『その1・再会、幼馴染。』 ──神様。 私のはばたき市での生活は、常にデカいモノに遭遇しなければならぬという 試練が付き纏っているとでも言うのでしょうか。 「……あぶねえな、おい」 おろしたての制服に身を包んだ私が、玄関を出て門を抜けた刹那。 目の前を突如衝撃とドスの利いた声が、朝っぱらから私を威圧して参りました。 いつぞやの海岸での悪夢がよみがえり、私の身体はパブロフの犬の如く硬直してしまう。 「ご、ごめんなさい…」 頭約ひとつ分高さを誇る男に凄まれた私は、下手に反抗するのはマズイと判断してひたすら謝罪に徹した。 「あの、私、これから学校に行かなきゃいけないんですけど…」 「……」 しどろもどろに切り出す私を見下ろしながら、やがて男は深く息を吐くと、 「…見ろ。ビビってんじゃねぇか。どうすんだ」 「やっぱさ。コウの顔が怖すぎるんだよ、絵に描いたような悪人面だから」 「……テメェも人のコト言える面かよ」 記憶に新しい声を耳にした私は、顔を動かすと大男の背後から顔を覗かせてきたもうひとりの男に 視線を移した。 「あなたは…昨日の?」 「ふたり一緒なら思い出すと思ったんだけど…ダメ?」 「え…?」 彼の言葉に、私は遠い記憶と昨夜の夢を脳裏に思い浮かべると、次の瞬間反射的に声を上げていた。 「Oh,my …You have go to be kidding me(ウソ…マジで?)……」 「…何?」 「あ、ううん。あなた達…ひょっとして、ひょっとしなくても琉夏くんと琥一くん?」 「ああ」 「うん。…お帰り、礼緒(れお)ちゃん」 思いもよらぬ再会に、私は複雑な笑いでふたりの幼馴染に応えていた。 それから学校までの道中、私はふたりの兄弟とそれぞれの近況について話をした。 ──もっとも、寡黙な琥一くんの代わりに琉夏くんがひっきりなしに喋っていたのだが。 「そういえば礼緒ちゃん。さっき英語喋ってたみたいだけど、俺達と別れた後に外国でも行ってた?」 「いいえ。でも、向こうではずっとインターナショナルスクールに通ってたの」 「へえ、何だかグローバルでカッコイイ」 「そんなイイもんじゃないわよ。まさか、日本の高校に進むなんて考えてなかったから受験勉強 大変だったし。はば学は私立だから何とか受け入れてくれたけど、公立じゃムリだったでしょうね」 「でも、そういうスクールって高等部もありそうなモンじゃない?」 「…おい、ルカ」 やや突っ込んだ質問に、私達の前方を歩いていた琥一くんから諌めの声が飛んでくる。 「『……いいだろ、別に。そういうケースもあんだよ』」 先程私が彼ら兄弟について、少々不躾な事を訊いてしまった時に返って来た琥一くんの口真似をする と、ふたりは僅かに表情を歪める。 「…うふふ。ゴメン、冗談。まあ、どちらにしろ引越しで通えなくなったからね」 通いたかったけど通わせてもらえなかった、などの細かい描写は全部端折って、私は努めて幼い頃の 自分を思い出しながら、あっけらかんと答えてみせた。 久しぶりに会う彼らは、昔と同じ所を探す方が少々困難なくらいの変貌を遂げていた。 しかし、それは私にも言える事で、『マリア』をはじめとする私の奥深くまでは彼ら兄弟を介入させ るつもりは毛頭なかった。 子供の頃とは違うし彼らにも彼らの生活があるのだから、変に干渉されない為にもお互い程々の距離 で付き合うのが丁度良いのかも知れない。 しかし、彼ら兄弟との再会が、私の心にほんのりと温もりのようなものを 与えてくれたのも、紛れもない事実であった。 |