月待塔


月待ちとは、やはり講で集まって精進する行事です。飲み食いや雑談で夜更かしをして、月の出を拝んだようです。一番多いのは「二十三夜講」で、これは下弦の半月ですから、ちょうど真夜中に月の出を拝むことになります。


左:松本市四賀。二十三夜塔。
中:塩尻市。廿三夜。
右:安曇野市 穂高。弐十三夜塔。「弐」の字を使ったものは少ない。

古事記に出てくる月読(ツクヨミ)の名を彫ったものもあります。ツクヨミは、アマテラスと同時に生まれた神で、アマテラスが太陽神、ツクヨミが月神と言われています。また二十三夜講の主尊、勢至菩薩(せいしぼさつ)を彫ったものも見かけます。


右:辰野町、月讀尊。
中:辰野町、勢至菩薩。ふつう、蓮華を手にしているのは観音菩薩だが、勢至菩薩でも蓮華を手にしているものがある。
右:安曇野市 穂高。勢至菩薩。頭に水瓶(すいびょう)をつけているのが勢至菩薩の特徴。このビンに入っている水は、けがれを洗い流すという。

ほかに、十五夜、十六夜(いざよい)、十七夜(立ち待ち月)、十八夜(居待ち月)、十九夜(寝待ち月)、二十二夜、二十六夜などの講もあったようです。

十五夜などは、もう宵の口に月が出てしまうので、月の出を待つ行事には適さないように思えます。もしかしたら「月待ち」とは、月を待つというよりも、特定の日に夜明かしする行事だったのかも知れません。


左:佐久市。十九夜塔。東信地方では十九夜塔をよく見かける。
右:塩尻市 北小野 勝弦。廿六夜塔。二十六夜の主尊は愛染明王(あいぜんみょうおう)で、藍染(あいぞめ)の業者仲間が、講を作って月待ちをすることが多かったらしい。

男たちが二十三夜に集まって月待ちをすることが多かったので、女たちは前日の二十二夜に集まって、先に月待ち済ませることが多かったらしいのです。


左:伊那市 長谷。二十二夜塔。
右:伊那市 高遠。二十二夜、二十三夜、二十六夜が併記されている。まとめて石碑を作ったものであろう。

二十二夜の主尊は如意輪観音(にょいりんかんのん)です。如意輪観音は女性の守り神とされ、しばしば女性のお墓に建てられることもあります。


辰野町 平出。如意輪観音。片ひざを立て、虫歯を押さえたようなポーズが特徴である。ただし、弥勒菩薩にも似たようなポーズのものがあるので注意が必要。一般に如意輪観音は六臂で作られるが、四臂や二臂のものもある。専門家でも、如意輪と弥勒の違いは分かりにくいらしい。