海音寺潮五郎 私設情報局

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『聖徳太子』:遣隋使派遣と日本の独立宣言

小野妹子に託した日本独立国の宣言

海音寺潮五郎さんは
 日本人に日本歴史の常識を持ってもらいたい
という信念のもと、非常に多くの人物を史伝として書いています。それらの史伝を時代順に読めば、おおよその日本歴史全体が分かるようにしたかったということで、各時代の人物を幅広く取り扱っているのが特長となっています。

その海音寺潮五郎さんに『聖徳太子』という作品があります。これは史伝ではなく歴史小説であり、ゆえに多少のフィクションを交えた内容ではありますが、日本史を語る上で聖徳太子は外せないと海音寺潮五郎さんが考えたからこそ執筆された作品なのではないかと思います。

聖徳太子と言えば、私の世代では、
 一万円札と五千円札の人→お金
をイメージさせる人物ですが、みなさんにとってはどうでしょうか?最近の教科書では、聖徳太子という名前ではなく、"厩戸皇子"、"厩戸王"といった名称の方で紹介されているとも聞いています。

私がこの『聖徳太子』を読んで、あらためて感じた日本史上での聖徳太子の存在意義は、中国(当時の王朝は隋)に対して
 日本が確固たる独立国であることを明確に宣言した
ことにあると再認識しました。
これは小野妹子を遣隋使として派遣したときの、有名な
 「日出ずる国の天子、日没する国の天子に書をいたす。つつがなきや。」
というあれです。
海音寺潮五郎さんの小説でも、この文書の受け渡しにまつわる諸事情は、非常に劇的な場面として生き生きと描かれています。
その場面を読むと、
 「聖徳太子、よくやった!」
と喝采を送りたいくらいです。

さて、その聖徳太子が今の私たちの生活に大きな影響を与えているという事実があります。それは、聖徳太子が当時の最新科学でもあった「陰陽五行説」の考えに基づいて日本国の起源を規定し、その日が現在、
 建国記念日
として休日になっているというものです。

建国記念日は聖徳太子が決めた

この建国記念日の由来は、日本の初代天皇とされる神武天皇が即位した日をもって、日本国自体の開始の日だったとする聖徳太子の判断に基づいています。
神武天皇は架空の人物であることが歴史学的には明確になっていますので、この建国記念日については反対意見含めていろいろな意見があるようですが、それに対して海音寺潮五郎さんはこの『聖徳太子』の中で次のように述べています。



ぼくは二月十一日を建国記念日とすることに賛成した一人であるが、それは日本の独立国であることを最初に中国皇帝に宣言した太子が、このようにして決定した日であることを信ずるからである。この日が歴史事実としては根拠なき日であるという反対説は、太子の壮烈な態度の前には、杓子定規にすぎないものとしか、ぼくには思えない。まして、これは建国記念日として制定されたのであって、建国の日として制定されたのではない。歴史学をあやまるものとは、ぼくには思われないのである。
ついでに書いておく、推古天皇の名は、古(いにしえ)を推定されたというところから出たのだ。天皇の名にまでなっていることに、ケチをつけることはなかろうではないか。
(『聖徳太子』より)

上記の引用文にも出てきますが、聖徳太子が国政を司っていたのは推古天皇の時代です。推古は女性の天皇であり、彼女が異例の即位を実現した裏にはある人物の陰謀、策略があったのですが、その経緯などもこの『聖徳太子』の中に描かれ、海音寺潮五郎さんの歴史解釈を示す材料となっています。

ところで、この『聖徳太子』の作品中に非常に興味深い記述があったので紹介しておきましょう。これは天皇制(というか天皇の存在意義そのもの)を考える上でも重要な情報だと思います。



太子の理想は、日本を化して、天皇を中心とする一君万民の中国式統一国家にするためにあったのだが、太子がなくなると、「天皇を中心とする」という眼目が抜かれて、蘇我氏を中心とする統一国家への歩みが見えて来た。歴史上、蘇我氏の専制時代といわれる時代である。 ついに馬子の子の蝦夷の代となると、蝦夷は天皇となった。本来の天皇を廃しはしないが、別に朝廷をひらいて天皇となったのだ。これは従来の史家の忌んで言わないことであるが、「日本書紀」の皇極紀を心を澄まして読むならば、歴々たる証拠がいくつも見つかるのである。
(『聖徳太子』より)

これぞ海音寺潮五郎さん独自の史観ですね。ちなみに、文芸評論家の磯貝勝太郎氏によれば「史観」という言葉は海音寺潮五郎さんの造語だそうです。蘇我蝦夷が天皇となった傍証というのは『悪人列伝』に詳しく記述されていますので、興味があればみなさんご自身で確認してみてください。



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