ルビジウムクロック                                                      2009/3/7
                                                                 2013/4/15追記

クロックについて

ルビジュウムクロックと聞けばチョッと前までは100万円超の高級アイテムで庶民には縁がないと思っていたが、オークションなどで中古品が格安(といっても上記のことを考えればで最初はこの程度でも結構入手するまでには躊躇した)で入手できることがわかった。試しに購入してみて初めて作ったクロックがこの写真の物。
  いざ導入して聞いてみると最近にないヒット作で、使ってみると素晴らしい効果だった。音の木目が細かくなり、歪感も大幅に少なくなった。音像のピントは合ってきて全ての面で私の求める理想の再生音の方向と一致している。この効果に驚いてからはデジタル系には全てルビジュウムクロックを導入するまでになった。

クロックの意味

  元々はデジタル機器のクロックは各段の動作ステップの同期を取るためにあるのだが、デジタルオーディオ機器ではアナログとの接点となるポイントでクロックが重要な基準の一つとなる。すなわちアナログ信号とデジタルデータ間の変換精度は振幅の精度とクロックによるサンプリングというの時間軸的なポイントの2つで決まるので、振幅と同じ様にアナログ-デジタル間の相似性を保つ上ではクロックの精度が電源の安定化と同様に重要な要素になる。

 最近はクロック重要性も段々認識されるようになってきたが、クロックではどのスペックが重要かが曖昧で、一般には周波数安定度(精度)が何PPMだという絶対精度でしか判断されていない。確かに精度の高い発信源はジッタなども優れているものが多いが、精度が最重要なスペックではない。精度は良質なクロックの代替指標にはなるが、直接的なジッタ値やそれと相関がある位相雑音やC/N値などの表示が肝心だと思う。

クロックをどう使うか

 安定なクロックを用意しても実際にはどこに使うかが問題になる。トランスポートなどでワードシンクの同期入力がある機器も増えてきたが、まだ数が少ない。また本来なら最終的にアナログ信号に変換されるDAC(DACチップ)が一番のポイントだろう。詳しく言えばこのDACチップに供給されるLRクロックという信号がアナログ変換のタイミングを決めいているので、DACにジッタの少ないクロック(LRクロック)を供給することが重要だ。かわったところではデジタル入力のδΣ系デジタルアンプの場合にはDAC機能も内蔵されるので、このクロックもDACと同じように重要である。
 DACに直接クロックを供給できればそれに越したことはないが、クロック入力つきのDACはほとんどない。そこでそうできない場合にはその元をだどって間に入るサンプルレートコンバータやCDトランスポートなどの入力系の同期クロックに利用することになる。ただし詳しく言えばそれらは直接のクロック源として使われるのではなく機器の内部PLLの参照クロック(ワードシンク信号)として利用されるのだが、それでも良質のクロックを使う効果は確かにあり、各段での複数使用も効果がある。

 更にたどればソフト作成時のA/Dのクロックも同じように重要なはずであるが、ここまでは通常生録以外は手が出せない。しかし最近はその点を謳うソフトも出てきて、それなりの効果が伺える。

 つまり少なくとも全てのデジタル系の信号では高安定、低ジッタのクロックをベースにすることが肝心だと思う。

ルビジュウムの原理

 一応ここでルビジウム発振器の原理を簡単に説明しておこう。
ルビジュウム発振器は原子時計とも言われていて、一般のの周波数基準に用いられている水晶とはその動作原理が大分違う。発振器はルビジュムの2つ基底間のエネルギー落差に相当するマイクロ波の電子共鳴を用いて約6.8GHzで発振するので、水晶発振子のような物理的な大きさと振動モードによる共振ではなく非常に安定した性能を示す。精度は水晶振動子の約1万分の1、温度補償つき振動子の100分の1以下発振周波数安定度と低ジッタ性能となる。

追記:ただし、ルビジュウムといえどもその後はVCOなどを用いてクロックダウンしているので、その回路構成などによって機種ごとに性能は大きく異なり、ルビジュウムを使用したからといって同じ効果(音質)になるわけではない。他のオーディオ機器と同様名前だけにとらわれていないで、実際に聞いて判断する必要がある。

5680Aについて
  今回使用したFE-5680Aでは約6.8GHzの発振出力は直ぐに136分周され、約50.255MHzのVCXOとフェイズロックしてその出力はシリアルインターフェースによりコントロールされた32bitDDS (Direct Digital Synthesizer)により約0.01Hz分解能で希望周波数に変換される。今回は44.1kHzの256倍、11.2896MHzに設定して出力を取り出している。

  発振器は色々なメーカの物が出ているが今回使用したものはFEI Communications,Inc.のもの。これは説明した様にDDSの分周制御信号が外部からRS232Cでコントロールできるので、32bit分解能で10MHz前後の任意の周波数に設定できる。他のメーカのルビジュウムでは終段のVCXOをコントロールする点は同じだがそのタイミングと後の分周段の設計が異なり、5680Aの様に10MHz以外に可変できるとは限らない。(というか10MHz固定が標準)
 多くのCDプレーヤの場合、基準となる水晶の発振周波数は44.1kHzの整数倍(128,256,384等)なので、ルビジュウム発振器の基準である10MHzに近い256fsの11.2896MHzを利用するのが便利(後は96kHzの128fs12.288MHz)。このモジュールは前述のようにどちらの周波数でもデータROMの書換えで対応できる。

追記:最近は同じ型番でも内部の回路が異なり、この様な仕様でないものもある。事前に内容をよく確認して購入した方が良い。

クロックジェネレータ(分周器)

 通常クロックはワードシンクとして使う場合が多いと思う。ワードシンクにはfs(基準周波数)まで分周したものが必要だから、通常のルビジュウム発振器の10MHz出力だでけでは別にクロックジェネレータが必要となる。

  しかし5680Aの様に直接256fsのスーパークロックが得られば簡単にCMOSロジックIC74HC163(74AC163)を用いて同期分周しワードシンクのfs信号が得られる。今回の作成したものはそのようなクロックジェネレータを内蔵している。
 詳しく言えばその前にモジュールからの出力波形が正弦波でレベルも小さいので、74SN157等で波形整形をして矩形波に変換し分周器で分周している。
 これらの分周回路は電源条件もうまく作らないとノイズのためにジッターが増えるので注意が必要だ。


電源

 このルビジュウムの電源は15V1.7A(ピーク)0.7A(平均)が必要となる。SW電源でも可能だがやはりここも出来るだけ良質のトランス電源を用意した方が良いと思う。
 今回は余裕のある容量のトランスをルビジュウムとロジック回路毎に用意し、出川電源で整流、充分な平滑コンデンサを入れている。更に安定性からも リップルは抑えた方が良いのでレギュレータを入れている。ただしロジック回路の5Vはそれほど容量は必要ない。
  あと、ルビジュウム発振器本体はかなり熱くなるので、その配慮と放熱が必要だ。ただしある程度の発熱は内部にオーブンを持っているので避けられないので、ほどほどにするのが肝心。写真の例ように放熱ケースに組み込むのも手であるがそれほどこだわる必要はない。