海音寺潮五郎 私設情報局

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幻の映画化作品「南風薩摩歌」

映像化された海音寺文学

海音寺潮五郎さんの作品を原作として映像化された作品は有名どころ、無名なところ合わせていくつかあります。有名なところでは何と言ってもNHK大河ドラマになった『天と地と』ですね。『武将列伝』の「武田信玄」を執筆するために関連する史実を調べていたところ、上杉謙信の人物に魅力を感じ、それが『天と地と』誕生のきっかけになっています。これについては
「上杉謙信を書きたい!」
として、別途紹介しています。

大河ドラマ『天と地と』で主役の上杉謙信を演じたのは石坂浩二さんです。ところが、謙信の幼少時代を演じた中村浩太郎さん(現在の中村扇雀さんだそうです)が視聴者に好評で、石坂さんの出番が先延ばしにされるといったエピソードもあったそうです。
石坂浩二さんは当時の思い出を海音寺潮五郎記念館誌に寄稿しています。リンク先でその内容を確認できますので、こちらもぜひご参照ください。

もう一つの『天と地と』

『天と地と』はドラマのヒットと相まって知名度が上がり、海音寺さんの代表作中の代表作と呼ばれるに至りました。これはご存知の方も多いと思いますが、1990年に公開された映画版もあります。いわゆる角川映画と呼ばれる映画の1つです。この映画版『天と地と』は今でもDVDで入手可能です。Amazon等のサイトで売られていますし、ひょっとするとレンタルショップでも見つかるかもしれません。
私もこの映画を見ましたが、何といいますか、評価が分かれる映画であることがよく実感できました。原作を大事にする人、歴史物語を期待していた人が見ると評価が低くなってしまうのも仕方がないと思いますが、その一方でこの映画を高評価している人がいるのも事実です。このあたりはリンク先のレビューで確認してみて下さい。

幻の傑作映画

一方、映画化された無名どころとしては「南風薩摩歌」があります。これは西南戦争を扱った短編小説集『田原坂―小説集・西南戦争』に収録された一編です。薩軍の敗色が濃厚になりつつある時期を舞台に、薩軍を率いる猛将・逸見十郎太と料亭で働く酌婦・お蔦との情愛の交流を描いた作品です。

この「南風薩摩歌」は初出が昭和12年2月と大変古いのですが、発表後まもなく、新興キネマで映画化されたのだそうです。私も知識として持っているだけで、どんな映画だったのかについては全く不明です。ネットで探しても、確かに映画化はされていたらしいという情報の断片は見つかりますが、詳細は分かりません。
この映画については、海音寺潮五郎さんが次のようなエピソードを紹介しています。



わたしの作品はいくつか映画化されていますが、あれほどよい映画をつくってもらった記憶はありません。試写会の時、終って、ぱっと場内が明るくなりますと、わたしの席から数列前に浜本浩君がすわっていました。わたしを見つけると、人をかきわけてやって来て、
「おめでとう。いい映画だ。近年これほどの映画はない」
といって、わたしの手をつかんで痛いほどにぎりしめました。浜本君という人は感激家で涙もろい人でしたが、両眼にあふれるばかりに涙をたたえていました。
(中略)
米沢の尾崎周道氏は五山文学の学者として、また葛城北斎の研究家として、むしろ海外に有名な人ですが、その頃はまだ中学生で、映画に感激したあまり、わたしの原作を謄写版で刷って、友人に配布したと、わたしに語られたことがあります。
(海音寺潮五郎全集第15巻「あとがき」より)

この逸話から映画の完成度が相当に高かったことを察することができます。それは原作の魅力があってのことであることは言うまでもないと思います。

しかし、この感動的な逸話には続きがあります。映画版「南風薩摩歌」が公開されたのは作品発表と同じ昭和12年の7月だったようですが、ちょうど同じ月に盧溝橋事件を発端とする日中戦争(支那事変)が起こります。そして、現地での戦闘の様子がニュース映像として国内で放送される状況になったのだそうです。
これが映画「南風薩摩歌」にとって大打撃だったと海音寺さんは言います。片や作り物のセットで撮影された幕末の戦闘シーン、片や現代兵器を使った今まさに行われているリアルな戦闘。映像としての迫力は段違いです。当時の人々は戦争報道に熱狂し、「南風薩摩歌」は注目を集められなかったのだそうです。何とも残念な結果ですね。

海音寺潮五郎さんの作品には昭和の前半に映画化されたものが他にも色々とあるようなのですが、内容などは一切不明。アナログ時代の情報は一旦失われてしまうと回復は極めて困難です。デジタル時代の現在、海音寺潮五郎さんについての様々な情報が細々とでも生き延びていってくれることを願ってやみません。



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