好き勝手設定でやりたい放題です。
うもの死後(葬式の描写有)のお話で、彼の家族が出てきます。 自分的にうも(うもに?)です。殴ってくれ



悪魔くんが死んだ、というのを聞きつけて、走ってここにやってきた。

くそ、砂利道は走りにくい。
これだからニッポンは…。




三途の川縁




「もう死ぬんだって思った時は、死ぬほど苦しかった」
と、はにかむから


ばか。死ぬんだから、当たり前じゃん、とおれは返した。


「でも…最後に深く吸った空気は、すごくおいしかったな」




彼のいまわのきわに、こっそり忍び込んだことを
きっと 彼は 知らない。


おれは、この日を待っていたのかもしれない。


しっかりやれよ。母さんを大切にしなさい。
彼の最期の言葉だ。

彼が、彼の息子に見せたまなざしは
おれの親父が、俺にみせるのと、おなじものだった。


おれはそれが少しかなしかった。
だって、その間に おれ、入れないじゃんか 悪魔くん。
そんな目、すんなよな。
そんな目で、見んなよ。



たわいものない話をしているうちに
いつの間にか悪魔くんの歩んだ人生の話になっていた。


結婚したんだな、とおれ。

「招待状、出したじゃない。来てくれなかったくせに」
と、悪魔くん。


彼が結婚してから
おれは人間界に行かなくなった。




奥さん、泣いてたな。
「うん、泣いてたね」

彼の奥さんは、悪魔くんとおれのことを知らない。

でもおれは、悪魔くんと奥さんのことを知っている。


「こどもをね、どうしてももうけたかったんだ」

そんな言い訳みたいな言い方すんな。

「ーー子にはね、本当に感謝してるんだ。
今までよくやってくれたし、それに…」

「…これからどうすんのさ」
なんだか悪魔くんの話を聞きたくなくて、会話を遮った。
思ったより大きな声が出て自分でも驚いたけど。


彼はこれから『人』としての輪廻からはずれて
『悪魔くん』としての道を歩む


「博士みたいに寿命を延ばしてもよかったんだけど、
埋れ木真吾としての人生を歩んでみたかったんだ」

埋れ木真吾としての人生に彼の家族は寄り添った。
だけど、おれはそこに存在しない。

『悪魔くん』の道を歩む彼は、彼の家族が天寿を全うして、ここに来ても
もう会えることはできないだろう。

そうなることがわかっていて
いや…わかっていたからこそ、彼は家族をもったのか。
おれはこわくて 聞けなかった。


「さて…ぼくは久しぶりに『見えない学校』に行ってみようかな」
おれのこころを知ってか知らずか
彼はいつもどおり、飄々としていた。

「メフィスト二世も行くかい?」
と聞かれたので
あとで、とだけ答えてその場を去った。




彼と別れたあと、そっと人間界に降りてみた。


火葬場の煙突から、彼を焼いたしろい煙が、天に向かってまっすぐのびている。


そのうちに、きらきらしたものがふってきた。

きらきらは、彼の家族にふりそそぐ。
誰の目にも見えていないようだった。

彼の奥さんはやっぱり泣いていた。
その細い肩に、きらきらはどんどん降り積もる。
彼女が震える度に、きらきらも一緒に揺れ、音も立てずにこぼれ落ちた。


おれはこの日を待っていたはず だった、のに


淡いひかりを放っているそれを、俺は見ているだけだった。
少し離れたところから、黙って見ているだけだった。




読んでくれてありがとうです
悪魔くんと、その家族に少しばかりの嫉妬と羨望と…色んなものがないまぜになった、
複雑な感情を抱くメフィスト二世のお話でした