仏さまの名前のことを「名号」と言いますが、普通、名号といえば「阿弥陀仏」のことを指してしまいます。そこで、ここでは阿弥陀仏以外の名を書いた石碑を取り上げておきましょう。
ひとくちに仏さまと言っても、如来(にょらい)・菩薩(ぼさつ)・明王(みょうおう)・天(てん)の四つに大きく分かれています。
<如来>
悟りに達した人のことです。歴史上実在した如来は、お釈迦さまただ一人ですが、大乗仏教では、架空の如来がたくさんいます。大日如来、阿弥陀如来などが、よく知られています。
左:岡谷市 柴宮。大日如来。密教系仏教の本尊とされる。日本では、大日如来=アマテラス大神であるという解釈も行われてきた。したがって、仏というよりも、神として祀られることがある。
右:立科町。南無薬師如来。東方浄瑠璃世界の教主が薬師、西方極楽浄土の教主が阿弥陀、とされる。
<菩薩>
悟りに達するための、修行中の人のことです。もともと修行僧のことは比丘(びく)と言ったですが、大乗仏教が起こったときに、旧体制の比丘に対抗して菩薩(ぼさつ)という言葉を使ったようです。大乗仏教には、たくさんの架空の菩薩がいて、観音菩薩、地蔵菩薩などが、よく知られています。
左:塩尻市。観世音菩薩。
中:伊那市 長谷。地蔵大菩薩。お地蔵さまの文字碑は珍しい。
右:安曇野市 穂高。大勢至塔。つまり勢至菩薩のことである。二十三夜講の主尊として祀ったもの。
菩薩の中でも、観音菩薩はさらに細かく分かれています。特に、聖観音・千手観音・十一面観音・馬頭観音・如意輪観音・不空羂索観音は、六観音として知られています。
<明王>
如来の教えに従わない者を屈服させるため、武器を持ち、怖い顔をした神です。不動明王が特に有名です。
安曇野市 豊科。不動明王。
<天>
もともとインドのヒンズー教の神が、仏教守護のために取り入れられたものが多いです。大黒天、帝釈天、弁財天、四天王などが有名です。
左:大鹿村。大黒(だいこく)天。インドでの名前は「マハー・カーラ」。日本では大国主(オオクニヌシ)と同一視される。
中:岡谷市 東堀。摩利支(まりし)尊天。インドでの名前は「マリーシ」。陽炎(かげろう)の神である。
右:伊那市 高遠。水雨天。水天のことか。
守本尊(まもりほんぞん)といって、子年生まれの人は千手観音、丑年生まれの人は虚空蔵菩薩、というように、生まれ年によって守ってくれる神仏を定めたものがあったようです。
現代でいえば「おひつじ座生まれの守護星は火星、おうし座生まれの守護星は金星・・・」というようなものでしょう。日本人は、昔からお守りや占いが大好きだったようです。子 千手観音 丑・寅 虚空蔵菩薩 卯 文殊菩薩 辰・巳 普賢菩薩 午 勢至菩薩 未・申 大日如来 酉 不動明王 戌・亥 阿弥陀如来
辰野町 平出。守本尊の一覧表といったところか。なお、戌亥が阿弥陀如来ではなく、八幡大神になっているのが特徴的。
ちなみに八幡さまは、日本の神社の中で最も数の多い、いわば最大勢力なのですが、いったい何に由来する神なのか、詳しいことは不明なのです。八幡宮とも八幡大菩薩とも言われ、いったい神なのか仏なのか、それすら分かりません。