嘘と真実と願いと祈り
初詣の後日談











「ぁぅんっ……ぅぅ…」
 裂く程開かれ、膝が胸まで屈曲する程淫猥に押し開かれた肉の奥から、ズルリと、肉を逆撫で出て行く濡れた生々しい感触に、新一は服部の肩に爪を立て、ソレを拒んだ。
 喘ぎとも苦痛ともつかぬ曖昧な声が、室内に淫靡に響く。
「なんや?まだ欲しいん?」
 ギリッと肩に爪立てるネコのような仕草に、服部は腰を引き、柔肉の奥から萎えた自身を引き抜くと、抱え上げた細すぎる腰を戻し、下肢を開放する。
 刹那にクッタリと力の抜け落ちた姿態は、けれど深すぎる官能に埋没したまま、快楽の余韻を貪っている。
 白痴になった瞳は法悦の深さをそのまま現して、ヒクリと顫えている華奢な躯を見下ろすと、服部は深い笑みを湛え、ゆっくりと覆い被さった。覆い被さり、耳朶を甘噛み囁くと、
「バ……ロ……」
 ヒクリと薄く細い肩を竦め、吐息を朱に染めたまま、新一は覆い被さって来る体躯の肩口に爪を立てる。
 未だ下肢の間には自分を抱く男の身を挟み込んだまま、新一は躊躇いなく白い下肢を開いている。抉られる程薄い腹には自ら滴らせた粘稠の白露で身を穢し、スラリと伸びた白い下肢は、服部が新一の内部で達した証拠の熱が、伝い流れている。
「……念願の姫初めは、どうだったんだよ…」
 散々に喘いだ証拠に掠れた声で囁くと、服部は意味深に笑い、
「未だ欲しい言うたら、どないするん?」
 耳朶から首筋に愛戯を繰り返し囁いた。囁き際に腰を押しつけると、ヒクンと身の下の姿態が顫えるのが判った。
「んっ…」
 白い喉元が僅かに撓い吐息を吐く様は、仄かな明かりだけが満たす室内で、ひどく淫靡で濃密な気配を曝し出す。 
「新一……」
 腕ごと抱き締め、細腰を浮かせる格好で抱き上げると、下肢を押しつける。
「ぁん…や…」
 自然開いた下肢は片膝が立つ格好になる。腰だけが持ち上げられる有られない格好に、抑まらない熱が意識を引き千切っていく。元々この状況で、まともな理性など必要とはされない。
「まだ、イケるん?」
 細腰を抱き上げる片腕がツッと双丘の奥を伝い降りる。自らが新一の内部に放った残滓で濡れるソコは、喘ぐように開かれたままだ。擽るように指で縁を淫靡に撫で回す。
「ヒッ…やっ…服部……」
 腕まで拘束され、頑是なく細い首を打ち振って抗議する。清潔なシーツはクシャクシャに乱れ、二人分の精液を吸って寝乱れている。細い下肢がシーツを蹴って、尚乱していく。
「ちゃうやろ?」
 焦らすように秘奥の周囲を撫でていると、新一は怺えられないどはかりに膝を立たせて腰を喘がせる。まるで娼婦のような淫靡さのくせに、それでも。誰の手垢も付いていない気分にさせられるのは毎回の事だ。だからこそ、夢中になる。穢れて尚高潔に佇む新一を、溺れさせたくなるのは、服部が十分新一に溺れている証拠だろう。
「あっ…や…ダメ…平…次…」
「ダメ?腰喘いでるで?」
 グイッと細腰を突き出す格好で抱き上げると、互いの昂まる熱が擦れ合う。その生々しさに、新一は細く高い悲鳴を放って喘いだ。イク寸前の切なげな表情は、雄の嗜虐を十分煽情する被虐さが備わっている。
 不思議だと思う。事件に関われば、その気配は真冬の月さながらの凛冽さと冷冽さを滲ませるのに、情事の最中は堕ちた娼婦の淫靡な色香が全面に出る。そのくせに、堕ちた娼婦こそ高貴だとでもいうように、穢がれた静謐さを滲ませるのだ。まるでコインの裏表のようだと服部は思う。
 処女と娼婦は同義語で、堕ちた娼婦こそ高貴を纏う。新一を視ていると、清潔と淫蕩が成立する気分にさせられて、だから時折怖くなるのだ、抱きながら。
「ンンッ…や…」
 グッと押しつけられ、雄の肉の欲望を粒さに感じさせられて、敏感な肉体は極まるのは早い。それが自ら欲する男なら尚更だった。
 紅潮した頬。ネコのように爪たてる仕草。嫌々と緩慢に打ち振られる細すぎる白い首。肉色の舌が口唇を舐める仕草は淫靡で妖冶で、どれもが雄を挑発する被虐が滲んでいる。
「あっ…ィ…ちゃ…ぅ……」
「ええよ」 
 うわ言じみた言葉に、スルッと新一の熱に手を添えると、新一は掠れた悲鳴を上げ嫌がった。
「…平……平…次…」
 ギュッとしがみつくように爪を立て、朱線を描くのは新一の癖だ。
怺える事も躊躇いもなく絡んでくる下肢。聖人君子ではないと言った新一は、確かにそうなのだろうと服部は思う。素直に欲してくる媚体に魅せられるのは、服部の方だ。
「…ぅん…もぉ…」
 ゆっくりと内部に侵入をはかる、節の有る長い指の感触に悶絶する。肉の奥から這い出てくる愉悦を怺える術など、新一には何処にもなかった。
 焦らされる感触に、泣き出したくなる。今夜は特に服部は慎重で、だからこそより生々しい快楽に歔かされてしまう新一だった。
「もぉ…挿れろ…よぉ…」
 指を根元まで埋没させ、肉の奥を掻き回していく淫猥な指の感触に、狂わされる。
跡を残されている肉襞は、けれどしっとり指に吸い付いて締め付ける。纏わりつく柔肉を押し開くように3本の指で捏ね回すと、新一は濡れ掠れた悲鳴をあげ、嫌々と媚体を捻って悶絶する。悶絶し、未だ首筋から胸元に執着して色濃い情交の跡を残している服部の背に、思い切り爪を立てる。
「っ痛ッ、コラ工藤」
「…お前ぇが悪い…」
 快楽の涙が滴る眼差しが、それでも気丈に睥睨するあたり、新一なのだろう。
「欲しいってんだ、バーロ……この悪党…」
「悪党ってな…」
 新一の、情欲に濡れた淫靡に染まった貌を見下ろすと、陶然と染まった眼差しが睥睨してくるのに、服部は溜め息を吐いた。 
 嫋々に啼き、淫蕩に耽溺しているくせに、こんな時ばかり相変わらず気丈で勝ち気な恋人に、服部は少し脱力した。
「失神する程抱くんじゃなかったのかよ」
 気丈に睥睨する眼差しが、刹那に反転する。力の抜けた腕が、情欲に歪んだ精悍な貌を包んだ。
「言葉の文やろ」
 困ったような苦笑を刻み付ける様はひどく大人びて視えた。
「抱けよ、姫初めだろ…?」
 唐紅に色付く口唇が、挑発めいて酷薄に笑う。淫靡で艶冶で、雄の嗜虐を煽情する。
「後悔するで?」
 言い様、スラリと伸びた白い下肢を押し開き、抱き上げる。
「んっ…」                       
 有られなく開かれていく下肢。
「お前ぇ相手にするかバーロー」
「えらい告白やな、新一」
 繰り返される睦言はいつもの事だ。情事の最中、新一はいつだって隠さない。その情欲の深さを。
 下肢を裂く程開き、膝を胸元まで押し開いて屈曲させる。腰が浮く程羞かしい格好を強い、それでも、新一は動揺も躊躇いもなく、酷薄な口唇に挑発めいた妖冶な笑みを刻み付けている。
「お前なんていつだって、俺の事ばっかで」
 開かれていく下肢。押しつけられる肉の熱さに、クラリと懊悩に眩暈さえする。
縁を撫で埋没してくる肉の熱さに、言葉は其処で途切れ、嫋々の嬌声に変わった。
「新一……」
「ぁぅん…ぅぅん…ィィ…」
 グッと押し込められてくる雄の欲望に、肉の奥を暴かれていく官能に身が融けていく生々しさ。情欲は、互いの血肉の奥から引き出されていると、いつも思う。意識も意思も混融する心地好さは、愛しているからなのだろう。
「平…次…」
 堅く熱く屹立する欲望は、圧倒的な威力で肉の奥を暴いて行く。肉の芯を犯され、血が沸くかのような生々しさは、骨が砕けて溶けていくような感触だった。
 抱かれ慣らされ、躯を開かれると言う意味を教えられた。抱き合う意味も愛し合う意味も、新一は服部に教えられた。それは新一には未知の感覚で、推理の延長線上に存在する、他人の見知らぬ感情でしかなかったからだ。理解していたのはそういう感情や想いや行為が存在する事、そういう事だった。けれど今は違う。服部を愛し愛され、その意味も何もかも、澱んだ想いさえ知る新一は、確かに成長したのだろう。
         










「大丈夫か?」
 心配そうに覗き込んでくる服部に、新一は『水』と、掠れた声で要求すると、ミネラルフォーターの入ったミニプラボトルに口を付け、服部は口移しに新一に水を流し込んだ。
「お前さ……」
 もっとと、ねだると、服部は笑って新一に水を口移しで飲ませていく。
「昼間、黒羽達と、下らんねぇ事、話してただろ」 
 疑問符の付けない台詞は、断定的だ。
「別に、何も話してないで?」
「嘘付くなって。まったくお前といい、黒羽や灰原といい」
 先を歩いていた自分の後ろで何が話されていたのか、詳しい内容までは判らない。けれど、彼らの表情から察する事は可能だった。
「だったら工藤も、内緒ごと、あらへん?」
「んなもん有るに決まってんだろ?」
 意味深に忍び笑う。情事の最中の淫靡な貌と似通った挑発めいたソレ。
「普通ないって言うんやないか?」
 コツンと、白い額に自らの額を押し当てる。眼差しを覗きこめば、やはり可笑しそうに笑っている。
「ないって言って欲しくなんてないだろ?」
「ほんま、タチ悪いで、自分」
「悪党のお前が言うな」
 クスリと笑うと、次には眼差しが反転していた。
「道ずれにしてやる。言っただろ?」
 自分の心配ばかりで、どんどん優しくなっていく恋人。そのくせに、何一つ返してやれない。疵ばかりを与えてしまう。自分の為になら、変わってほしくはなかった。誰にも、そう願う。
「その言葉が、ホンマならな」
「疑うなよ。信じる者は、救われるらしいぜ?」
「別に俺は、見知らぬダレかに、祈ったりせぇへんよ。だから言うたやろ?お前に誓うて」
 新年早々に交わした約束はたった一つだ。
「だったら、お前も忘れんな」
 命果てるまで共に。返された言葉は、命果てても共にという言葉。
叶わぬ望みに縋り付きたいと、フト思う。
 下らない感傷と、切って捨てる事は容易い。けれどその感傷が甘いから、手放せない。苦しめると判っていて尚、手放す事はできないのだから、自分は傲慢的に狡い人間なのだろうと新一は思う。
「疑うなよ」
「人でなしなんは、工藤の方やな」
 正確に眼球の中心を射抜いてくる眼差しの深さに、一瞬の痛感を感じた。
蒼味を帯びた眼差しは瞬きを忘れ、ジィッと凝視してくる。  
 フト、願いが込められている眼だと感じた。
変わるなと、以前に言われた言葉を思い出す。それは願いと祈りが込められていた。
「別に俺は救われたいなんて思ってないんやけどな」
「服部……」
「堪忍な……」
 それはきっと、新一の逃げ道を塞ぐ言葉だと知っている。告げながら、ひどい台詞だとの自覚もあった。
「バーロー」              
 逃げ出してくれたらと思う。そうしたら、この痛みは少しはきっと減るのだろう。その反面、まったく相反する感情も存在している事を、新一は理解している。哀しい程に。
 いつかきっと、それはそう遠くない未来。告げなくてはならない言葉が存在するから、今はこのまま互いを誤魔化していてもよいのかもしれないと、フト思う。
『命果てても共に』
 その言葉が胸の裡へと落ちていく。痛みと甘さと、幾許の恫喝を孕んで。 
言霊があるのなら、願い続けて真実になるのなら、きっとこの胸が痛む事はないだろう。
「道ずれに、してやっから」
 嘘と願いと祈りをこめ、心配気に覗き込んでくる大人びた貌を包み込む指先に力を込める。
「忘れんといてな、約束やで」
 嘘つきやな工藤。そう笑うと、服部はねだる仕草で求めてくる恋人に、接吻た。





『忘れないで。自分の為に貴方達が変わる事があったら、あの人、消えるわ。痕跡一つ残す事なく』
 哀の言葉が胸の奥で甦る。
 甘い接吻が、泣き出したくなる程痛く感じる。それでも抱いた腕の感触は甘くて切なくて、服部は新一を抱く腕に力を込めた




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