ダブルドミナントの考え方をおし進めれば、II に対するドミナント、III に対するドミナント、IV に対するドミナント・・・など、さまざまなドミナントがありえます。これらを「借用ドミナント」と総称します。
I に対する属七が V でした。同様に、II に対する属七を V、III に対する属七を V ・・・などと表記し、それぞれ「II度V度の七」「III度V度の七」・・・などと呼びます。ただし長調には V がありません。
属七だけでなく属九の形もあります。
長三和音(I、IV、V)に対する属九は長9度になり、短三和音(II、III、VI)に対する属九は短9度になるのです。ただし、モル諸和音にすれば、すべてを短9度にすることが可能です。
分析の例を示しましょう。T→S→D→T・・・と続くふつうの機能の下に、小さな D → T が組み込まれている様子が分かると思います。
上の例の2小節目・4小節目は、偽終止に分析してあります。広義では、ドミナントから主和音へ向かわない終止を、すべて偽終止と呼んでよいのです。なお、2小節目の V の導音は置き換えられて、3小節目の V の導音は半音変化して、それぞれ導音の性質を失っているのが分かると思います。
それでは次の和声を読んでみて下さい。
短調では、導音を含まない「短調本来の和音」に対する属七を考えるのです。短調には V がありません。
属九の形も示しましょう。
次の和声を読んでみて下さい。
なお、ドミナントが V → I と進まずに V → VI と進むことがあるように、借用ドミナントが本来の強進行をしない場合が、ときどき見られます。これを「借用ドミナントの V → VI 用法」と呼びたいと思います。