直接放射型のスピーカの場合、発音源の位置はユニットとそれほど違いがありませんが、特にホーンスピーカなどは奥行きが有るのでどこが音源かわかりにくい点が有ります。
そのため周波数によって変わったり、ホーンの中心部だと言われり色々な説が流布しているようです。この辺も含めアライメントの取り方と、スピーカの音源位置の考察を述べてみたいと思います。
2.測定方法
音源の位置を割り出すには実際にスピーカら音を出してリスニングポイントでその音をマイクで拾うことになります。しかし、通常の正弦波では繰り返しなのでスタートポイントが判りません。そこでインパルス波形を用いた測定により、各スピーカからリスニングポイントまでの時間を割り出し、距離を算出します。
測定は長周期のインパルス信号を再生しそれと同期してマイクでの測定結果を測れば良いのですが、今回はインパルス応答が簡単に測れるomniMICを利用した測定を紹介します。OmniMICによる距離測定の詳細方法は付録資料をご覧ください。
3.アラメント調整
各スピーカユニットとリスニングポイントの距離測定により、アライメント調整が可能なのですが、実はステレオシステムの場合はスピーカが左右2つしかなく、それらのスピーカから絶対距離差はあまり問題になりません。また通常そのセンターで試聴するので若干ずれても音像がその分左右に振れるだけなので、カーステレオなどの極端な場合を考えなくても良いからです。
ではステレオシステムにおいてアライメント調整が重要になるのはどの場合かというとマルチスピーカによる再生の場合です。
帯域毎にダブルユニットの場合はその全体域でですが、シングルユニットでもマルチスピーカの場合は複数のユニットがそのクロスオーバ周波数近辺で同時に鳴ります。ですのでリスニングポイントとの距離差が有るとお互いから出る音波が干渉し、周波数特性など再生音に影響を与えてきます。2chマルチスピーカでのアライメント調整は各ch(また同一帯域の複数ユニット)のスピーカユニットとリスニングポイント間の相対的な距離差を無くすことが重要になります。
そうすると各ユニット間との相対的な距離を測定すれば済むので付録のような直接測定をせずとも各ユニット間のインパルス到達時間差を見ることで、付録の様な測定上の特別な仕掛けは必要なくなります。
直接放射型スピーカではバッフル板に取り付けた状態では時間差が小さいのでインパルス応答が重なり時間差が解り難いですが、ユニットが動かせるものでしたらわざと相対位置を10cm(0.3mS)以上離して測定してみます。デジタルディレイが有ればそれを使うと便利です。
その時の各インパルスの立ち上がりの時間差から算出した距離と実測の距離の差が判れば補正できることになります。
・ポイント
この時ウーファやスコーカーの高域側のフィルターは外してください。厳密な立ち上がりポイントが判りにくくなります。チャンデバでは簡単ですが、ネットワークではちょっと大変かもしれませんね。ただし、フィルターが入っても(波形が鈍って)測定精度が悪くなるだけで立ち上がり時間のポイントは変わりません。
マイク位置はリスニングポイントか両スピーカから厳密に等距離にします。大体精度は1cm以下にする必要があると思います。
・実際の測定
ドームツィータとホーンスコーカの測定データが左の図です。
デジタルディレイにより相対的にスコーカを前に出して24~28cm(各1cm、30μS毎)のズレを生じさせ、両スピーカのセンター位置でマイク測定をしました。(両方のピークが揃う様にレベルは調整している。時間目盛は図上でツィータピークを揃えてているためにずれている)
青線の所のスコーカのインパルスが相対的に段々前に出てくるのが判ると思います。
実測ではユニットの振動板距離差は26cmなので大体合っていると思います。
インパルスの合成波形は結構変わるものですね。25~26cmあたりがそれらしい波形です。
4.結論
この様な方法で相対的なスピーカの音源位置を測った場合、実質的には下記のことが判りました。
1.直接放射型のスピーカ音源位置はボイスコイルと振動板の接合部分と考えられる。
2.ホーンスピーカは音源はドラバーの振動板位置になる
ボイスコイルボビンが長い場合ボイスコイルの位置よりコーン紙(振動板)との結合位置が音源位置に近い様です。
ホーンスピーカで周波数により音源位置がずれるという主張もありますが、データを見たことが有りません。またフィルターを追加しても立ち上がり波形の位置は相対的に変わるように見えないことからもやはり振動板位置が正しいと思われます。音源が移動するというご意見の方はデータを出して頂けると有りがたいですね。
付録
・OmniMICを使った音源からマイクまでの距離測定
音源までの距離を測定する場合には絶対精度はあまり取れませんが、図のように並列に小型スピーカをマイクの位置に置きこれでトリガーをかける方法で測定できます。
下の図のようにマイク近傍に小型スピーカを置き同じテスト信号を絞って出します。このようにして測定したインパルス応答が下の図のようなものです。
最初のパルスがマイク近傍のスピーカから、2発目が被測定のスピーカからになります。
ですので1発目から2発目のインパルスまでの時間に音速を掛ければマイクからスピーカまでの距離が算出できます。
サンプリング周波数からみて分解能は約0.025msecですから、測定距離分解能は約0.7cm程度になります。
実施例
マイクの固定方法の実施例
小型のスピーカをマイクの近傍に留めテスト対象のスピーカとパラにつなぎますが、音量を下げるために直列に数百Ωを直列につなぎます。その状態で通常の周波数特性を測定します。
マルチウェイのスピーカーではそれぞれのユニットまでの距離が測定できます。この例では小型の2wayスピーカのツィータ(上)とウーファ(下)の距離を測ってみました。
スピーカまでの距離が実測67cmでしたので、音速348m/s(28℃)とする1.92mseccになり、測定の約1.9msecと大体合っていることがわかります。(厳密には表示数値は最初のピークからの時間なので、より正確に波形の立上り時間で見れば約0.04msecプラスするべきです。実際はこれが参照スピーカまでの距離とほぼ等価になって相殺されています。マウス矢印は後合成です。)
それぞれ波形の立ち上がりで見ると差分で0.03msec(約1cm)ツィータが早い(等価的に前に出ている)ようです。本来ならこの分ツィータを下げるなり、ディレイを掛けることにより位相を合わせる必要があります。実際に聞いてもこの効果はわかります。
例はツィータがドームの小型スピーカで、両ユニット中央の高さで測定しているのであまり差は出ないようですが、ホーンスピーカなどでは結構差が大きくなり無視できない値になります。
記 2012/2/29