筆者は教師を勤める中で、伴奏譜のない歌に、その場で伴奏を付けることを長年やってきました。その経験を書いてみたいと思います。
・歌のメロディーは、順次進行が多い。
・順次進行とは、すなわち音階である。
・よって、音階に和声を付けて弾く練習をしておけば、たいていの歌の伴奏ができる。
たとえば、次に示すのはハ長調(C:)の音階です。
これに、次のように和声を付けることができるでしょう。伴奏用の和声は、ふつうの和声とは違い、あまり禁則にはこだわりません。連続8度・5度や、進行規制音の違反などは、それほど問題にならないのです。
これを弾けるようにしておくと、メロディーにその場で和声をつけることが、ある程度できるようになります。メロディーが、
ドならば I
レならば V
ミならば I
ファならば IV
ソならば I
ラならば IV
シならば V
・・・というルールが、何度も繰り返して弾くうちに、体にしみつくからです。次のメロディーを例にしましょう。日本で最も有名な唱歌のひとつです。
原則として1小節に1和音を付けるのですが、不都合なところは1小節に2和音を付けます。マルを付けた音です。
第1小節はドだから I、第2小節はレだから V、というように付けてゆくと、次のようになります。
どうでしょうか。そんなに間違った和声にはならないでしょう。というよりも、じゅうぶん実用になる方法だと思います。次のように、「ばらし伴奏」や「きざみ伴奏」にすることもできます。メロディーの動きを考えずに伴奏できるので、こちらのほうが楽です。
以上のようなやり方は便利ですが、少々乱暴なような気もします。いつでもドなら I、レなら V、というルールで押し通すのは、無理があるからです。そこで、いくらか改良したのが次のような音階です。
たとえば次のように和声を付けて弾く練習をするのです。
メロディーが、
ドならば I か I か IV
レならば V か II
ミならば I
ファならば IV か V
ソならば I か V
ラならば IV
シならば V
これで、和声づけの可能性が、わずかですが広がるはずです。この音階のよいところは、短調でも同様に和声づけができることです。
弾いているうちに、いろいろ工夫を加えたくなるはずです。たとえばダブルドミナントや、モル諸和音を使ってみたり、
ナポリの6や、ピカルディーの3を使ってみたり、
以上のように、ひとあじ加えることができるでしょう。こういった工夫は終止付近に多いので、「終止には作曲家の個性が表れる」とさえ言われています。
さらには「きざみ」にしてみたり、
外音を入れてみたり、
弾き込むほどに、いろいろやってみたくなるでしょう。そうやって、普段から自分を鍛えておくことが大切だと思います。
24のすべての調で弾けるようにしておけばベストですが、しかし、そんなに音階ばかり弾いても詰まらないですから、せいぜいハ長調の近親調(C: d: e: F: G: a: )と、変ロ長調(B:)、ハ短調(c:)くらいを弾けるようにしておけば、じゅうぶんではないでしょうか。
人間ですから、得意な調・苦手な調があって良いのです。ある程度マスターしたら、簡単な唱歌などで、伴奏づけの実際の経験を積んで下さい。