◇イラク人質事件に対する疾風怒濤の考え◇
4/21/2004
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きのう、人質になっていた日本人計5人が解放されて無事帰国を果たしました。
なによりも生きて帰って来れたことに、私は素直にうれしさを感じました。

でも、帰国した彼・彼女ら、ぜんぜんうれしそうじゃないです。
まぁね、疲れ切っていて、そういう心境が表情に出ないのは分かるけどね。
とりあえずはゆっくり休んで療養してもらいたいです。

それにしても、世論はなんとなく、この5人に冷たいような雰囲気です。
帰ってきて、
「よかったですね、おめでとうございます、おかえりなさい、おつかれさま」
というような出迎えはあまりされてないみたいです。
おめでとうございますってのは筋違いだけどね。
よく帰ってきたな、という程度ってとこでしょうか。

で、最初、こういうのは報道関係だけかと思ったら、そうでない一般の人たちまでそう言ってる。
日本政府のほうも、ほんとにいい迷惑だったというような感じでコメントしてます。

なんで???


私はテレビの報道はあまり見ていないし、新聞も読んでいないし、
主な情報源はインターネットのニュースの見出し程度なので、
これから書くことは的確な判断ではないかもしれませんが、
専門家の意見やテレビメディアの演出による影響が、
私の中にほとんど入っていない状態での素の感想なので、
ある意味、純粋に近い意味での私の率直な思い・考えといえます。

本来ならウェブ上に載せるわけだから、
しっかり勉強していろんな事情に詳しくなってから自分の考えをしっかり吟味してその上で、ってところなんだろうけど。
(そういう考えをこれまでの研究活動でさんざん植え付けられてきました)。
これは人道的な面もたぶんに含んでいると思われます、
マスメディアによって操作されていない人道的な自分の考えは非常に貴重で大事だと感じているので、
一連の事件に関してほとんど無知のまま、思ったことを書いて公開しようと思ったわけです。



人質にとられた方々の家族のほうに、励ましのメッセージの一方で、
厳しい意見も寄せられたという。
「危険地帯と分かっている地域に好き好んで行くんじゃないよ」
「身勝手な行動で日本中に迷惑かけてるんじゃないよ」

というような内容らしい。

けど。

そういう意見を持つ人たちに聞きたいんだけど。

半端な気持ちでイラクに行けると思いますか?

この戦争を対岸の火事だと思ってるんじゃないですか?

あなた、イラクに行けますか?

この戦争をなんとか終わらせようと、
この惨劇を日本や世界に伝えようと、
この戦争で壊された街や人の心を取り戻そうと、
実際に体を張って動いている彼らを、どうして責めることができるだろう??

(4月15日付けの「風の記憶」より。)



「またイラクに行って活動したい」と述べる彼らに、
「いいかげんにしろ」との声が上がっているらしい。
帰国したあと彼らは日本人から冷ややかな目で見られているという。

政府もまったく同じ意見みたいで。
「よい意思を持っていてもこういう結果になるのでもうイラク入りはやめていただきたい」
「退避勧告が効果を発揮しなかったから限定的に渡航禁止にして国民に自覚を」
「自己責任の認識を国民に持ってほしい」
「新法を作るとこれまでの政府に手抜かりがあったと思われるから、自己責任を呼びかけて自覚してもらうしかない」

ふう、やれやれ。ほんと呆れた。

帰国したばかりの渡辺さんの言葉も、こんな日本では虚しく響いて消えて行くだけだよ。

(4月21日(今日)付けの「風の記憶」より。)



なにか、どこかで、おかしなことに、なってないか?
人命救助が他の何よりも最優先されるべきとの今までの基本的な考え方が、
どこかで崩れてきてないか?

考えてみればたしかに、
今まで基本的人権やヒューマニズムは人間として生きていくために大切なことであると尊重されてきたし、
そういう機運がもてはやされた時代に私は多感期を生き、
それは当たり前のことで正しいことであると教えられて信じてきた。
人道的な立場での思考が何よりも優先されるべきと思考回路に刷り込まれて育ってきたわけだ。

だからそんな私からしてみれば、今回誘拐拘束された5人やその家族の方々への、世間や政府の配慮というのは、
あまりに厳しく冷たいものだと感じてしまうのだ。

もちろんそれぞれの立場というものがあるのは分かるし、理解できるところもあるよ。
でも最近ね、あらゆるところでそういう「個」や「色」を全面に押し出しすぎて、
全体としてのバランスとか、周りからの印象をかえりみない風潮があるように感じるよ。
今風というか、なんというか?
いいか悪いかは、別として。

今回、日本政府が「自己責任」とかいう言葉を引っぱり出してきたのも、
ある意味そういう流れが影響しているのかな。
知らんけど。

だからかな、さっき「風の記憶」から抜粋したような日本政府の意見は他に、
5人を帰国させるための特別飛行機(政府専用機)のチャーター代66万円を彼らに請求する、
なんていうのがあったのは。
しかしせこいなぁ。

というのも、政府や国会議員がこの5人やその家族を批判する理由は、分かるような気もするんだよ。
政府は「イラクは非常に危険だから行ってはだめだ」とたしかに何十回も勧告を出していたし。
連日テレビや新聞などで非常に不安定なイラク情勢が伝えられていただろう、
それでも行った彼らのことなんか知らんよ、全部自分の責任でやってくれ、
というようなことを政府は言いそうだな、なんて思うなぁ。
でないと立場がないだろうからね。
納得行くものではないけど。

ということは、
今回政府や国民に心配をかけた慰謝料なんてのも、
あの5人が払ったりするの?
ありえないでしょ。

それが「自己責任」というなら、
政府がチャーター機を手配したのも「政府の自己責任」だし、
国民が心配したのも「国民の自己責任」って言えない?
そうしてくれ、と頼んだのならともかく、
勝手にそうしただけじゃん、って解釈も成り立ちそうだし。

しかし、あまりに冷たい政府。
政府から冷たく厳しい対応をとられるということは、
これはほんとに辛く、きついことだと思うよ。
日本人なのに日本が味方してくれないなんて、考えるだけでいたたまれない。
「もう一度イラクへ行って活動したい」と考える彼らへの釘差しはもちろん、
新たにそう考える人が出ないように「見せしめ」の意味も込めてるのかな。だとしたらひどいことだけど。

彼らがイラクで活動していたことにどれほどの誇りと信念があったか、私には計り知れない大きなものを感じるよ。
家族とでさえ意見がすれ違う渡辺さんが印象的だったけど、
イラクで何が起こっているのか、それを伝えるために危険なイラクで活動することに、
彼らにとってとても大きな意味があることは私にも分かるし、それはすごいことだと思う。
だから「もう一度イラクへ」と思うのは当然だと感じるなぁ。
自分の仕事には没頭や熱中できるでしょ、使命感持てるでしょ、
彼らがジャーナリズム精神やボランティア精神のプロフェッショナルなのなら、理解できるところじゃないかな。
私的には、彼らを応援します。

そりゃね、5人だって、「イラクが危険区域」であるという認識はあったでしょうよ。
というより、日本にいる私らよりも、彼らは的確に理解していたはず。
もちろん、戦渦に巻き込まれて命を落としたり、今回のように拘束されたりも重々承知の上だったでしょう。
それでも行って、戦争の実態や惨劇やイラクの街の人たちのことを、日本に世界に伝えようとして、
結果としてこういうことになったわけで。
彼らの命の危険の覚悟は、私らが想像するより相当なものであったと思うよ。

だから、彼らは、「自分の意志で」イラクに行ったわけで。

彼らは、完全に「自己責任」でイラクに行ったわけだよ。
誰かに「行け」と言われて行ったわけではないでしょ、たぶんね。

先に拘束された3人の家族への批判も、
自分の意志でイラクに行ったのに政府に「助けて下さい」なんて身勝手だ、とか
そういうものだったんじゃないかな。

でも。
日本政府は外国にいる邦人の安否を保証する義務がなかったか?
そのための大使館だし、そのための基本的人権じゃなかったか?

こういう拘束事件が起こらないように、未然で防ごうとした政府の普通の対応は認めるけど、
起こってしまったのだから、その先は別の対応をとってしかるべきではないのか、
と私は思うんだよね。

今回、事件解決のために、政府は何をしたんだろう。
小泉首相や福田官房長官も、気が気ではなかっただろうってのは、そりゃ想像できるけど、
イスラム聖職者協会だっけ?がほとんど仲裁してくれたような印象で、
日本としては、錯綜する不確かな情報に何もできなかったというような感じ。
アルジャジーラの放送が頼みの綱。
公表できない水面下の努力を何かしてたのかもしれないけど、
もしかしたら現地で情報収集していた人がいたのかもしれないけど(それこそ公表できないだろうな)、
公表されない以上、世間には何もしていないとみなされる。

でも最低限命だけは助けたい、という願いがあったのは、理解できる。
決して「邦人の保証という義務」を怠ろうとしたわけではないんだろう。

だから「無事保護された」ことに、大きな気苦労の先の、大きな安堵があったんだろうな。

たしかに、一部の世論が指摘するように、「今回小泉首相はラッキー」だった。
まぁこの意味での「ラッキー」は、本来付随的で派生的なラッキーで。
というのも、この拘束事件は、自衛隊の派遣が大きく関わっているからで。
小泉首相の主義に反して自衛隊を撤退させることなく解決を見たわけだから、ラッキーだったという。


今回拘束された5人は、全員が自衛隊の派遣を真っ向反対していたかどうかは知らないけれど、
自衛隊の派遣のせいでイラクでのボランティア活動やジャーナリストとしての活動に
(今回のような)悪い影響が出ている、ということは感じていたみたい。
それでなくても、外国人が泊まってるホテルは迫撃砲が撃ち込まれる可能性があるらしいしねぇ。
まだイラクで活動している日本人もいらっしゃると思うけど、
この先さらに活動しにくくなってしまってるみたいだ。
それは日本国内でも...別の意味で、言えるんだろうな。


NGOで活動する人々やジャーナリスト、帰国した彼らの意見の中に、
「日本政府が自衛隊が派遣していることでボランティアも拘束などの危険な目に遭い国際政治的に利用される」
というのがあったけど、なるほどと思ったよ。

この人質拘束事件、日本政府が誘発したと言ってもいいかもしれない。
政府はそのへん少しも分かってないみたいな。

(4月21日(今日)付けの「風の記憶」より。)



「人道支援」を銘打った自衛隊といえども、武装した軍隊だよ、
すぐにでも戦争を始められる戦力を持って行ってるわけだし、アメリカを支持しているわけだから、
イラクの人たちが諸手をあげて日本の自衛隊の派遣を喜んでいるとは思えない。
むしろイラクに介入しているアメリカをはじめとする他の国々と同じな認識なんじゃないかな。
目の前に戦車や機関銃や迷彩服を見せつけられて「我々は人道支援が目的です」なんて、
説得力なさすぎ。

まぁすべてのイラク人がそう思ってるわけではない、とは思うけどね。

3人が拘束されたとき、サラヤ・ムジャヒディンを名乗る誘拐グループは声明文の中で、
自衛隊の撤退を解放の条件に挙げていた。
それが多くの日本人には疑問だったみたいだけど、
ちょっと考えれば分かりそうなものだけどなぁ。

今回の事件の発生で、自衛隊の撤退を要求する声が一気に高まった。
当の5人が直接そう言ったのか、その家族がそう言ったのか知らないけど。
そんなことで小泉首相が自衛隊を退くとは思えないけど、
まぁいろんな考え方があるよなぁと思う。

自衛隊を撤退させれば、日本人への被害が少なくなるという見方がある。
自衛隊を派遣していなければ、この事件は起こらなかったという見方がある。
私的には疑問だけど...まぁひとつの考えだよね。
でも世界的な日本の評価は、急落するだろうね。
ちょっと手を出して、ちょっと脅されて引っ込んじゃうって、信頼感ないもんな。
もっと急落するのが小泉首相の支持率かな。
自衛隊をこのまま派遣し続けていれば、世界的な評価はこのまま維持できるし、
小泉首相の主義主張も貫徹されるものとなる。
「テロに屈してはならない」が口癖だからね。
ブッシュの請け売りのようにも思えるけど。

「人道支援」という活動については、私的には賛成だけど、
そもそも自衛隊の派遣が間違っていたと思う。
小泉首相の「日本だけ、のほほんと何もしないわけにはいかない」というのは、
人道主義的というよりもアメリカへの体裁が容易に読みとれるけど(現にアメリカは派遣を歓迎したし)、
戦力として機能しうる自衛隊を派遣する意味と必要性を疑う。

「復興人道支援」だったら、戦力はいらないよね、「非戦闘地域」なわけだし。
その名目で派遣するのは、自衛隊そのものではなく、
復興人道支援に特化した一群が適任であるはず。
私が思うに、その一群とは、非武装の自衛隊ではないかと。
そして、トヨタや日産かな。

だから、私は、「自衛隊の撤退」よりも、
「自衛隊の現地武装解除」が妥当じゃないかなと思うわけよ。
いきなりそれが無理なら、徐々に再編成を進めていくこと。
現地のイラクの人々に復興人道支援を理解してもらうことが、何よりの説得力になると思う。

テロに対する構えかたも、改めてほしいと思う。
「テロに屈してはならない」という強硬的な考え方は、
テロ自体が強硬的である以上、やれるものならやってみろと威圧をかけているようにも思える。
そんなことだから、日本も標的にされるんじゃないの?

テロと共に生きろなんて言わないけど、
何がテロを生み出しているのか、そのあたりを一度ゆっくり考えてほしいもの。
毎日国会答弁して引き返せないでいる議員たちには、そんな時間もないんだろうけど。
これは「事なかれ主義」ではないよ。


でも、大事なのはこの先だと思う。
今後も同じような事件が起こる可能性は大いにある。
この先、日本政府はどんな対応をしていくんだろう。
いや、日本だけじゃなくて、アメリカや他の国々や国連もだよ。
ほんとに大事だよ。

(4月15日付けの「風の記憶」より)



ヒューマニズムの終焉が生み出した新たなエゴイズムによる現代日本の意識変容。
なんか腐ったにおいがするのは、私だけだろうか。



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