7.「犬の糞闘記」

<事の発端>
それは去年の春、3月頃の話である。
夜の10時頃、父が家の前に車を停めて、姉とその子供たちを車に乗せて
家まで送っていこうとしたときのこと。
荷物を積み込んでいるときに、車の横を犬の散歩の若者(男性)が通った。
しばらくして荷物と人を乗せて、車は走り出した。
でも犬の散歩の男が悠々と道の真中を歩いている。
後ろからヘッドライトで照らされても、除ける気配もない。
夜だし住宅内なので、クラクションは差し控えておいたという。
しばらく背後から徐行をしながらついていくことになった。
もう少し行った先のT字路を右折したいのだが、その男は遅々として進まない。
子供はぐずっているし、気持ちは焦る。
そこで父は男が少し右脇へ寄ったのを機に、男を大きく迂回する形でゆっくりと右折を試みた。
すると男は車のトランクをバン!とたたいて父をにらみつけるようにして左折していった。
背が高くて痩せ型の、若い男だったという。

<展開>
そんなことがあって数日後、通りに面したガレージの中に、小さな犬の糞があるのを
母が見つけた。
「???こんなところに、なんで糞なんか・・・」
それからしばらく、糞のある日が続いた。
あるときは車のボンネットの上に、またあるときは停まっている車の前輪の下のところに、
そしてまたあるときは撒水栓のふたの上に、ひどいときにはガレージの門扉の蛇腹の
交差したところに置かれ、なすりつけられていたのだった。

これはどうしてもおかしい!犬が迷い込んでしているわけではない。
明らかに人為的なニオイが(糞のニオイとともに)プンプンとしてくる。

糞が硬いときはいいのだが、少しやわらかいときはアスファルトやコンクリのでこぼこに
入り込んでいる。
そしてそれを片付けるのはいつも母なのである。
糞の後始末に業を煮やした母が姉に相談して初めて、前にそういうことがあったと
知ったのだった。
「きっとそいつがうちに糞を置いていくんだわ!!」
でも、証拠が無い・・・けれどもどうにか糞攻撃を阻止したい。

それからというもの、犬の糞との戦いが始まったのだ。
ガレージ付近にあることが多かった糞は、日が経つにつれて玄関の門扉の方へと移動してきた。
犯人の挑戦的な態度がよくわかる。
泊りがけで出かけた日には、門から玄関へのアプローチにある踏み石の上に
置かれているときもあった。
門扉を開けて入ってこなければ置けないようなところだった。
車がなく、家中の電気が消えていて、明らかに留守というのがわかったのだろうか。
敵の犯行も大胆になっている。

<対策>
犬の嫌うニオイをつけようと、母は門の前にクレゾール液を撒いた。
しかしなかなか効果は上がらない。
「きっとよそでした糞をとって持ってきて、うちのところへ捨てていくのよ。」
夜の11時前後に来るらしいので、その時間に張り込みをしたこともあった。
門の内側の、建物の影に潜んでみたり、ガレージに停めてある車の後部座席にいたこともある。
家の前の通りの少し離れたところに車を停めてその中から見ていたこともあった。
夜のうちにされることもあれば、早朝のときもある。
しかし張り込んでいるときに限って、犯人は来ないものである。
また、見張っていたにも関わらず、ちょっとしたふいを突いてやられることもあった。

そしてとうとう「怪しいのはこういう男と犬」という姉の証言を元に、ある男に目星をつけた。
何度か尾行をしたこともあったのだが、いつも問題のT字路で左折したところでいなくなる。

いつも同じところで見失うということは、その近辺に住んでいるのだ!

ごく簡単な推理が働いた。
案の定、目星をつけた男の家は、そのT字路に一番近いところにあったのだ。

単純な怨恨での犯行にしてはあまりに長く続くので、半年ちょっと経ったある冬のはじめに
私はよく被害にあう場所に防犯ライトを取り付けた。
しばらく糞害はピタリと止まった。
しかし数ヶ月するとまた始まったのである。
もう対策がない!しかしどうにか捕まえたい!

警察にも相談した。
近くの交番に出向いていったら、そこはいつもは警官が不在のところで、
電話でどこぞから呼び出すそうだ。
自宅から交番まではかなりの距離がある。
無駄足を踏んだとがっかりしながら帰り道にある機動隊の警護のお巡りさんに
事情を聞いてもらった。
おまわりさんはとても親身になって聞いてくれたが、やはり何も対策にはならなかった。
市内の警察署に電話をかけてもみたが、電話だけではとりあってくれない。
証拠になる写真なりビデオなりがなければ具体的な捜査はできないというのだ。
そんなことができていれば、とっくに解決しているはずだ、それができないから
今まで続いているのだ。

成すすべもないまままた数ヶ月が過ぎ、すでに事件が始まってから1年以上が経っている。
そうこうしているうちに、キョーレツな一撃をくらった。
朝、父が出勤しようとしたとき、門柱にかなり柔らかい状態の糞が
投げつけられていたのだ。
朝刊を取り出したときにはなかったのだから、それ以後の数十分の間にやられたのである。
そしてその糞には明らかに犬のものと思われる毛が混じっている。

私はとりあえずデジカメで写真に収めておいた。
母はその糞を始末するときに、毛の組織が保存できるように始末した。
さあ、あとはあの家の犬の毛でも糞でも、何でもいいから生体組織をどうにか手に入れて
DNA鑑定に持ち込むまで・・・。
でもどうやって手に入れるのか?費用は?

とりあえず、警察署に出向いて被害届を出してこようと思っている。
きっと証拠がないということで、警察はすぐに動いてはくれないと思う。
でももしもこの先、何かもう少し大きなことに発展することがあるとしたら、
今のうちに届を出しておくのが得策だということだ。

門柱に糞を投げつけられた数日後、もう少し具体的な張り込みを実行するべく、
また機動隊のところへ行った。
警護のお巡りさんの立っているあたりが一番、その怪しい家を監視できるのだ。
お巡りさんに事情を話したところ、やはり被害届を出すことを勧められた。
そのお巡りさんは自分がここにいるときは、極力監視しているようにします、と言ってくれ、
張り込みしたいときには、この辺りに車を停車させてもいいと言ってくれた。

これから時間と体力の許す限り、張り込みを続け、犯人を暴いてやりたいと思う。
その暁には、私はこの1年余りの無法行為について、賠償してもらおうと思うのだが、
同じ町内会に属する仲なので、私の親は穏便に済ませたいと言っている。
「今までのことは水に流すから、今後一切しないでくれ」というのだ。
ちっぽけなことを根に持ってここまでいやがらせを続けたやつのこと、
そんな生易しいやり方では絶対に更正しないと思う。
そしてそういうやつは一時が万事、無法者なのだと思う。

犬の糞闘はまだまだ続くと思うので、この事件が解決したら、
またここで今後の顛末を報告しようと思う。

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