、「脂肪は悪者とは限らない」ってことですね。
いい脂肪もいるんです。
というか、欠かすことのできない重要な栄養素ですよ。
脂肪は、脂肪酸の結合体です。
脂肪酸は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられ、
不飽和脂肪酸はさらに、一価と多価に分けられます。
飽和脂肪酸は常温では固形で、不飽和脂肪酸は常温で液体(油)です。
この中で悪者と言われているのが飽和脂肪酸。
主に動物性脂肪に含まれてます。血中コレステロール値を上げてしまいます。
不飽和脂肪酸は、DHA(ドコサヘキサエン酸)・EPA(エンコサペンタエン酸)など。
頭よくなりますよ。
DHAは脳の発達や血栓の予防、EPAはコレステロールの低下などにはたらきます。
代表的な一価不飽和脂肪酸はオレイン酸。酸化されにくく、善玉コレステロールの割合を高めます。
多価不飽和脂肪酸はリノール酸が代表的。必須脂肪酸(体内で作ることのできない脂肪酸)です。
これが不足すると、恒常性の維持に影響してきます。
ところで、「脂肪」と「脂質」の違いですが、
「脂質」のほうが大きな括りです。
「脂質」は中性脂肪・コレステロール・リン脂質の3つに分けられ、
一般に「脂肪」といえば、これら一つひとつ、もしくは2つ以上を指す、ような気がします。
まぁこんなうんちくはどうでもいいんですが(よくないかもしれんけど)、
関心があるのはそのつき合いかたですね。
脂肪(中性脂肪)は、1gあたりの熱量は9kcal。
糖質・タンパク質が1gあたり4kcalなのと比べると、これはかなり高い数字です。
たとえばごはん茶碗一杯180kcalと同じ重さ(同じ大きさではない)をすべて脂肪で摂ったら、その熱量は2.25倍の405kcal。
ずっとコレが続くと、かなり深刻です。
というわけで、脂肪は高エネルギー栄養素です。
だから、ちょっと食べただけで大きな熱量を得られるので、
カロリー計算の面で考えると、非常に効率的ですね。
でも逆に、食べすぎてエネルギー取りすぎにもなりやすいので要注意ですよ。
ただ、「脂肪不足・脂肪不摂取」に関することになると、様相が変わってきます。
減量やダイエットなどで脂肪は敬遠されがちですが、
脂肪の摂取量を減らしていても炭水化物やタンパク質の摂取エネルギーが過多だったら、体脂肪は減らないです。
余った糖質やタンパク質は体脂肪として蓄積されるからです。
体脂肪を減らす減量を目指すなら、摂取する脂肪だけでなく糖質やタンパク質にも目を向けないとダメですよ。
脂肪をぜんぜん摂らないと、脂溶性のビタミン(AやDなど)が吸収されないし、必須脂肪酸不足も手伝って、
慢性的なビタミン不足の症状に悩まされます。便秘気味にもなるらしいです。
脂肪も、タンパク質や糖質同様、摂らなければならない栄養素のひとつです。
大きな違いは、その熱量と性質(悪玉のもの)。
そこさえ気をつければ、脂肪は味方になってくれます。
味方といえば、脂肪には巧妙があります。
脂肪は水に浮きます。水に浮くというのは、ウェットスーツを着ているようなもの。さらに保温性も抜群です。
これはほんと、スイムには有利です。
陸上競技の長距離の選手は、だいたい水泳が苦手なんですが、
これは男性で5%以下という体脂肪率の低さが災いして水に浮かない、さらに水に体温を奪われやすい、
というのがひとつの要因でもあります。
でも必要以上の体脂肪はいらないと思うもの。
だってバイクやランでは...ただのおもりなんだからねぇ。
というわけで、どうやったら体脂肪をうまく減らせるか。
脂肪は、おもに低負荷・長時間の有酸素状態でのエネルギー生産に利用されます。
低負荷、というのは人にもよるけど、
トレーニングを積んでいるトライアスリートならだいたいスロージョグくらいでOK。非鍛錬者ならウォーキングで。
長時間というのは、最低でも20分以上とされています。
これも人それぞれだけど、だいたい20分くらいしないと体脂肪は効率的に燃えてきません。
結論として、L.S.D.(Long Slow Distance)と呼ばれるトレーニングが効果的です。
文字どおり、長い時間、ゆっくり、距離を走ります。
体脂肪の減少効果も大きいですが、L.S.D.本来の効果である「有酸素運動能力閾値の身体能力の向上」も得られます。
つまり、有酸素系のトレーニングの疲れ具合が軽くなってくるんですね。
ようするに、走るための土台が作られてくるわけで、どんどん長く走れるようになってきますよ。
目に見えた効果がほしいなら、60分のL.S.D.を週3日、1ヶ月。
食事はバランス良くしっかりとって下さいね。
ちなみに、
どんなにがんばっても減らない体脂肪もあります。
これは生体防御反応のひとつで、
体脂肪率が0%ということには決してならないようになってます。
全盛期のフランクショーターの体脂肪率は2%だったらしいですが、
このあたりが限界でしょうね。
あんまり体脂肪率を減らしすぎると、弊害が多いのも事実です。
ダイエットなどの指標として使われる体脂肪率ですが、
ある程度まで下げることに成功したら、次は体水分量や筋肉量などに目を向けてみるといいかもですね。
トライアスリートの理想的な体脂肪率というのも一概には言えないのですが、
(重要なのはむしろ最大酸素摂取量、筋力、最高血中乳酸能力)
私の所属していた大阪体育大学のトライアスロン部では、
男子で8%前後、女子で19%前後というところでした。
(主に1年生を測ったので、競技歴の長い選手や強い選手はもっと低いかもしれません)
◇ビタミン◇
ビタミンって耳慣れた言葉ですが、日本語で言うとなんでしょうね。
そのものズバリの直訳ではないですが、答えは「補酵素」です。
エネルギーを生み出したり、糖質やタンパク質などを合成・分解したり、
そういう体内のはたらきには「酵素」が必要です。
酵素はこれらの化学反応を促進させる触媒のようなものですが、
この酵素のはたらきのカギを握っているのが補酵素、つまりビタミンです。
例を出してみましょうか。
先ほど説明したL.S.D.をやってるとします。
20分以上走ってきて、身体がそろそろ脂肪の燃焼を求めてきている。
そこで脳は、脂肪を分解する酵素である「リパーゼ」の分泌を器官に促します。
でも酵素リパーゼは勝手に出て行くわけではなくて、その分泌量は補酵素ビタミンBによってコントロールされます。
足りないときはたくさん出して、多すぎるときは抑えて、って感じでしょうか。
スイッチみたいな役割をします。
だから三大栄養素が満ち足りていても、ビタミンがないと、そのエネルギーは活用されません。
潤滑剤とか触媒みたいなはたらきをすると説明する方もいますね。
ビタミンには以下のような性質があります。
(1)体内で合成できない
食物やサプリメント、注射などで栄養素として摂る以外の方法では得られません。
(2)体内に蓄積できない
だから毎日定期的に適量をとらないとダメですね。
どんどん消費されていきます。
(3)微量で効果あり
そんなにたくさんはいらないんだけどね、地味に重要な存在です。
辞書でビタミン(vitamin)を引くと、こんなふうに書いてあります。
vitamin=「動物の発育と栄養を保つのに微量ながら不可欠の有機物の総称;
エネルギー源にはならず代謝に関与する」
経験的にも感じることですが、とくにアスリートはね、ビタミンをまめに補給しないと、
エネルギーの循環がうまく行かなくなります。
調子が悪いときって、ほんとはビタミン不足だった、なんてことが多々あります。
最近では気をつけてないと普段の食事ではビタミンが充足されにくくなってきています。
そこでサプリメントをオススメ。
マルチに摂れるタイプのがいいかと。
それから、覚えておいたほうがいいのが、
ビタミンB群とCは水溶性で、その他は脂溶性ということ。
(厳密にいうと間違ってますが、よく出てくるビタミン群に関してはこれでOK)
ビタミンって摂取しても水や脂肪がないと、はたらかないんですよ。
自分で作れない、貯め込めない、溶けないと使えない、でも微量でよし、と、結構わがまま。
以下に、そのわがままさんたちを列挙してみました。
A・・・・・・視覚機能に関与。明暗調節機能とか。あとは皮膚や粘膜のメンテナンスに関与。
B1・・・・・エネルギー代謝、とくに糖の分解に関与。アルコールを分解するときにも大量に消費するので、飲み会の前は必須?
B2・・・・・エネルギー代謝、とくに脂肪の分解に関与。欠乏すると口内炎など皮膚粘膜の炎症がでる。
B6・・・・・タンパク質の吸収と代謝、糖質の分解、それから赤血球を作ったり。あんまり欠乏は起こらないらしい。
B12・・・・核酸の合成と赤血球の形成、タンパク質の代謝に関与。これも欠乏することほとんどなし。
ナイアシン・・ビタミンB複合体のひとつで特に無酸素エネルギーの生成に関与。脂質や糖質の代謝、有酸素エネルギー代謝にも。
パントテン酸・ビタミンB複合体のひとつでグリコーゲンや脂肪酸、ピルビン酸の代謝などを補助。
葉酸・・・・・ビタミンB複合体のひとつで核酸とタンパク質の合成に直接補酵素としてはたらく。
ビオチン・・・ビタミンB複合体のひとつで脂肪酸とグリコーゲンの合成に関与。直接補酵素としてはたらく。
C・・・・・・骨や毛細血管、歯の細胞などのメンテナンス。風邪などの抵抗力、鉄分吸収、タンパク質の代謝にも関与。
D・・・・・・カルシウムの吸収を促進。カルシウムと同時に摂ろう。
E・・・・・・赤血球や筋肉の形成に関与。ビタミンAやCの抗酸化作用もあり。
K・・・・・・血液凝固に関与。
また、アミノ酸がビタミンのようなはたらきをすることがあります。
たとえば脂質の代謝に関わるアルギニンですね。最近話題です。
筋肉の主成分のアミノ酸であるBCAA(分岐鎖アミノ酸;バリン・ロイシン・イソロイシン)と並んで、
ダイエット系飲料や体づくり系飲料によく含まれています。
聞いたことあるでしょ?
◇ミネラル◇
ミネラルは、無機物・無機質を意味します。
身体の構成物質を元素レベルでみると、70%近くは酸素です。
あと炭素、水素、窒素を入れて、96%ほど。
残り4%が無機質(ミネラル)です。
で、ミネラルの役割は、大きく2つ。
(1)身体の構成成分になる
さっきの「残りの4%」がないと、人間の身体が形成されません。
96%じゃ不十分でしょ。
具体的には、骨とか歯とか、ヘモグロビンやATPの材料になったりってことね。
ホルモンやビタミンの成分にもなってます。
(2)代謝を調整する
言葉は似てますが、ビタミンのはたらきとは根本的に異なります。
ビタミンとミネラルはまとめて扱われることが多いから、同様に解する方もいますけどね。
ただし相補的な関係にあるのは間違いありません。
トライアスリートに身近なところでは、たとえば身体の細胞内外の浸透圧を維持したりとか、
筋肉を興奮させやすくするとか、心筋の収縮を安定させるとか。
身体に必要なミネラルは、全部で15種類。
いちばん多いのはカルシウム。体重62kgの私の身体だと、だいたい1400gくらいカルシウムかな。
次にリンですね。エネルギーの源となるATP(アデノシン三リン酸)に含まれています。
とりあえず15種類、挙げておきます。
カルシウム(Ca)…骨や歯などを作る。神経の興奮を抑える。心筋の収縮作用が増す。不足すると骨折・手足のしびれなどの症状。
リン(P)…Caと結合しリン酸Caを作り、骨や歯などを作る。ビタミンB1・B2と結合して補酵素を作る。ATPの材料。
カリウム(K)…細胞外液の浸透圧を調整&維持。心臓の機能。筋肉の機能を調節。
硫黄(S)…解毒に関与。さまざまな酵素の活性に関与。ビタミンB1の成分のひとつ。
塩素(Cl)…胃液の成分(塩酸のかたちで)。血液の浸透圧の維持にも関与。
ナトリウム(Na)…細胞外液の浸透圧を調整&維持。アルカリ性を保つ。
マグネシウム(Mg)…筋肉の興奮性を高め、神経の興奮性を低める。多くの代謝反応に関与。不足すると筋肉のけいれんや食欲不振に。
鉄(Fe)…ヘモグロビンの材料として酸素の運搬に関与。コラーゲンの合成にも関与。不足すると貧血・肌荒れに。
マンガン(Mn)…骨の生成を促進する。骨・肝臓の酵素作用の活性化。
銅(Cu)…鉄の利用・吸収を高める。
ヨウ素(I)…甲状腺ホルモンの成分のひとつ。発育や基礎代謝に関与。
亜鉛(Zn)…微量元素。皮膚や骨格の発育や維持。性機能の向上。肝臓内でアルコールの解毒作用。多くの酵素の成分。味覚にも関与。
セレニウム(Se)…微量元素。脂肪の酸化を防ぐ。
モリブデン(Mo)…微量元素。肝臓の酵素の成分のひとつ。
コバルト(Co)…微量元素。赤血球や血色素の生成。ビタミンB12の成分のひとつ。
はい、エネルギーやビタミン、ミネラルのこと、
だいたいですがトライアスロン活動を基準にしながら書いてきました。
でも実際食事するときには、こんなこといちいち考えないですよね。
第一、身体にいい悪いとか、この中のコレはこんなはたらきがあるから、とか思いながら食べるのは、
はっきりいって食事のおいしさとか楽しさがなくなるってもんです。。。
作るときには、もっと大変ですよね。
こんなの意識して食事を作れたら、調理師や栄養士になれます、たぶん。
大きなストレスを感じるくらいなら、そんなの気にしないで何でも食ってどんどん動いたほうがいいかもしれません。
というわけで、これだけでは
「食事として何を食べたらいいのか」
ということが全然わからないですよね。
どれに何がどれくらい含まれてるとか分からないし、どれくらい食べればいいのか分からないし、
はっきりいって、使えない。
次回はこのへん、実践的にまとめていきます。
もちろんトライアスロンのトレーニングに沿って。
今回は「理論編」ということで。
(参考文献)
大学の「スポーツ栄養学」の講義ノート
スポーツ選手の栄養と食事(ベースボール・マガジン社、財団法人スポーツ医科学研究所編著)
毎日毎日カロリー計算BOOK '95最新版(学研HIT MOOK、浜内千波監修)
「食」がすべてを決める!(MC PRESS、アスラ特別編集)
Tarzan No.426 2004年9月8日号(マガジンハウス)
今中大介のロードバイクの基本(えい出版社、月刊バイシクルクラブ編)