東京医科歯科大学歯学部歯科麻酔学講座      相澤 

【要約】 74歳男性の下顎歯肉癌に対する下顎骨辺縁切除術,および全頚部郭清術の全身麻酔中,急激な血圧変動により冠動脈攣縮発作を疑わせる心電図所見を呈し手術を中止せざるを得なくなった症例を経験した.既往疾患としては,糖尿病・前立腺肥大・パーキンソン病があった.心電図上で低電位,陳旧性前壁心筋梗塞がみとめられたが,心エコーでは梗塞の所見はなかった.全身麻酔導入後1/20万分の1エピネフリン含有1%キシロカイン26mlを局所注入により血圧上昇,心拍数が増加をきたしたため,ニカルジピンを投与した.血圧は急激に低下した.そこで塩酸ドパミンを持続注入し,血圧の維持を図った.その後,手術初期の段階でST部分の上昇が起こり,冠動脈攣縮が疑われた.ニトログリセリンとジルチアゼムの持続投与により,ほぼ正常の心電図に回復したが,再発作の恐れがあるため,手術を中止し内科へ搬送した.幸い,再発作はみられず良好な経過をたどった.

 今回の発作は,局麻後に血圧の上昇と頻脈が起こり,心筋の酸素消費量を増大させたこと.ニカルジピン投与による血圧低下が冠血流低下を招いたこと.塩酸ドパミンが,心筋酸素消費量の増加を起こしたこと,などが原因と考えられる.さらに糖尿病による動脈硬化,加齢による予備力の低下,冠動脈狭窄が冠動脈攣縮を起こしやすくさせたと考えられた.

2001年 歯科麻酔学会誌
より

山梨保険医協会 共立歯科センター     相澤 梅北 林

【抄録】歯周病の治療が本格的に本邦に導入されてから、約30年になろうとしているが、現在最も難治性の歯周病の一つに、若年性歯周病がある。決定的な治療法が、未だ確立されていないのが現状である。また一方、Guided Tissue Regeneration(GTR)法は、技術力を必要とし、適応制限があるが、歯槽骨の再生が確実に得られる方法である。
 当院では、若年性歯周炎の患者が、治癒せずに成人性歯周炎へと移行し、更に重度の歯槽骨の破壊が予測される何人かの症例において、このGTR法を用い、ほぼ100%の治療効果を得、多量の歯周組織の回復が得られた。
 若年性歯周病は、遺伝的要素が高いといわれ、一般的治療では効果のない症例も多い。このため本報告では、具体例を挙げると共に、限定的GTR法の保険導入の可能性も示唆していきたい。

2001年 保団連 札幌
より












2003北海道歯科学術大会にて

目的:抜歯即時荷重型インプラント埋入手術は,比較的予知性の高い治療法として,多数有用性を示唆する報告がなされているが,考慮すべき問題点において明確な指標が得られておらず,様々なトラブルが生じることがある.今回,インプラント即時埋入後,テンポラリーアバットメント上にプロビショナルレストレーションを装着し,治癒期間を経た後,上部構造製作時に,アバットメントスクリューの撤去が不可能となった症例を経験したので報告する.

症例の概要:患者は30歳女性,上顎右側犬歯に先欠があり,乳犬歯の動揺があり,同部の欠損補綴を希望して来院した.20059,局所麻酔下にて乳犬歯の抜歯後,XiVE Implant3.8-13mmを抜歯窩に埋入,同時に付属のチタン合金製テンポラリーアバットメントを利用し,専用のキャップ上にプロビジョナルレストレーションを装着した.術中,術後の経過は良好であった.3ヶ月の治癒期間後,最終印象時にアバットメントスクリューが強固で,撤去不可能であり,更にスクリューが変形してしまったため,カーバイドバーにてアバットメント上部をフィクスチャー接合部2mm上部まで削除した後にプライヤーにてスクリューが撤去可能となった.
結果:テンポラリーアバットメントとスクリューの変形が認められたが,フィクスチャー接合部に変形は認めず,最終的に審美機能共に問題のない補綴が装着され,現在まで経過良好である.

考察および結論:本症例ではアバットメントとフィクスチャーの硬度差や暫間スクリューの直径が細い事に原因があると考察された.即時荷重の術式は利点も多いが接合部のシステムや暫間補綴物の強度,治癒期間の咬合などによりトラブルに見舞われることがあるため,留意すべきであると思われた.