DCU−C171PPスピーカ
評判の超軽量PPコーン使用の同軸ユニットを使ったワイドレンジスピーカシステムです。
このスピーカのねらいは
1.大型スピーカ並みスケールを出す、箱鳴りを生かした偏平エンクロージ
2.ノッチフィルター、高低域インピーダンス・バッフル補正など高度なネットワーク
3.中高域音漏れを防いだバスレフ設計
エンクロージャ 板厚15mm容積18L(45x45x13cm)
ポート 5cm径20cm長(共振周波数約40Hz)
クロス周波数 8kHz(高域のみ2次+3kHzノッチフィルター)
ネットワーク補正 バッフルステップ補正(+6dB)
表面仕上げ サイド:和紙貼り、正面:繊維壁紙貼り
端子 標準バナナ端子
40〜200000Hz以上まで±5dBに入るワイドレンジな特性で、補正のため能率は少し低くなっていますが大型スピーカなみの鳴りっぷりの良さが特徴です。
また中高域はポートからの音漏れを抑え、ツィータの低域をシャープにカットしたために歪感が少なく、全体にすっきりとした音になっていると思います。
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周波数特性測定条件 室内1m
バスレフポート
ここではバスレフスピーカシステムの製作であまり注目されないポートからの音漏れとその対策について説明したいと思います。
まずグラフの一番上をみてくださいこれは今回のDCU-C171ppの製作途中でのポートからの周波数特性で、通常の周波数特性の測定と同じようにして測っていますが、マイクを直にポートの出口に置いて測った物です。
エンクロージャの密閉が不十分で低域の共振峰の音圧が充分出ていませんが、それ以上にポートからの中域での音漏れがかなり大きいことが解ると思います。
この音漏れは音圧が高いと同時に、ピーク性の凸凹した周波数特性から解るように、方形のエンクロージャ内で起こる共振性の歪音で、ポートが音響フィルターを構成して高域が減衰しているにもかかわらず、ポート開口部から直接もれてしまう音です。
一般にエンクロージャの吸音を過度にすると音が死んでしまうと言われて、吸音材なしを謳うものもありますが、原理的にはユニットから情報量不足を共振音を付加して色付けしているとも言えます。まあ個々のオーディオ機器の場合、結果オーライで決まるので一概には言えませんがこの共振音はその点を考えた上で活用する必要があります。
特にポートからの音はエンクロージャ全体の響きよりも直接的な音なので、耳に付き易い点があります。そのためポートを正面出ださず、背面は底面に配置するのもその対策のひとつになり、最近は良く見られるのもこの点をメーカが考えているのかもしれません。
今回はその対策として2つの方法をとりました。ひとつはポートの内部開口位置の選択です。エンクロージャ内部といえども空間内は定材波ができますから、音圧の節の位置に開口を持っていくことでポートからの音漏れの影響を少なくできます。これは室内の音響シミュレーションソフトを(寸法を正規化して)を活用して、定材波の少ない位置目安を見ることができます。
もうひとつは効果的な吸音材の配置で、これはバスレフとかにはかかわらず一般的にも活用できますが、前のシミュレーションがここでも役立ちます。音漏れの観点から言えば吸音材を過度に入れて共振を抑えれば良いのですが、それではバスレフの低音共振も抑えられて意味がなくなります。ですのでやはりここでも最終的には完璧なセオリーは無くカットアンドトライの要素が大きくなるのはやむを得ません。
今回はポート内部開口を左右はセンター、上限は1/4程度を狙いました。本来は中央にしたかったので中央開口だったのですが、ポート共振からポート長が長くなり奥行きに入らなかったためです。
吸音材は暫定的にバッフル面裏のみにしたのがグラフ中央で、上から見るとかなり抑えられていますが、まだ十分ではないようです。そこで再度と横中央1/2の間に仕切りのように吸音材を立て、更に吸音材を増やした時が下のグラフで、少しポート共振が下がるなど低音にも影響が出ていますが最終的にはこちらを取りました。
音質的には暫定版でも問題無さそうで、音の張りはありますが少しにぎやかな感じです。最終版にすると全体に音が大人しくなる感じですが、その分すっきりとした音になりボリュームを上げれば更に細かい音が良く聞こえるように感じます。
まあこの辺は各自の好みと、使用音量などで決まってくるので試聴で追い込んでゆけばよいと思いますが、この辺のパラメータがスピーカシステムの製作には重要なポイントなのは変わらないと思います。
インピーダンス
今回のエンクロージャは約18Lと標準より少し大きめにしました。更にバスレフ臭くならない様にポートの共振周波数も40Hzあたりと少
し低くして、低域での郡遅延を少な目にしています。そして最低周波数領域も伸ばしています。ただし、その分低域全体のレベルは下がるので、バッフル面を大きくしバッフルステップの補正も行う様にしています。
一番上のグラフは裸のユニットのインピーダンス特性でカタログどおりfoは35Hzぐらいとかなり低めです。それをエンクロージャに入れて密閉にした時のインピーダンスが次のグラフで、foは55Hzぐらいになっています。(2番目からはツィータ付きの特性)
これから求められるティールスモールパラメータもメーカ発表値とそれほど異なりません。かなりいい線行っているでしょう。
そしてそこに約20cm(5cm径)のポートをつけたのがその次のグラフで、ボート共振は40Hz弱でしょうか。インピーダンスはほぼ共峰特性になっているのでそれほどずれてはいないようですが、今回はバスレフ臭くなくするように低めにしています。
さらに低域のダンプに低域のインピーダンス補正用のLC共振回路をパラに入れたのが最後のグラフです。
低域の補正はインピーダンスの均一化というより、低域のダンプ効果をねらったものです。しかし効果は低域だけでなく全体域にわたってスッキリとした音になるようです。
ツィータネットワーク
続いてツィータのネットワークについてです。このユニットはウーファ側がフルレンジ並に高域まで伸び特にピークも無いのでネットワークを必要としません。これにわずかにスーパーツィータの様に高域を付け足すような感じです。低域のネットワークがないのは音質的にもコスト的にも助かります。
ツィータは標準では2次のハイパスフィルターですが、グラフ(一番上からFig-nとすると)Fig-1では3kHzあたりの中高域に少しディップが見られます。数dBですが、少し気になります。聴感上は音像が少し下がったように聞こえ、線が細くなるようです。
この時フィルターの容量が標準より少し大き目ということもありずっとクロスを上げて見ました(Fig-2)が、今度はディプ周波数が上昇しています。逆相接続ではどうかとツィータを逆相接続してみましたが(Fig-3)少し良くなりましたが、完全にディップは無くなりません。
そこで原因を調べてみるためにツィータ単独を測定してみると結構3kHzぐらいの低い周波数にピークがあり(Fig-4)、これがフィルターを入れても2次程度では(注:この図はどうも1次の間違いのようです)充分減衰していません(Fig-5)。
このあたりの周波数ではフィルターのためにツィータを正相接続している場合には、位相が180度まわりウーファと打ち消しあうことになってディップができているのだと思われます。
フィルターの周波数を上げれば同様なことが高域に移り、逆相では本来のツィータの高域とウーファの高域が打ち消しあってディップが消えないのではないでしょうか。
結局このピークを潰さないと合成時の特性で完全にディップを解消できないので、これを何とか減衰させる方法を考えなければなりません。
しかし、単純にフィルターの次数を増やしてもクロスが8kHzあたりですから3kHzでは充分な減衰量が取れませんし、素子が増えてその値にも精度も必要になってコストアップになりあまり得策ではありません。
そこで今回はピークキャンセラーをつけてこのピークをつぶす方向で考えてみました。結果としてアンプとツィータの間には直列に1μFを入れ、ツィータには並列に30μFと0.1mHを直列にしたものを追加します。部品としてはほぼ30μFのみ追加でいけるはずです。
このときの特性はツィータのピークが丁度キャンセルされ(Fig-6)うまく8kHz以下は充分に減衰しています。これで正相接続での合成時の周波数特性はフラットになりました(Fig-7)。
これでメデタシメデタシとなればよいのですが、Fig-6では実際のツィ−タのレベルはもっと低くなっています(グラフ上は補正しています)。そのため通常の合成特性ではウーファ側とレベルが合いません。実は今回は低域側にもバッフル補正を6dBぐらい掛けているので、ウーファ側も中高域でレベルが落ち丁度ツィータと合って合成特性はぴったりとなっているわけです。
ウーファ側にバッフル補正を入れない場合には直列の1μFの値を少し増やして(ツィータ低域の減衰は完全ではなくなりますが)もう少しレベルを上げてやれば、バッフルステップなしの場合でもうまくいくかもしれません。
ということで今回は完璧?を期す為に結構複雑なネットワークとなってしまいました。まあここまでやる必要があるかは複雑な心境ですが、一応ちゃんとした特性ではどうなるか追い込んでみたものも聞いてみてから判断しても遅くはないと思いました。(測定は室内で約50cm、SpeakerWorkShopにて)
最終ネットワーク回路図です。(L1,2はコア付き)