海音寺潮五郎 私設情報局

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悪人の話など読みたくない!

海音寺史伝文学の代表作

海音寺潮五郎さんは、
「日本人に日本歴史の常識をもってもらうため」
という目標を掲げ、多くの人物を題材にして史伝を執筆しました。その史伝文学の代表作が『武将列伝』『悪人列伝』です。
海音寺潮五郎さんは
「できれば200人、最低でも100人の人物伝を書きたい」
と思い定めていたそうですが、残念ながらそこまでの規模には至らず、『武将列伝』、『悪人列伝』あわせて合計57篇の史伝を執筆した段階でまとまって出版する運びになりました。

史伝を書くという行為は、かつてこの日本に実在した歴史上の人物と、じかに向き合うことでもあります。海音寺潮五郎さんは、あえて日本史上で「悪人」と呼ばれた人物を題材にして史伝を書き、それらを『悪人列伝』と名づけたわけですが、この「悪人」というレッテルについて次のような考えを述べています。



歴史時代の人物は自ら弁護する自由がありません。従ってこれを評伝するにあたっては、検事の論告のようであってはならず、判事のようであるべきだとぼくは信じています。弁護士の言うこともよく耳をかたむけて、判断を下すべきが、その人にたいする礼儀であると思っているのです。周密な検討を欠いた放恣な思いつきによって人を褒貶して新解釈と称するような態度は、ぼくの最もきらいなことです。
(『悪人列伝』「あとがき」より)
目標はどこまで達成?

「少なくとも100人の人物伝を」と史伝に取り組んだ海音寺潮五郎さん。海音寺潮五郎全集第17巻『武将列伝(下)』の「あとがき」でご本人が言うには、『武将列伝』と『悪人列伝』に加え、『幕末動乱の男たち』で12人の人物伝を執筆しており、合計71人まで到達。これだけでも日本史の大体はわかるだろうとのことです。

この『悪人列伝』に史伝として収録されている人物は、その時代の既存の権威への敵対者であったり、新世代勢力に敗れた旧世代権力に所属していたりしたため、後世「悪人」と呼ばれている人々がほとんどです。
しかし、上記の説明にあるとおり、その本質は、全員が悪人と呼ばれるべき人物ではなかった可能性があります。

そこで海音寺潮五郎さんは、これまでの通説的・短絡的な解釈を排除した目で彼らの事績を丹念に調べ、本当はどのような人物だったのかを、この史伝を通して明らかにしています。結果として
 「やっぱり悪人だった」
人物もいれば、
 「悪人だなんて、とんでもない」
という人もいるわけです。

地下の故人にも恥じるところなし

海音寺緒五郎さんが、この『悪人列伝』を執筆する際に、対象としている人物といかに真剣に向き合ったかについては、



ぼくは史伝を書くことが好きで、ずいぶん書いていますが、いつもこの態度を厳守しているつもりです。もしその人々を地下におこして来て、その人々と対決しても、ぼくは恥じずに顔を合わせることが出来る自信があります。
(『悪人列伝』「あとがき」より)

と述べていることからもうかがい知ることができます。
「この態度」というのは最初に引用した「判事のような」態度ということですが、この自信に満ちた態度はいかにも海音寺潮五郎さんらしいと思います。他の作家でここまでの宣言をできる人が果たして何人いるでしょうか?

『悪人列伝』は過去何度か再販されていますが、初めて単行本としてまとまって出版された際の面白い逸話が残っています。海音寺潮五郎さんが説明しているところによると、



(『悪人列伝』の)雑誌連載中はわかりませんでしたが、書物にしてみて、この書が「武将列伝」ほど売れないので、ぼくは案外な気がしました。名は「悪人列伝」でも、ぼくにしてみれば、日本歴史人物列伝の一環のつもりで、執筆の態度は「武将列伝」と少しもかえていないのです。思うにこれは、悪人という名によって、
「悪人の話など読みたくない」
というところからでありましょう。
(『悪人列伝』「あとがき」より)

とあります。
作品タイトルが売れ行き左右するというのは、書籍に限らず、しばしば耳にする事実ですが、それが故に『悪人列伝』が多くの人に読まれる機会を逸しているとすれば、非常に残念なことです。

『悪人列伝』はタイトルこそ違うものの『武将列伝』と一体の作品であり、もっと言えば、海音寺潮五郎さんが執筆したその他の史伝も含めて、
 日本人が日本歴史の常識を獲得するための良質な教材である
と言っていいと思います。
今日(2007年8月現在)、新装版の『悪人列伝』が出版中で、簡単に入手して読むことができる状態にあるのは、私たちにとって大変喜ばしいことだと思います。



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