2013/10/13

石田 隆

スピーカのエンクロジャの違いによる

再生音圧計算 シミュレーションハンドブック

 バスレフやダブルバスレフ、MCAPなどの色々なエンクロジャに入れたスピーカの再生(ポート、ドライバー、合成)音圧の予測をシミュレータを使って行う方法をご紹介します。なおこのシミュレーション結果はスピーカを2π空間での再生(無限大バッフルに埋め込んだ時)の特性になります。

 

1.準備

1.1 ドライバーのTSパラメーターを調べます (メーカの発表値や、測定による)
    fo(最低共振周波数 単位Hz)
    Vas(等価容量   単位L)
    Qts(共振の鋭さ 単位なし)
1.2 エンクロジャの構造と寸法を測定します
    C 各室の容積 (単位L)
    Sd ポートの断面積(単位 cm
    Ld ポート長さ(単位 cm)

2.シミュレーションパーツへの置換え

2.1 スピーカユニット

 スピーカユニットは直列のLCRの組みで表され、TSパラメーターから次の式で計算します。
Mo=

Co=1/
Mo(2πfo)^2
Ro=
(Mo/Co/Qts 

それぞれの単位はH,F,Ωです。
計算例  fo100Hz Q=0.7
      Co=1/(2*3.14*100)^2=2.53e-06
      Ro1/0.000000253)^0.5/0.7=898

2.2            空気室

 

容積C(単位リットル)の空気室はそれぞれ
Cn=Co*C/Vas
で計算しコンデンサ(単位F.)に置換えます。

2.3 ポート

 
ポートは設置状態により次の二つの場合に分け計算します。

1)片側が開放空間の場合(シングルバスレフの場合)

ポートの共振周波数をfdHz)音速をc(cm/sec)とすると

fd=√10*√(Sd/(Cn*Ld))*c/2
π173√(Sd/(Cn*Ld)) −−−式1

 

で求めるか、共振周波数を先に決めて残りのSdもしくはLdを算出します。

 

例えばエンクロージャ容積をCとすれば

Ld≒30000*Sd/(C*fd^2)

 

となります。その後


Mn=1/(Cn*(2π*fd)^2)

 

Mnを計算し、インダクタンス(単位H)に置き換えます。

2)ポートの両端が空気室の場合(ダブルバスレフなどの連結共振系などの場合)

ポートは両端の空気室をC1,C2とすれば

Cn=C1*C2/(C1+C2)


で式1のCnを置換え同様に計算します。

 

開口端補正


 ポート長は端部空気の負荷質量が加わるので実際より長く見えます。これを開口端補正と言います。

これも開口の状態により開口端補正の種類が2種類あります。

補正値Lはポートの半径r、直径Dとすると

a,)
平面にポートが付いている場合   L=8r/3π0.424D
b)
ポートが空間に突き出している場合 L=6r/π^20.304D

分だけ実際より長いものとして計算します。

3.シミュレーションする

3.1 等価回路図を作成する

置き替えたLCRをエンクロジャ構造図にしたがって接続します。例えばバスレフの場合









 
          スピーカユニット       空気室         ポート










上図の3つが重なり、この場合この様な形になります。


3.2 音圧を計算する

 回路を流れる電流が空気の速度を表すので、その微分値が音圧になります。

シミュレーションでは測定ポイントに直列にインダクタンスを入れれば微分となるので、その両端の電圧を測定すれば音圧を読み取ることができます。

この時次の図の様にM1を流れる電流だけを見ればポートのみの出力が見られます。またC1M1の両方の合計電流を見ればユニット単体のみの出力音圧を見ることもできます。

ポート出力のみ見る場合


C1M1の両方を見た時がユニットとポートの合成になる様に思いますが、ポートの出力が反転しているので、C1のみを見た時が逆に合成特性になります。

4.シミュレーション計算例

4.1 無限大バッフルにユニットを付けた場合
  2.1の例を使ってユニット単体の特性を見る場合は次の様になります。

 

 foの100Hzでー3dBの1次減衰カーブになります。

 

 Lはユニットの特性に影響を与えない様に小さい値(1mH)とし電圧変換時に1000倍して出力を0dBレベルの表示を合わせると見易くなります。

 

4.2 密閉型のエンクロジャに付けた場合
空気室C1ユニットに付き、このコンプライアンスがユニットとシリーズになる(つまり空気室がスピーカのバネになる)ので、この時の等価回路は次の回路図の様になります。 



 

計算数値例 fo 42.4Hz Qts 0.65 Vas 19.3L C 19.3L

 

ここでR2はシミュレーションの収束を行うための手法で、結果にはほとんど影響がない大きな値としているので結果では無視できます。

シミュレーション結果はエンクロジャでスピーカの見かけのQが高くなるので音圧は少し盛り上がってきます。

CoC1を直列合成した値にすればR2は必要なくなります。)

 

 

 

 

 

 



 

 

 


4.3 バスレフ型の場合
空気室にポートが付くので密閉型にM1が加わります。




R2はポートの粘性(もしくは絞り)を表し、共振のQ値を決めますが、数値計算が難しいので、実際に合わせてカットアンドトライになるでしょう。

 左の図は密閉型の例で共振周波数  43Hzのポートを付けた場合です。

この例ではポート共振が少し高めで低音が持ち上がっています。










4.4 ダブルバスレフの場合

 前項のバスレフダクトに直列に更に空気室とポートが付きますから、下の図の様にM1の先にC2M2が付く形になります。
 またこの例はダブルユニットなので、ユニットを表わすLCRがパラになります。
この場合はゲインが6dB上昇するのでLは半分の0.5mHとするか電圧変換倍率を500にします。


TangBand W3-881SI
の計算、シミュレーション例上げておきます。




 


fo
 110Hz Qts 0.82 Vas 2.8L  ユニット2個使い
1容積、第2容積とも5L
1ポート径3.8cm長さ1.2cm 第2ポート径 4cm長さ5cm


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4.5 MCAPの場合
技術研究会HomePageに紹介されているMCAPCON GIOIAを例にとって計算してみました。
このMCAPはメインの空気室に第二空気室が2つ並列に付く形なので、少し複雑になりますが下図の様な等価回路になります。

シミュレーション結果は

です。こちらはまだ検証ができていません。

 

 

 

 

もう1例です。前と同じエンクロジャ構造で、4ユニットドライブでの製作例の DU050x5a型です。

 

シミュレーション結果は下図のようになりました。

 

 

4.検証

 

シミュレーションで結果が出ても最終的には実際の製作例と検証してみないとやはり正しいかどうかは確証がありません。

そこで実測と比較したいのですが、特に低音特性の測定は環境(部屋)の定在波など影響を受けやすいので、低音合成出力を正確に測定するのは結構難しいのです。

 

 そこで検証方法として部屋の影響を受けにくい、ポート出口の直近(もしくはユニット直近)の音圧特性を利用します。このシミュレーションでは個々のポート出力のみも結果として出力出来ますので、それらを比較して見るのが良いと考えています。以下いくつかの場合の検証結果を上げてみました。

 

4.1ダブルバスレフの場合

4.4の例でポート出力を比較してみました。

 

 

前述の計算例の第2ポート出力で、左がシミュレーション、右が実測値です。

 

シミュレーションのポート粘性抵抗値はもう少し調整すれば大体実測と合うでしょう。共振周波数や音圧などは良く合っているようです。


4.4MCAPの場合

 

もう一例はこれも前述の4ユニットドライブのDU050x5a型の場合で、短いポートの出力です。

 

上が実測値で、下がシミュレーションになります。

こちらもピーク周波数や音圧はかなり合っているように見えます。

 

 

まだ実測値との照合例が少ないですが、以上の例からは数値計算の間違いが無ければ大体実際と合いそうな感じですので、シミュレーション自体の信頼度は有り、合成値などもかなり使えそうに思います。

 

 









5.補足

 蛇足の様ですが、シミュレーションの結果はあくまで2π空間における結果です。実際の室内では様相が異なりますので、必ずしもこのシミュレーションでフラットが好ましいとは限りません。

 使われる環境に合わせた最終目標を定めて、それに近づける設計が必要だと思います。

 そう考えれば最適設計解は一つでなく、製作者の使用目的に合わせた最終特性に添う設計が必要になりますが、その様な時にこそシミュレーションを使って個々の最適設計を求めて、製作に生かせる様になれば助かるのではないかと思います。

 

*使用シミュレータ CircuitMakerR Student V6.2c



2014/7/4 修正追記

2015/4/8 修正