SDRAMメモリーバッファ付WM8741DAC

 LINNのDSに使われて有名になったウォルフソンのWM8741DACチップを使ってDACを製作。DAIにはエレクトロアートさんのSDRAMメモリーバッファDAIを使用している。(写真下は同じくDSD->PCM変換基板を搭載したSCD-XE6)

初期動作確認

 左写真は基板状態のバラックで、DACチップの出力から44.1kHz,48kHzfsのアナログ信号をようやく確認したところ。最近の高性能チップは4線つなげば終わりとは行かず、32kHz〜192kHzフル対応のアップサンプリング切替やデジフィル、ミュート対応など結構面倒だ。

 右上のメイン基板?には変換基板に載せたDACチップを2列コネクタでソケット状にして取付けている。入力はDAI基板とLED基板に分かれているので今回はコネクタ配線が多くなっている。
 この状態はDAI基板のクロックもまだそのままなので、今後は当然読出しクロックの外部切替回路やマスタークロック切替もまだで、この後入力アイソレーショントランスなどのデジタル部の追加や、出力段のアナログフィルターを加える。

 メモリーバッファDAIは以前U氏の物を使ったことがあるが今回はメモリー容量が大きいのでトランスポートとの同期を取らずにも繋げる所がよい。一応動作はちゃんとしているようなので大丈夫だろう。表示に見えているのが書き込みと読み出しポインタを示すLEDでメモリーが足りなくなりそうかが大体わかる様になっている。

アナログフィルター

 DACチップの後のアナログフィルター部が左の写真。基本はマニュアルの推奨回路と同じだが、そちらは少しインピーダンスが低いように思ったので、全体に定数を変更しインピーダンスを上げた回路定数で組み込んだ。

 簡単な回路なので一発動作と思いきや、やはりチョンボがある。こういう時はゆっくりと落着いて考えればよいのだが、大体慌ててミスの上塗りとなりやすい。
 正しいものを間違っていると思い込んで余計に変更してしまったり、一部だけの修理で完全に直ったと思い込んでも動かなかったり、まあ色々なケースがある。
 でも間違いを測定データなどから理論的に推理し、不良箇所にたどり着きいて思い通りに直すことができると、これまた気分が良いものである。組みたては回路図どおりに組み込んでいくだけで知的刺激が足りない?こんな時はトラブルもまた脳の活性化には良いのではないだろうかと負け惜しみ。

 特性を確認してみたがカットオフはバランスで230kHz、アンバラで130kHzぐらい。それぞれ2次と3次フィルタで特性も設計どおり。バランスは正逆相が各1Vrms、アンバランス出力は2Vrms出力と標準的な出力レベルとなった。

総合組立て

 こちらが基板をケースに入れて動作確認した所。まだまだ細かい所はこれからだが、まずは基本機能が確認できた。

 44.1kHzfs系は2and4倍のハイサンプリングも確認できたので当初の目論見のSACDtoPCMも176.4kHzfsで聞ける様になった。

 WM8741は機能も多いので、サンプリング周波数対応による内部オーバーサンプリング切替、De-emphasisは自動切換えとしたがDe-emphasisはマニュアルにも対応。後は(無信号時のは自動だが)手動ミュートとデジタルフィルターの切替もマニュアルSWで対応している。

  入力セレクタはTOS-1、同軸-3の4入力切替。同軸はデジタルトランス付きとトランス無しも用意した。

  出力はアナログアンバラ2組(RCA端子と3P専用端子)、バランス出力は2番ホットの標準3P端子を1組それぞれパラ出しで電源ONOFF時自動ミュート付。

  電源は小型アンプ並のU字コアトランスを使用し、ショットキーダイオードによる出川電源とした。定電圧3端子使用。外部クロック入力も切替つきで実装する予定。

 折角なので途中だが色々聞いてみた。ハイサンプリングデータはまだまだ少ないので、SACDのPCM変換を主に試聴する。というかこのために作ったようなものなので192kHzfsはまだお預けである。

 DSDのPCM変換は88.2kHzfsと176.4kHzfsの2種類が取り出せ、88.2kHzfsでも流石にCDとは大分違うと既に10枚ぐらいはリッピングを始めていた。まあ変換精度で言えば176kHzでもそれほど差は出ないかだろうと予想していたが、176.4kHzfsを聞くとやはりかなり違う。2.8MのDSDデータはPCMでも176kHzfs24bitぐらいの情報量があるとは聞いていたのだが、SACDの特徴である細かい音が良くわかり、全体に柔らかい雰囲気が漂うようになる。ただ88.2kHzfsも雰囲気が良く出ていてこれも捨てがたい。

 更に面白いことに今までトラポの出力をチャンデバのDCX2496のデジタル入力に繋いでいたのだがで、DACを通してアナログ接続としてしてみるとそれはそれでよい。この場合チャンデバで再度24bit96kHzでA/Dすることになるので、 原理的には余計なD/A,A/Dが入れば情報は欠落するのが当たり前だが、なんとなくどうもDACを途中に入れてもアナログ接続の方が良いように聞こえる。 音に深みが出て切れも良くなるように聞こえる。
  今までは当然ながらデジタル接続の方が良かったが、PCM変換の精度が良くなる分D/A・A/Dのロスを上まわるからだろうか。それともDACの味付けが良いからだろうか。

 原理主義者に言わせれば余計なものが入らないシンプルな方が絶対に良いのだと簡単に断定されてしまいそうだが、必ずしもそうとばかりは言えないようなのが面白い。同じようなことだがCDの時代になっても音質的にはプリアンプを入れる方が良くなるのを感じていることを思い出す。

 このDACはハイサンプリングDACとしての特徴だけではない。もう一つの目玉はメモリーDAIで一旦デジタルデータを溜め込み、別の内蔵クロックで読み出す仕組みになっている。これによりトラポなどの前段のジッター成分を原理的には回避できるはずという働きがある。切替で通常のCS8416のレシーバ出力をそのまま再生もできるので簡単に比較できる。

 メモリーは32Mbit(4Mbyte)もあるのでCD1枚分ならまずどんなプレーヤを持ってきてもメモリーバッファがフローすることは無いだろう。正面のサークル状のディスプレイで書込みポインタが表示され、余裕がどう変化するかも見ることができる。
 実際メモリーを通すとハイサンプリングのように音の厚みが出て立ち上りが良くなる。CordのDACにも同じような機能があるが全体に音がマッタリと丸くなりやすい様に思ったが、これはそのような感じにはならない。バッファ容量で音も変わるような気もするが、有ってもこちらは僅かの違いでやはり有無の差が大きい。

 でも肝心なトラポのジッターの差を吸収して音の違いが無くなるか?というと、過去の経験でもそうだが、完全に無くなることはない。ではトラポの音の差はジッターではないのか?これはホントに現段階では良く解らないとしかいえないようだ。

最終整備

音だし優先で仮組みしたDACだがようやく全体整備が終わりほぼ完成状態になった。追加の部分は順不同で

1.デジタル電源の独立整流
2.ミュート回路の完備
3.自動de-emphasis対応
4.バランス出力対応
5.擬似SATRI-LINK対応
6.光入力対応
7.外部クロック同期対応
8.ミュートスイッチ、表示LED設置
9.手動de-emphasisSW、表示LED設置
10.デジタルフィルタ選択SW設置
11.配線整備

と色々ある。
 電源系はDAIロジック系およびDACのデジタル系をトランスの巻線から分離整流して供給。ミュートリレー電源もこちらから供給した。バランスとアンバラ両方ともショートリレーを入れている。

 バランス出力はポストフィルター回路から取り出されているが、そのままではDAC出力にDCオフセットがあるのでDCカットする必要があった。アンバラではキャンセルされるのでうかつに気がつかなかったので修正Cカットを入れる。
 アンバラ出力の 擬似SATRI-LINKはPCN巻線抵抗1kΩを直列に入れた物。通常のRL別端子によるワンターンループを避け3Pキャノン端子の正負にRLを対応させたものを使用するのでケーブルは独自仕様を使用する。バランスも含め出力端子のシャーシにはRL間スリット入りとしてワンターンコイルができるのを防止している。

外部クロック入力

 外部クロックは今回の目玉で外部入力をアイソレーション後、ルビが256fsなのでPLL502-02で倍クロックにアップして内部クロックとの切替可能とした。これでルビのスーパークロックが直接入力できる。切替はロジックで組んだので瞬時切替が可能。ただし、RAMバッファを使わない場合はシステムクロックがCS8416の再生クロックとなるので使用できない。これはRAMバッファの仕様。

 一番の音質変化はやはりこの外部同期クロックだろう。サンプルレートコンバータと今回のRAMバッファがDACの外部同期化の2大方法だろうと思うが、それぞれにメリットデメリットがある。
 RAMバッファは遅延時間の扱いにくさがあるが、データの純度はそのままなので、そちらの方は期待できる。しかし、今回は駆動が倍クロックとなっているのでその辺のジッタ増加がデメリットになる。
  でも聞いてみるとやはり5680Aルビ特有のスッキリとした雰囲気に音像の定位が決まり、生録などの再生では実際の様子をありありと伝える。ただスッキリしすぎ?で音量が小さいと寂しい音に感じられるかもしれない。まあこの辺も好みの部分で好き好きではあるが、やはり音への影響は大きいといえる。


  少し低域が弱いように感じたので、空いているスペースにアナログ部の電源コンデンサ22000uFx2を追加、ハーネスも少しスッキリさせほぼ完成状態となった。