Acoustic Motional Feed Back の実験
2014/1/3 石田 隆
スピーカの出力からフィードバックを掛けて特性を改善するMFBは理論的には理想ですが、ユニットが特別な物が必要となりなかなか一般的にはなりません。
そこでマイクを使ったAMFBならスピーカユニットに特別な物が必要ないので取り組み易いだろうと試してみました。
マイクはECMカプセルのエレクトレットマイクが安価で性能も優秀です。今回はパナのWM-61Aを使用しました。
スピーカシステムは基本は密閉であることが必要になります。それはAMFBはユニット直前で検出するので、バスレフタイプはポート共振でユニット音圧が低下するので使えません。ただし、ポート共振と両方検出し合成すればできそうですので今後の課題です。
回路はアダブタ形式にしてパワーアンプの直前に挿入する様にしました。パワーアンプは従来の物を使用します。
左の写真が今回のアダプタ試作機の概観です。
機能的は入力VR、マイクVR、パススイッチを備え、バランス及びアンバランス対応のステレオ機です。
右の写真は検出マイクと測定マイクの状態です。検出マイクの位置はラフですが、なるべくセンターのコーン紙に近づけた方がベターの様です。(テストスピーカはAlpair10を使用)
内部回路の概略は次のようになります。(詳細定数は変更されていることがあります)
構成と動作の説明
マイクは2.5Vの定電源から負荷抵抗R2を経由して電源が供給されます。それを帰還量を調整することになるVRで受け、U1のアンプで入力信号レベルまで増幅します。
(ここでは10倍のゲインになっていますが、100倍ぐらいあってもよい感じです。 )
U2では全体の系のフィードバックがネガティブフィードバックになるよう位相を切り替えられるようにしています。(アンプやスピーカ、マイクの構成等でどちらも考えられます。)
信号系は今回はバランスタイプとしましたが、アンプによってはシングルでも十分です。
入力はVRと初段のU3,4のアンプでフィードバック分のゲイン低下を補います。回路図には有りませんが、出力へのスルースイッチも設けるとMFBの有無の比較が簡単になります。
その後はU5,6でマイクからの検出信号と入力信号の差分をとります。バランスタイプだそれぞれの入力が位相が異なりますので差分を取る位相が変わります。なおこのアダブタでは入力信号は反転して出力されますので、マルチの場合には注意してください。
その後には1kΩと1μFのLP補正フィルターで高域を減衰させMFBの系による位相回転が180度になる前にゲインを0dB以下にします。MFBの量はマイク直後のVRでゲイン調整され発振の直前の安定したところに合わせこみます。
上の黒線がMFBなしのスピーカ直前(5cm)での周波数特性です。ローバスフィルターが入っているので高域で落ちています。MFB(マイク)のゲインを上げると茶−>青−>赤と変化していき、最後にピーと発振音がしてきます。
発振しないまでもゲインをあげすぎると中域でピークが出ますので、ピークが出ないフラットな状態か、少しピークが残るくらいの青から赤の範囲が良いでしょう。ピークがあるとそのままでは共振音が残りますが、ローパスフィルターを掛ければ出ません。このようにチャネルデバイダを通さずに周波数特性を見ていると適切なフィードバックゲインの調整が楽に行えます。
結果黒線との差分がMFBになりこの状態で10〜15dBほどのMFBがかかっていることが解ります。このため歪率や過渡特性が大幅に改善されます。 また周波数特性も低域が20〜30Hzまでフラットに伸びますが、スピーカの能力以上信号が入り易くなるので、ユニットの性能をみてローカットするのが良いでしょう。使用帯域の上限は4〜500Hzが推奨です。
試しに200Hzクロスで低域にAMFBを掛けてみましたが、中々締まりのある高品位な低音が得られました。3Way以上の(もしくはウーファ+フルレンジ)などに最適だろうと思います。
このようにAMFBでは比較的簡単にMFBが掛けられ性能向上が見込めるので面白い方法だと思います。