振動打消(CancellingVibration)対向スピーカCV-1の製作
筋の良いPARCの13cm薄型ポリプロコーンスピーカのDCU-131PPユニットをメインに、全体を軽量化でも立ち上がりの良いシステムを目指しコーン紙の反作用を打ち消し、駆動原点を明確化ができる対向配置にしたことを特徴とするスピーカシステムを作ってみました。
特徴
スピーカは振動板を前後に移動し音を出す構造ですから、その反作用で僅かながらコーン紙の駆動原点となるべき磁気回路やフレームが動いてしまいます。そのため、電気信号でフレームからの相対運動をしている振動板はそのままでは信号に対して正確な動きをしていないと考えられます。
また別の見方をすればコーン紙の反作用はフレームを振動させ、それがエンクロ―ジャなどに伝わり、本来の振動板以外からの歪み音を発生させ、忠実な再生を損なう一因となるとも考えられます。
そこでその対策としては背面にデッドマスを付けその質量でフレームの振動量を減らしたり、フレームを強固で重量級のエンクロ―ジャに固定してその振動を減少させるなどして、なるべくフレームやエンクロ―ジャが動かない(鳴かない)ように対策が取られるています。しかし、この方法では理想的にデッドマスやエンクロージャが無限大の重量でない限り振動が完全無くなることはありませし、重量増加は設置や移動に不便でコストも上がってしまいます。
そこで今回その対策として対向するユニットを同相の信号で駆動して、両者の反作用力同士を打消しあうアクティブに振動を消す構造をとりました。この構造はデッドマスや重量エンクロージャを使わずに、軽量のスピーカシステムでも振動板の駆動原点が固定され、正確に信号駆動力をコーン紙の動きに伝えられるので、立ち上がりの良いスピーカシステムになるのではと考えました。
またこのスピーカではユニットの配置だけでなく、ユニットの結線も片chあたり前後の各ユニットから4組(8本の線で)別々にアンプまで配線するようにして相互の影響を除くようにしています。
さらに駆動する アンプは前後ユニットごとに左右合計で8台のアンプを用いて、前後のアンプは位相を逆としたバランスドライブとして駆動するようにして、小信号ではアンプの消費電流の一定として電源の影響を受け難くくして、更に正確な動作をするように考えました。
仕様
使用ユニット 低域 PARC DCU-F131PP(2ユニット)(後日アルミコーンユニット131Aに変更)
高域 前:SEAS T29MF001 後:DENON 32DT34(後日後ろもSEASに換装)
クロス周波数 約3kHz(バターワース−48dB/octデジタルチャンデバDXC2496改使用)
エンクロ―ジャ 約22リットルバスレフ(fs 約50Hz)
駆動アンプ バランス型マルチアンプとデジタルチャンデバによるユニット個別駆動
エンクロ―ジャ構造
今回はスピーカの持ち運びが簡単にできるように考えて、各部が分離可能な構造になっています。
構成は下から4角のベース板、ボイド管にマーブル模様のカッティングシートを貼った円筒エンクロ―ジャ、その上部のヘッドユニット(ウーファユニットとツィータユニット)の四体からなります。それぞれはネジ止めで固定されているので簡単に分解でき、個別の梱包箱を用意して手軽に可搬できるようにしています。
サイズ 21cmφ(45cm角ベース板を除く)x110cm(H) 約10kg/台
ヘッドユニット
ヘッドユニットのうち、下のウーファ部は12mm厚のMDFを接着により組み立てました。各辺とコーナは反射による干渉を低減するためアールをつけ、マーブル模様と合わせるために白の水性塗料で塗装しています。
ヘッドユニットへのウーファの取付は右図の様に磁気回路の底部に真鍮ブロックを挟んで2つのユニットを接触させ、前後を通しボルトで固定して結合させ一体化しています。
これによりコーン紙の反作用を打消しています。
この時ヘッドユニットのエンクロ―ジャはこのボルトの内側から位置出しをしたナットで固定、ユニットとの間は薄いシールを入れ、機密性を保持するとともに振動を伝えない様に浮かせ気味に取付ています。
ツィータ部は塩ビパイプにの側面に下部のエンクロージャと同様なマーブル模様カッターシートを貼り、前後をMDFのバッフルで挟んだ構造でとなっています。ユニットの取り付けはウーファ部と同様に前後の通しボルトで前後のユニットの底部間に板を挟んで固定しています。
ウーファ間の距離とツィータ間の距離は前後とも20mmツィータが奥に下がるようにツィータ間を狭くして、2wayのタイムアライメントを物理的に取ることで、前後への波形再現性と点音源化を図っています。
対向配置の振動対策のためエンクロ―ジャの強度はそれほど必要でないので全体の軽量化が図れ、ウーファ部と合わせてヘッド部1台では4つのユニットを搭載しながら約6.5kgに収まっています。
エンクロージャ
下部のエンクロ―ジャは全体の軽量化を図るため、仕様説明で述べたようにボール紙を円形に固着成形した市販のボイド管というものを使用しています。今回の仕様した管の内径は200mmで厚みは約5mmです。
ボイド管はボール紙とはいえ円筒形状の為かなり強度があります。更に内部は補強のためボイド管を切った残りに割を入れ、適宜内部に貼り付けて厚みの2重化をしています。
また筒共鳴を防ぐよう、吸音材を上から約1/4,1/2,3/4の場所に吸音材を固定するため、10mm径の固定用の筋交いを入れています。エンクロ―ジャ重量はボイド管を利用したため約2.5kg/台と軽くなっています。
特性
インピーダンス特性
エンクロ―ジャの長さが半波長になる筒共振で210Hzあたりに共振が出ていましたが、吸音材を挿入することで抑えられています。
吸音材あり 吸音材なし
各ユニット周波数特性
デジタルチャンデバによるマルチアンプ駆動をしています。周波数特性も補正を加えリスニンググポイントでのフラットを基本に聴感で若干修正を加えています。
クロスは3kHzあたりにしています。赤がウーファ、黒がツィータの特性です。
試聴
前後にスピーカが有るため指向性は双指向性となり、背面にも音場が広がるので無指向性スピーカの様な前後に広い奥行きのある独特の雰囲気を持った再生をします。このため音場の再現に優れた効果を発揮するようです。
また対向型の為に音の立ち上がりが良く、輪郭がはっきりして微細な表現と馬力のある音が出るシステムになったように感じます。背面のスピーカの正面への回り込みは少ないのですが、それで背面の音を止め通常のタイプとの比較をするとその差がはっきりすることで、効果が確認できます。
全体に軽量で優れた音質を持ったユニークなスピーカシステムができたと満足しています。
(現在は更にウーファユニットをDCU−131Aに、後ろのツィータも前と同じT29MF001に交換済み)
追:歪率測定
条件は室内設置状態で正面・距離1m、測定器はOmniMIC V1です。Omniの歪解析値の検証はまだしていませんが、今の所そのまま信用することにします。(見難いですが歪データは青がトータル、橙が2次、赤紫が3次、緑が4次、水色が5次です。)
音圧違いでのデータは取っていますが、掲載図は中域で約85dB、かなり大きな音です。通常再生ではMAXに近いでしょうか。ただ暗騒音からみてこのぐらいの音量でないと歪データの精度が出ません。特に低音は厳しいです。
結果をみるとやはりこのスピーカのユニットの個性など面白いことが判ってきます。
歪率としては70Hz以下の低音では約0.5%、バスレフのポート共振点では更に下がって0.3%ぐらいと優秀です。ただし、主に2次歪ですが100Hz前後で1〜2%程度に増える山があります。ここは音量を上げるとさらに増えるのでユニットのストローク歪の様です。
中域の歪率は約0.3%ですが、ここも2次がほとんどで3次は更に10dB以上低くなり0.1%前後です。高域はウーファの様な2次歪が減り、3次と同等でトータルでも0.1%あたりと優秀です。だだ2.3kHzあたりに3次の山があり、つぶす対策はしていますが多分ウ−ファの7kHzのピークが効いているのだと思いま
2012/4/28
2013/5/13 歪率データ追加