6BM8パラシングル(SATRIドライブ) 2008/1/24
                                      石田 隆 


初めに

 管球アンプは昔作って以来、久しく遠ざかっていましたが荷物を片付けていると懐かしい球部品が色々と出てきました。そこでこれらの6BM8他の部品のストックを掘り出したことから最近の半導体アンプと比較する上でも久しぶりに球アンプ製作にトライしてみることにしました。
 昔はやはり出力優先で回路もプッシュプルが主だったのですが、最近はシングルの方が音が良いという評判になっている?様です。そこで今回は出力段をシングル駆動としてみました。しかし、8BM8シングルでは流石に自宅の試聴環境ではパワーが少し足りないと思えるので、パラ接続として5W程度の出力を狙うことにします。

アンプの特徴

回路構成は古典回路の焼き直しでは面白くないので、今回はドライブ回路を工夫してみることがテーマです。

 ドライブ段は6BM8だと動作例からみて10V程度でよいはずですから今回は球では無く、半導体でやってみようと思います。半導体でも色々あるのですが、球アンプには最近使い慣れたSATRI-ICを使った例が見あたらないのでこれで試してみることにしました。
 SATRI-ICバクーンプロダクツ鰍フ作っているハイブリッドICで、低インピーダンス入力、高インピーダンス出力の素子です。電圧増幅としては入力抵抗と出力抵抗の比でゲインが決まります。ゲインを大きくするには入力抵抗を小さくする必要があるので通常のドライブでは入力バッファが必要となります。
 今回は増幅をSATRI-ICに任せると6BM8の3極管部が余るのでこれを入力バッファとしてカソードフォロアにすれば丁度全体をうまく使えそうです。
 SATRI-ICの電源は別電源で±15Vを用意するとして、動作点は電圧利用率を上げるためにDCサーボで固定した方が良いと思います。出力をDCサーボで固定するなら折角ですから、出力段とは直結動作にします。

 SATRI−ICは半導体回路では無帰還で使うことが多いのですが、球アンプは出力段の歪は比較的多いし、5極管の出力インピーダンスも高いので帰還を掛け性能アップを狙った方がよさそうです。しかし、トランスの2次側からNFを掛けるのはトランスの位相回転の問題が大きいので、優れたアウトプットトランスが必要になることから、1次側(出力管のプレート)から掛ける事にします。そうすれば高域位相回転はグリッドの容量とSATRI-ICの負荷抵抗との1次系になるので、高帰還量でも安定した動作になるのでゲインは大目にとった方が良くなりそうです。

回路説明

回路構成は入力レベル調整のVRを介して6BM8の3極管のカソードフォロア(パラ)に繋ぎます。カソードフォロアの出力インピーダンスは約500ΩだったのでSATRI-ICの入力抵抗を1.5KΩとし、2本のパラ接続で実質1KΩの計算となります。
SATRI-ICによる出力段のドライブ電圧は10V程度が必要なのでICには別電源を用意しました。電源はブリッジ整流の後に定電圧の3端子レギュレータをおいた簡単なものです。
SATRI回路の出力ゲインはなるべく高めの方が帰還量が増えて歪は少なくなるので仮に60dBとすると、入力抵抗が1kΩですからその1,000倍の1MΩとなります。丁度これをDCサーボの入力抵抗と兼用すれば素子も削減できて便利です。
この時高域のオープンループカットオフは6BM8の5極管部のグリッド入力容量10pFで約1.5KHzになります。
DCサーボのカットオフは1Hz以下として帰還容量は0.22μFにします。サーボ出力は10kΩを介してSATRI-ICの入力に繋ぎます。またここに出力段のプレートからの帰還抵抗も接続されます。
帰還抵抗の値を計算する前に、まずアンプのクローズドループゲインを0.6Vでフルパワーが得られるように約20dBと決めました。アウトプットトランスのインピーダンスが5kΩとして、スピーカ端子の8Ωに対する巻き線比は25:1になります。出力5W時のスピーカ端子電圧は6.3Vですから、出力段のプレートでは158Vの信号電圧が必要になります。帰還抵抗値は先の入力抵抗値と入力電圧から
1×157÷0.6≒270(kΩ)
 とすればよいことになります。
バイアス電圧は21Vぐらい必要ですが、SATRI-ICの基準電圧が−15Vなので、この分が固定分となり、残りを自己バイアスとし、1本毎に220Ωをカソードにつけています。バイパスコンデンサは低域の安定度から少し大きいのですが1000μFにします。
 B電源は通常のコンデンサーインプットの両波整流です。使用した写真のパワートランスは昔の物の流用なので、今回の用途としては少し小さめでした。追試なさる方は余裕のあるものを購入してください。電流はB電が1本当たり30mAですからトータル120mA、ヒータは3.12A必要になります。


特性・性能

 動作時の各部電圧は
B電254V
プレート(5)243V
第2グリッド 242V
カソード(5)  6V
プレート(3)183V
カソード(3)−14V

でした。プレート電流は30mA弱ですからプレート損失は6.5W  と定格に入っています。
入力感度は1kHz0.7Vで5.3W(CL)となり、ゲインは19.4dBでした。ノイズは3.5mVと大目ですが、これはプレートからの帰還を掛けているので電源のハムが乗ってしまったためで、電源のリップル対策をすれば1mV程度になります。
 周波数特性はトランスが安価な割には素直で高域は120kHz(−3dB)まで伸び暴れもまったくありません。非常に素直です。
 低域は位相の回転が大きいために12Hzで3dBほどピークが出ていますが不安定な状況ではありません。進み補正をすれば改善できると思いますが特に手は打っていません。
 ちなみにプレートからの帰還抵抗を外しグリッドを10kΩでアースに落とすと無帰還動作になり、60〜30kHz(−3dB)の普通の特性になります。

 歪は高帰還の為にかなりよくなっていますが、初段及びトランスが小型のためそこそこです。最大出力までは1%を切っているので実用上は問題にならないでしょう。歪は2次が中心ですが、クリップ際では高次歪となります。

構成
初段は6BM8の3極管部カソードフォロアのパラ接続で、約500Ωの低インピーダンス出力とし、各1.5kΩの入力抵抗でSATRI−ICに入力。SATRI−ICは正相増幅としてDCサーボ入力抵抗を負荷とし、約60dBのゲインを稼ぐ。
 出力段は6BM8の5極管部をパラ接続として、SATRI−IC部の固定バイアスとカソード抵抗による半自己バイアスとで動作する。アウトプットトランスはパラ接続なので5kΩとし、プレート(1次側)からNFBをとる。
 電源はB電はダイオード整流をパイ型で平滑し、出力。3極管部はCRでデカップリング。OPAMP、SATRI−IC部は別電源で±15Vを用意した。±15Vはバイアス電圧、及び初段のカソード電位にも利用。
           
 6BM8(T)パラ−SATRI-IC(4.3)   −6BM8(P)パラ−トランス−8Ω負荷
        SATRI-IC(5.1)任意
Opamp(DCサーボ)

仕様
 出力 5W(クリップ4W)
 入力 0.5V
 ゲイン 20dB
 出力インピーダンス  8Ω
 入力インピーダンス  10kΩ
 入力調節 ボリューム

特性(Rch)
 周波数特性 15〜110kHz(−3dB)
       25〜50kHz(−1dB)
 雑音歪率  0.12%(1W)
0.5 %(3W)
 ノイズ   3.7mV

SP出力FFT図(Rch)
0. 125W(1Vrms)1kHz出力時