空には羊(地には…猫)
きみに問う その夏のこと けれどみな かりそめのことすぎてゆくこと
そして話そう川面も丘も雲の陰におおわれていったあの夏のことを
あの夏を忘れてしまうあなたさえふと ふりむいた雨 そして雨
ちちははよ むかしのねこよ そしてきみも過ぎてゆく日々 さらば夏の野
陽が翳る野の果てをうつすねこの瞳が暗くひろがるそして風がくる
雨の兆し 風 紗にはらむカーテンに猫の戯れすこし気疎く
ひとは消え暮れる海 凪ぐ音もなくねこあゆみさる夏の終わり に
うすあおくまたたくまひるの星群か水のような目は何をみている
十月の空に枯葉がたかく舞うきょうはいちにち眠っていよう
捨子ひとりとりのこされて残照のなおあかるむか北を仰ぎ瞰る
金の輪がどこかで鳴るよつれられてゆく子らたちのしろい夕暮れ
彌撤はふる雨のごとくに声は遠く祈りを忘れ屋根をあるいた
精霊降誕せよなおも降り積む雪にあゆめ捨て猫ひとり胸に抱けば
銀の峰そらにつらなるひとりたてば冬野はかわく夏のごとくに
見てごらん空が低くなる風がはう麦の茎折れ砕かれる蝶
よこたわる場所を求めて草の底に 出発のまえすこし眠ろう
硝子のまちにこどもの影は走り去るもはやすべては…とまること…なく…
ここにいないものとなること いつの日か あとかたもなくきえてゆくこと
消えたぼくのボストンバック忘れられて陽をあびている その道の終り
きみに繋ぐ林檎の回路風は起これ草地にねむるゆめの羊に
ゆうぐれに炎雲ひとつゆきすぎて あとはもうなにも見えなくなって…
ひかりを孕む水晶をひとつ投げあげて春にひろげる空に波紋を
糸を断ち無限にあがる風船の晴れわたりゆく青空の死は
風船にとどかなかったゆびさきにいま春空は藍に極まる
いまふいにみあげた そして ゆびのさきが風の瞳にふれようとした
けれどいつかつかのま春も過ぎてゆく丘の空にはちいさな羊
この作品群は早稲田文学に掲載したものを一部あらためてあります。
BACK