◇三風神器・トレーニングについて◇
〜トライアスロントレーニングについてのつづきです〜

(3)エンデュランストレーニング
エンデュランスとは、"endurance"、「忍耐・我慢・持久力・耐久力」という意味です。
このトレーニングは、強度や量の設定はまちまちです。
ゆえに、耐え忍んで我慢して、というものでないことが多いです。
基本的に、長い距離をゆっくり時間をかけて行うトレーニングです。
基礎的な体力づくりがいちばんの目的です。
気分的なリラックス効果も望めます。
フォームの確認などもできるし、トレーニングの一環として取り入れる価値は大きいです。

(スイムパート)
「ゆっくり長く」がコンセプトです。
タイムなどにあまりとらわれず、距離を決めて泳ぎ続けます。
レースの距離に不安を持っている時や持久力を養いたいときに行うとよいでしょう。
また自分のフォームを意識することもできます。
ロングに照準を合わせられたトレーニングではよく行われます。
しかし時には、長い距離をレースペースで泳ぐことがあります。
自分の競技力を直接測る目安になるからです。
何にせよ、いちばんの目的は、「心理面に働きかける」ことで、
疲れた気持ちをほぐしたり、泳ぎながら自分の泳ぎをゆっくり考えたり、
不安を軽くしたり、力を抜いて浮く感覚を覚えられたり、
インターバルやレペティションでは得られない効果を期待できます。

(バイクパート)
「ロングライド」と言われるものが当てはまります。
トレーニングされてきた体があれば、驚くほど遠くまで足を伸ばせます。
日にちをかけて九州一周なども、いいです。
長くバイクに乗ることによって、いろいろなことが覚えられます。
どうしたら疲れを少なくできるか、どうしたら長い距離を走れるようになるか、
給水や給食など途中の補給はどうしたらいいのか、などなど。
また思わぬことやアクシデントも起こります、それらの対処法を身につけることもできます。
変わり行く景色に、気持ちも癒されます。
スイムやバイクは、技術や体の状態を言葉で説明するのが往々にして非常に困難なときがあります。
それらをモノにして身につけるためには、実際に自分で行うのがいちばんです。
バイクのロングライドで得るものは非常に大きいです。
なにより「これだけの距離を走った!」という自信と充実感にもなります。
また、レースと同じくらいの距離をレースペースで走るトレーニングもあります。
実際のレースを想定して行うので、より実戦向きです。
レースシーズンに入ると、よく行われるようになります。

(ランパート)
「LSD」と呼ばれているものが当てはまります。
LSDは、ここでは麻薬の一種ではなくて、Long Slow Distanceの頭文字をとったもので、
文字どおり「長く、ゆっくり、距離をこなす」という意味です。
走っていて気持ちいいくらいのゆったりしたスピードで、時間をかけて長い距離を走ります。
狙いは、基礎体力づくりと、気持ち的な開放効果です。
「ロングジョグ」というものもあります。
これは、LSDより幾分速いペースで、持久力の養成にも行われます。
また、バイクやランのトレーニングのあとのジョグは、非常に有効です。
さらに速いペースで行われる「ペース走」というのもあります。
あらかじめ一定のペースタイムを設定して、そのとおりに走ります。
レースシーズンに入ると、頻繁に行われます。

(4)スキルトレーニング
スキルとは、"skill"、「技量・腕前、(特殊な)技術」という意味です。
スキルトレーニングは、うまく速く泳いだり走ったりするための技術を身につけるために行うトレーニングです。
これは今まで紹介してきたトレーニングとは種類が異なり、
ただ行えばいいというものではありません。
コツや感覚をつかみ、理解して、技術として身につけていくための特殊なトレーニングです。
中には競泳や自転車競技、陸上競技では必要ない、トライアスロン独特のものもあります。
これらをしっかり身につけることが、パフォーマンスアップの近道となります。
昔からスポーツ選手には「心技体」が求められるといいますが、
インターバルやエンデュランスを「体」とするならば、
スキルトレーニングは文字どおり「技」にあたります。

(スイムパート)
スイムのスキルトレーニングは、非常にたくさんあります。
スイムは、バイクやランに比べて、フォームなどの泳ぎ方が非常に重要です、
つまりバイクやランに比べて、技術面が競技力に大きく作用しています。
ゆえに、競泳やスイムでは、スキルトレーニングを特に重要視されています。
ここでは、よく行われているものを取り上げてみます。
「スカーリング」...水を手や腕でつかむ感覚を得るために行います。
「キック」...キックボード(ビート板)を用いて、キックの技術を身につけます。
「プル」...主に腕の動きのみの推進力で泳ぎ、プルの技術を身につけます。
「ディセンディング」...インターバルなど行う際に、1本ずつ徐々にペースを上げていきます。
「ナックルスイム」...手をグーにして泳ぎ、腕で水をつかむ感覚をつかみます。
「片手プル」...プルを片手のみにして泳ぎ、プルの部分的な矯正を行います。
「ショルダータッチ」...プルのあとに指先で肩を触ってから入水させ、肩の使い方と入水を矯正します。
「個人メドレー」...クロールだけでなく、ブレスト(平泳ぎ)、バック(背泳ぎ)、バラフライもします。
「ヘッドアップ」...水面から顔を上げて進行方向を目視しながら泳ぎます。

細かく挙げていけばキリがありませんが、
重要なことは、「何のために行っているのか」ということを常に考えて理解しながら行うことです。
そしてスキルトレーニングのあとには、必ず普通のスイムを行います。
スキルトレーニングは部分的にフォームを作ったり矯正することに特化したものが多いので、
必ず実際に普通に泳いでそれを確かめなければなりません。
一般的には、スキルトレーニングが終わってから、
「メイン」と呼ばれるインターバルなどのトレーニングに入っていきます。

(バイクパート)
バイクでは、取り立てて「スキルトレーニング」を行うことはあまりありません。
というのも、バイクの技術は、実際に走ることによって身につけていくことが多いからです。
でも、ないわけではありません、少し紹介します。

「片足ペダリング」...片足のみでペダリングし、ペダリング技術を身につけます。
「スラローム」...ある間隔に並べられた空き缶などの障害物をジグザグに走り、バランス感覚と技術を身につけます。
「ドラフティング」...前を走る人のすぐ後方につき、風の抵抗を抑えて楽に走る技術を身につけます。
「ローラー台トレーニング」...ローラー台には後輪ホイールを固定するローラー台と、
ホイールを固定しないで円柱状の3本のローラーの上にバイクを載せるものの2つがあります。
これらはバイクのフォーミングやペダリングのチェック、バランス感覚の養成など、
バイクのスキルのエッセンスがふんだんに盛り込まれています。

(ランパート)
ランにおいても、あまり「スキルトレーニング」と銘打ったものはされません。
ランの技術はたしかに存在しますが、やはり実際に走ることで身についていくものとされています。
「スキルトレーニング」とは言えないかもしれませんが、
トレーニングのバリエーションを少し紹介することにします。

「クロスカントリー」...おもに芝生やオフロードを走り、走りの器用さとしなやかさを身につけます。
「ビルドアップ」...インターバルなどで、1本1本ペースを上げていくトレーニングです。
「マラニック」...マラソンとピクニックを併せた造語で、山を走ったりすることでスタミナと器用さを養います。

トライアスロンのランでは、相当疲労した状態からスタートするので、
細かい技術はあまり関係ない世界でもあります。
しかしそれを逆手にとって、あえてスイムとバイクで疲労した状態から走り初め、
身体調整的な技術を身につけていくことも重要です。

(トランジションパート)
トランジションとは、"transition "、「移り変わり・変化、変わり目」という意味で、
スイムからバイク、バイクからランへの種目の境目をトランジションといい、
ここでかかる時間も競技タイムに含められます。
よっていかに速くこのトランジションを済ますかということが、タイム短縮には重要となります。
ここでは体力よりも技術が求められます。
スイム〜バイクのトランジションでは、
スイムからあがった直後バイクラックまでに腰までウェットスーツを脱ぐとか、
サングラスやヘルメットを身につける手順、
バイクに飛び乗ってスタートする技術など。
バイク〜ランのトランジションでは、バイクのうまい降り方、
ランシューズの履き方やヘルメットを脱ぐ手順など。
これらは実際に練習して身につけるしか方法はありません。
イメージして頭で手順を理解するのも大切です。
またレースによってトランジションエリアの勝手が違うし、
ローカルルールもあります。
いつもと同じに行きそうにない場合は、かならず事前にシミュレートしておくべきです。
これも技術のひとつといえましょう。


トレーニングの方法や理論は、日進月歩で次々と生まれ出されていっています。
最新の理論や方法を、雑誌などでチェックすることも重要です。
正しいトレーニング方法で正しくトレーニングすることが、
競技力を効率よく上げるためには非常に大切であることは、いうまでもないでしょう。
実際強い選手は、そういうことに非常に敏感なものです。
コーチングのシステムが完成しきっていない今日の日本のアマチュアトライアスロンでは、
選手自身がトレーニングの方法や理論を理解することがとても重要であると、私は思います。



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