海音寺潮五郎 私設情報局

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『日本』:海音寺文学を代表する大河小説

名作『二本の銀杏』

海音寺潮五郎さんには『日本』と題する一連の作品群があります。これは江戸時代末期から昭和初期の敗戦に至る時代を背景に、海音寺潮五郎さんの故郷でもある薩摩を舞台の中心として、そこに暮らした庶民の生活を通して日本の近代史を描いていく意欲作です。
この『日本』に含まれる作品は執筆された順に、

 ・『二本の銀杏』(昭和34年より東京新聞夕刊に連載)
 ・『火の山』(昭和36年より東京新聞夕刊に連載)
 ・『風に鳴る樹』(昭和38年より東京新聞に連載)

となっています。なかでも『二本の銀杏』は海音寺文学を代表する傑作との評価が高い作品です。 ちなみに、文芸評論家の磯貝勝太郎氏が語っているところによれば、司馬遼太郎さんとこの『二本の銀杏』を話題にしている中で、磯貝氏が
 「『二本の銀杏』は傑作ですね」
と話をむけたところ、司馬さんは即座に
 「名作です」
と答えたという逸話が残っています。

この『日本』は、米国の女流作家、パール・バックの一連の作品『大地』、『息子たち』、『崩壊した家』に着想を得たということで、海音寺潮五郎さんの構想でも、当初3部作として計画されていました。 しかし、作品の執筆が進むについて3部では収まりきらないことが確実になり、あらためて5部作として構想し直されることになりました。この経緯を海音寺さん自身は、



「二本の銀杏」がすむと、すぐ第二部の「火の山」を書くことになりました。これも評判は悪くなかったようですが、私としては準備不足を感ぜずにいられませんでした。何よりも、構成をあやまったという感が終始つきまといました。こんな構成をしては、とうてい三部ではおさまらない、三部で盛るためにはもっと時代をおろして、戊辰戦争から西南戦争まであたりを二部目に書かなければいけなかったのだという気がしつづけました。
しかし、書き出して、日々に新聞に出しつつあるのですから、どうすることも出来ません。
「しかたはない。五部作くらいにするのだ」
と思って、やっと気をおちつけました。
(『火の山』「あとがき」より)

と心情を書き残しています。
また、3部目にあたる『風に鳴る樹』は新聞連載の完結で一応の完成をみたものの、海音寺潮五郎さん自身はこの作品の完成度に自信が持てなかったとのことで、生前には単行本として発行されることがありませんでした。

未完に終わった大作

海音寺潮五郎さんは、昭和44年に行った「引退宣言」後、『日本』の残り2部の完成を重点活動の一つと位置づけていましたが、結果的には執筆できないままこの世を去ってしまいました。そのため、この『日本』は5部作ではなく、3部作として扱われる場合もあります。
執筆されなかった残り2部についても、おおよその骨子は検討されており、六興出版から出された『風に鳴る樹』巻末に収録の『「風に鳴る樹」を終えて』という海音寺潮五郎さんの文章の中で、それぞれ紹介されています。

大銀杏は実在する

海音寺潮五郎さんの故郷、鹿児島県大口市には、『二本の銀杏』に登場する大銀杏のモデルとなった木が実在しています。
また、作品に登場する赤塚村は今の大口市だとする指摘もあるようですが、こちらについては、海音寺潮五郎さん自身が
「小説はフィクションなので、赤塚村はあくまでも架空の土地である」
として否定しています。

さて、海音寺潮五郎さんの死後、残された遺稿の中から『一本の樫』と名付けられた未完の草稿が発見されています。これは昭和21年に執筆されたものですが、当時の占領軍の検閲を通過できなかったため、発表されることなく埋もれてしまっていたとのことです。
この『一本の樫』は、太平洋戦争前後の時期を舞台とした作品で、登場人物の名前こそ異なっているものの、その後に執筆された『日本』(『二本の銀杏』、『火の山』、『風に鳴る樹』)の原型とのいうべき内容になっており、時代的には5部作の最後の部分にあたるものとされています。

晩年の海音寺潮五郎さんは、西郷隆盛伝を中心とする史伝執筆を活動の中心に据えていたため、純粋な小説はほとんど執筆していません。もし5部作の残り2作が完成していれば貴重な作品となっただけに惜しまれる結果だと思います。



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